第29話

「やったー! Bランク昇格ー!」

「おー! 凄いな、まだ所属して一週間じゃないか。俺の記録を更新したぞ」


 主都に移り住んでから一週間。毎日楽しそうに魔物を狩ったり、友人と共に採取依頼の為に近くの森に出かけていたリヴァだが、なんと早速新人卒業、Bランクに昇格した。


 いや当然といえば当然なのだが。

 ステータスも仮にゲームならかなり育っているだろうし、俺も剣術の基礎を教えていた。

 そこに武器を新しくし、どんどん成長しているからな。


 何よりも、既にベテランと言ってもいいくらいの知識量だ。

 毎日沢山勉強していたからな、魔物や薬草、その他一般的な植物や鉱物についても。

 恐らく腕前と同じくらい、任務達成の質が評価されているのだろう。


 冒険者ギルドの中、嬉しそうな声を上げる彼女に向かい、何人かの冒険者が祝福の言葉をかけていた。もう、すっかり彼女はここの名物になっている。


 そりゃあ可愛いし強いし、性格もいいからな! ただしガードが堅いので、基本男と食事には行きません、俺の教育のたまものです。

 ……複数人のグループでなら行っているらしいが(シグト含む)。


「そ、それでなんだけどね? 明後日までにその……宿と長期契約結ぶか、空き家を借りないといけないんだけど……ケイア! お家賃しっかり払うから家に住まわせて!」

「いいよ」

「え、本当に!?」


 こら、俺を睨むな周囲の男ども。

 この子は俺の大事な娘だぞ、変なこと考えるんじゃない。


「勿論構わないよ。言い出されたら許可するつもりだったんだ最初から。ただ一人で暮らしたいかもしれないと思ってね、黙っていたんだ」


「ケイアと一緒が良い! ご飯美味しいし、家に男の人がいた方安心だもん」


「まぁこちらとしても安心だからね。んじゃ、住む場所の届け出をギルドに出したら行こうか、案内するよ」


「そういえばケイアの家ってまだ行ったことないんだよねー。私、依頼終わったらすぐ寮に戻るか訓練所に行っちゃうもん」




 手続きを済ませ、早速俺の自宅がある区画、魔術師や錬金術師といった、研究職の人間が多く住む、静かな住宅街へと向かう。


「へー、こっちって冒険者じゃなくて、魔術師さんが多いのね? なんだか意外ー」


「まぁ、家を持ったのは商人になってからだからね。こっちは静かだし、結構良い物件もあるんだ。お金はかかるけど、これでも稼いでいる方なんだよ、俺」


 色々契約金やらなにやら、勝手にお金が入って来るんです。

 ……黙っていよう。


 この辺りは自然も多く、羽振りの良い研究者や術者が多く、中には貴族が別荘として空き家を借りている場合もある。実は俺の住んでいる家も、元は貴族の別荘だったらしい。


 まぁ隠し通路やらなにやら、普通の人間が使わないような設備も完備されているし、そうだろうなぁとは思っていたが。


「うわ! おっきい! 豪邸だ豪邸!」


「いや、見た目は大きいけど、商売道具とか資材、商材を保管しているから半分倉庫みたいなものだよ」


「それでも私の実家よりおっきい! すっごーい……それにメイドさんまでいる……」


「え?」


 メイドなんて雇っていないぞ?

 一体何が見えたんだリヴァ……ちょっと怖いのでそういうこと言うのやめてください。


「え? だってほら、家の前にメイドさんが立っているよ?」


「ありゃ、ほんとだ」


 普通に立っていました。

 しっかりとメイド服、黒の比率の高いメイド服姿の、黒髪の女性が家を見上げていた。

 ん? あれってもしかして……前に鍋に大量の具を投入して去って行った人では?


