第23話

「どういうことなんですか……また戻って来てくれたのに、ギルドに復帰するつもりがないだなんて……!」


「そのままの意味だ。私は本来王都からの命令でこのギルドに派遣されていた身。ギルドの浄化がなされ、お前やクレアという次代を担う若者達に役目を引き継いだにすぎない。これからは王族とのやりとりで助言を与えることはあるだろうが、基本は留守にする」


 リヴァの検査結果が出ました。やっぱり明らかに本編開始時より強いと思います。

 たぶん、本編中盤から終盤あたりの強さはもうあるのではないだろうか?

 これなら、並大抵の敵にやられることはないだろう。




 で、俺は中央でノルンと別れようとしたところ、本当に彼女が泣き出しそうなので、仕方なく一緒に騎士ギルド本部へと顔を出していたのだった。


 夜までに宿屋に戻らないといけないのだが……それに喫茶店のオーナーとも話したいし。


「私なんて……グラム団長の真似事しか出来ていません! 騎士ギルドには強いリーダーが必要なんです……」


「強さはクレアが受け持ち、知略はお前が受け持つ。ギルドの人間がお前達に寄せる信頼を裏切るつもりか? それに俺はもう団長ではないと何度言わせるんだ、ノルン団長」

「でも……」


 彼女とクレアは、いずれ俺の代わりに騎士ギルドを導く立場になるからと、出来るだけ多くの時間を共に過ごし全てを伝授して来た。

 その所為だろうか、クレアとノルンが大分俺に依存してしまっているのだ。


 たぶん、俺が『闇夜の魔人』だと気が付いているって理由もあるんだろうな、ノルンは。

 正直こんな良い子に慕われているのを無碍にするのが非常に心苦しい。

 しかし、申し訳ないが、俺はこの世界と、リヴァの行く末を見守って行きたいのだ。


「……今は、懐かしいからとつい、そんな弱音を吐いてしまっているのだろう。お前は良き騎士団長だ。風の噂でお前のことは聞いている。クレアも人々の希望として、騎士ギルドを象徴する導き手となっていると聞く。二人とも、私などよりも立派に騎士ギルドを引っ張っている。だから……泣くな。団員にそんな顔を見せる訳にはいかないだろう」


 俺はケイアとして、平和に過ごした時間が長かった影響だろうか。

 つい、昔は見せていなかった、お人よしな『ケイア』としての部分を少し見せてしまう。


 今はガントレットをしているので頭を撫でてやることは出来ないんです。

 というか君二八才だろ……そろそろ甘えられる年齢じゃないぞ。


「グラム様……」

「様はなしだ。グラムで良い。お前は団長、そして俺はただの連絡役のようなものだ」

「では、グラムさんと。……優しい言葉をかけてもらえたのが、子供の頃以来だったのでその……凄く嬉しいです」


「そうだったか。……いつでもという訳ではないが、必要に応じてこれからもここには顔を出す。だからもう、私を団長に戻すだのなんだの言うのはやめろ。今日はこの後、少々人と会う約束があるのでな。今日のところは失礼させてもらう」


「え、あ! で、でしたら……明後日、遠征に出ているクレアちゃんが帰ってきます。あの……会いに来て頂けますか? クレアちゃんもずっと待っていたんです、だから……」

「都合がつけば、な」


 俺は、無責任だったのだろうか?

 物語の先を見たいばかりに、この子達に寂しい思いをさせていたのだろうか。


 本来強くあるべき二人を、弱くしてしまったのだろうか。

 不幸な目に遭わせたくないばかりに、別な悲しみを植え付けてしまったのだろうか。


 自問自答を繰り返しながら、俺は夕暮れが迫る中、密かに自宅に戻り、鎧を封印して再びケイアとして宿へと向かうのだった。






「ただいまー。リヴァ、診断結果どうだった? 剣の適正本当に金だったり?」


 宿に戻り、部屋で待っていたリヴァに声をかけると、ベッドの上で死んだようにうつぶせになっていた彼女がガバリと起き上がり、満面の笑みで診断結果の書類を見せてきた。


「見て見て! 金と銀ばっかり! 私凄いんだってさ!」

「おお! 凄いじゃないかリヴァ! スカウトされただろ?」

「うん! 騎士ギルド以外の戦闘職のギルドにスカウトされちゃった!」


「おー! これなら魔術師ギルドで儀式だけでも受けてもいいかもな、たぶん魔法の才能も開花するぞ」

「や、やっぱりそうなの!? そっかー……じゃあお金稼いだら行ってみないと……」


 既に知っていたが、リヴァの結果は驚嘆に値する物だった。

 そうだよ、本来なら騎士ギルドだってスカウトするべき逸材だ。


 が、大きな才能は、気位の高い人間が多い騎士ギルドにおいては、争いの種になりかねないので。


 浄化したとはいっても、やはり貴族の出が多い騎士ギルド。

 そこで新人が大きすぎる才能を持っていると、どんな目に遭ってしまうか……。


「私ね、ケイア。入るギルド決めたよ!」

「お、どこにするんだ?」


 来た。内心、心拍数を上げながら彼女の言葉を待つ。


「私、冒険者ギルドに入る! 迷ったんだけど、ケイアが元冒険者だっていうから、私も同じ道に進みたいんだ。ダメかな? こんな理由だと」


「ダメじゃないとも! そうか、じゃあリヴァは俺の後輩になるんだな。はは……なんだか嬉しいよ、俺はもう一八年前に脱退した身だけど」


 ッシャア! まず一番安全なルート入り、確定しました!

 心の中で派手にガッツポーズを決めつつ、明日以降の予定について話す。


「じゃあ、明日は冒険者ギルドに連れて行ってあげるよ。ついでに俺も、新人支援の専属商人として登録する。これは一時的に冒険者ギルド所属の扱いになって、新人に格安で商品を卸す代わりに、将来こっちが格安で依頼を頼めるようになる制度だね」


「わ、そんなのあるの!? じゃあ初めから教えてくれたら迷わなかったのに……」


「まぁ冒険者ギルド独自のシステムだけど、それだとリヴァの選択に俺が介入してしまうことになるからね、黙っていたんだ。じゃあ、明日登録が済んだら、一緒に武具を見に行こうか。さすがに折れた剣のまま活動する訳にもいかないだろう?」


 そう言って、ベッド脇に置いてある剣に目を向ける。


「……うん、そうね。ベルトだけ取って……剣は寮に持ってくと邪魔になっちゃうかな」


「俺が引き取るよ。家の倉庫にしまっておく。下取りもしてもらえるけど、取って置きたいだろ?」

「うん! へへ、じゃあ……ケイアの所に帰るんだね、この子」


 そう言いながら差し出されたショートソード。重心が狂っているのが鞘ごしでも分かる。

 三年間お疲れ様。気まぐれで買ったワゴン品だったけど……お前は確かにリヴァの力を目覚めさせてくれた名剣だ。ゆっくりと休むと良い。


「じゃあ、夕食は今朝の飲食街で食べようか。その後、今朝の喫茶店に寄るけれども」

「うん、そうしよっか。夜はケイアが食べたいものでいいよ?」


「ん、そうかい? じゃあそうだな……久々にジェノベーゼピザが食べたいな……」

「ピザ? あ、ケイアが村でたまに作ってた円盤型のパンみたいなの?」

「そうそれ。向こうじゃ手に入らないハーブを使ってるからね、三年ぶりに食べるよ」

「そっかそっか。じゃあ、行こう、ケイア」


 本当に、楽しそうなリヴァを見ていると……なんというかたまらない気持ちになるな。

 ここから冒険者ルートにリヴァは突入するのだし……これから先も、彼女を待ち受ける理不尽な不幸は……あらかじめ潰しておかないとな、確実に。






「お待ちどうさん! ジェノベーゼピッツァのLLサイズだ! 飲み物はもう少ししたら来るからな」

「おおー! 相変わらずうまそうだな」


 ピザの提供もしてくれる、イタリアンレストラン風の店。

 元々はグリル料理専門店だったのだが、今では石窯を使いピザや様々な焼き料理を出すレストランとして、かなりの人気を誇っている名店の一つだ。


「へへ、ケイアの旦那も相変わらずこれが好きみてぇだな。こっちのべっぴんさんは……旦那の彼女さんかい?」

「えーべっぴんさん? 本当? 彼女に見えるー?」


 態々料理を自分で運んできてくれたオーナーシェフがそんなことを言うと、リヴァが照れながら身体をぐねぐねと動かす。

 それはどんな動きなんだ、くすぐったいのか君は。


「同郷の友達で、こっちで暮すことになったんだ。明日から冒険者になるんだよ彼女」

「ほう、そりゃ門出のお祝いだな! 旦那には世話になってる、今日は俺のおごりだ!」

「え、本当!? オーナーさん太っ腹ー!」


 申し訳ない。が、こういう久しぶり特権というか、歓迎のされ方はとても心地よかった。

 よし、今日から俺も定期的にここを利用させて貰うぞ。ここの石窯ピザは最高だし。


「今朝も思ったけど、ケイアって顔広いのねー? 行商人ってだけじゃなさそう」

「んー……一部のお店の相談にも乗ったりしていたかな? ここもその一つだよ」


 日本にいた頃の好物を食べたいからと、実現が出来そうなお店に声をかけまくっていただけです。


 結果として斬新なメニューを出す店ということで流行りだしたので、お店側ともWINWINの関係ではあるのだけど。


 ちなみに、純粋に好意でメニュー提供をしたお店もあります。

 スフレパンケーキがその最たる例で、喫茶店のオーナーと仲がいいのもこの関係だ。

 日本でブームになった食べ物は、結構しっかり覚えてるんですよ俺。


 こうして、主都最初の夕食はトラブルもなく和やかに終わり、喫茶店のオーナーとの話し合いもそこまで深刻なものではなかったので、本当に大きな出来事の無い、楽しい夜が過ぎていくのだった。

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