「すみません、我が家に何か御用でしょうか?」


「あら……貴方様は先日お会いした、具無しスープの方ではありませんか。あれから、きちんと栄養は摂っていらっしゃいますか?」


「あ、その節はどうも……じゃなくて、どうしたんです? ここ、俺の家なんですけど」


 どこか陰のあるような、けれどもはっきりと物を言う人だ。


「いえ、良い家だなと思い、つい足を止めてしまいました。……ええ、それだけです」


「あ、お姉さんもそう思いますか!? 庭もあるし、お洒落だし、良いお家ですよね!」


「……ええ。なるほど、奥方様でいらっしゃいましたか」


「え!? ち、ちがうよ? まだ恋人ですらないよ?」


「あら……ふふ、そうでしたか。それは失礼しました。申し訳ありません、ご自宅の前で不審な行動を。すぐ、立ち去りますので……」


 そう言うと、美人なメイドさんは優雅に立ち去っていった。

 ……只者じゃないな、あの足運び。


 だが……知らないぞ、あんなキャラクター。

 ただの原作未登場人物にしては妙にキャラ立ちしているというか……。


「あ、ケイア。そんなにあのメイドさん気になるんだ? そうだねー、美人さんだし、スタイルもよかったし、大人の女の人って感じだったもんねー?」


「あ、いやそうじゃないよ。ただ美人ではあったね……妙に目を惹くから、何者かと思ってさ。黒髪なんてこのあたりじゃ見たことないから」


「あ、そういえば。んー……でも獣人だと、黒い毛の人もいるよ?」


「けれど、あの人にはそういう耳も尻尾もあるように見えなかったからさ」


「あ、そっか」


 ふむ……ファンタジー作品のお約束『東方の島国』という設定は確かに存在する。

 だが黒髪でも、あの顔立ちはどう見てもアジア系に該当しないしなぁ。

 ……まぁいいか、そういう人だっているってことで。


「さて、じゃあ気をとりなおして我が家へようこそ! 家賃は約束通りしっかり貰うからなー。一月辺り三〇〇〇レインだ! 水もお湯も台所も自由に使っていいからね」


「わ、安い! そっか、この家ってお湯の出るシャワーがあるのね! 素敵ねー」


「ふふふ……違うのだよリヴァ君、まぁ入って入って」


 そのままリヴァを家の中に連れ込み、自慢の露天風呂を披露する。

 元日本人として、これは抜かせないのだよ。

 土地もあるし、便利なマジックアイテムだってあるのだ。再現しないはずがない。


「うわー! 贅沢ものー! こんなお風呂あるなら入りに来ていたらよかったー!」

「はははは。じゃあ、リヴァの部屋へ案内するよ」


 そうして、彼女に空き部屋を与え、これからの生活について話を詰めていくのだった。






「なるほど、じゃあ来週末の収穫祭で、ビギナーリーグに出場するつもりなんだね」


「そう! もうエントリーしちゃった。予選は私、Bランクだから免除されるんだって」


「なるほど。じゃあ当日は俺も応援に行かないとな。大会には主都だけじゃない、西の砦や港町を拠点にしている人間、それに他大陸から腕試しにくる人間もいるんだ。無論、王都からもね。いくらビギナーリーグとはいえ、油断は出来ないぞ」


「へぇ……そっか、拠点ってここだけじゃないもんね」


「そういうこと。それに、あまりメジャーじゃないギルドが名前を広める為に出場することもある。ビギナーは基本、ギルドに初めて所属してから一年以内の人間限定の大会だけど、中には王国騎士団上がりの人間もいる。きっと強い人もいるはずさ」


 とは言え、正直ミスなくビギナーに出場すれば、問題なく優勝出来ると思う。

 ……絶対エキスパートには出場させないからな、ミスは許さんぞ。


「じゃあ来週末まではそうねー……時間がかかりそうな依頼はやめた方が良いよね? Bランクからは強いモンスターの討伐とか、離れた場所の採取依頼も受けられるのだけど」


「じゃあ、大会が終わったら東にある『エベルの町』へ向かう依頼、受けて貰おうか。あそこは良い染料を扱っているからね、俺も仕入れに行きたいと思っていたんだ。俺からリヴァへの指名依頼ってことでどうだい?」


「わーい指名料で多めにお金もらえるぞー! じゃあ約束ね、ケイア」


 うむ、ちゃっかりしていて可愛い。

 そしてこの時期にエベルの町に行くことで、ゲームだったらイベントが発生する。

 上手くすれば……リヴァ用の良い装備品を手に入れるチャンスも巡って来るのだ。


「ふふ、毎日本当楽しいなー! じゃ、今日から宜しくね、ケイア!」


「ああ、宜しく頼むよリヴァ。じゃあ早速で悪いんだけど……俺、今夜はちょっと人と会う約束があるから、夜は留守番、お願い出来るかな?」


「うん、いいよ。ご飯は私が作るね、ケイアの分もいる?」


「んー、俺はいいかな。たぶん食べてくるから」


「おっけー! ふふ、なんだか本当に新婚さんみたいね?」


 おお、それは光栄な。可愛いこと言ってくれますね君は……。


「ははは、そうだなぁ」

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