第17話
「おーい、こんなとこで寝ちゃダメだよー? あ、起きた? 部屋に行こう?」
「ん……リヴァ。そうか……俺、座ったまま寝てたのか」
「うん、少し休むって言ってそのまま。ほらほら、受付の照明も落とすってさ。行こう?」
懐かしい夢を見ていた気がする。
リュクスフリューゲンに到着した俺達は、ジェシカさん一行がそれぞれのギルドに向かうのを見送り、俺とリヴァは宿屋と契約した。
流石に本物の若者程のバイタリティはもう俺にはないのかね?
ちょっと座ったらそのまま寝落ちしてしまったとは。
「ケイア、着替え覗いたらダメだよ?」
「のーぞーきーまーせーんー。今の時期は主都も外からの客が多いからね、部屋があまり空いてなかったのは俺の計算違いだった」
「こっちでも収穫祭ってあるんだっけ? なんだかいいタイミングで来たかも」
「はは、そうだな。んじゃ、行こうか」
一部屋だけ借りることが出来た訳だが、ベッドは二つ、同じベッドではありません。
当然です。もし一つだったら俺は床で寝ますとも。
リヴァが『もういいよー』と言うので振り返ると、なんだか野宿していた時とは違い、ちょっと上等そうなパジャマ姿になっていた。
「へへーん! これも作ったんだー! 可愛いでしょー」
「おー可愛い。人に見せる訳じゃないパジャマでもこだわるなんて、大人のレディだな」
「ふふ、そうとは限らないかもよー? そのうち見せるような相手だって……」
む……それは聞き捨てならん。ダメだダメだ、まだ早い!
「それに、今ケイアに見せてるよ? ま、冒険者って新人の内は宿舎で相部屋だっていうし、少しは可愛い方いいじゃない?」
「あ、なるほど。はは、まぁリヴァはすぐに新人卒業するかもしれないけどな」
「ふふん、最短記録を出してあげるわ! 天才冒険者、たった半年で一人前に! って」
おう、頑張ってくれ。俺は一ケ月くらいで卒業したんだけどね、そこ。
俺も寝巻きに着替える。明日彼女を中央に連れていく為にも早く寝よう。
「ケイアって意外な程筋肉あるよねぇ……お腹ぽこぽこ割れてる」
「なんでこっちを平然と見とるんだね君は。顔を反らせ顔を」
「えー? 商人が長かったのよね? 一年で冒険者を辞めたのにずっと鍛えてたの?」
う、痛いところを突くな……そしてそんなに人の身体を指でつつくんじゃない。
「ま、まあ商人といっても移動も多いし、荷物の積み下ろしだって自分一人だったからね。それに村に戻ってからは、自警団と一緒に動物狩りもしていたし、毎日リヴァの剣の稽古に付き合っていただろ? こう見えても結構鍛えてるんだ」
「そっかー……もっかいお腹見せて、ほりゃ」
「やめなさい」
服を捲ってきたので回避。あまり近くで見られると、違和感に気が付くかもしれない。
俺……子供の頃から木の実を食べていた所為で、傷らしい傷なんて負ったことがないから、肌が異様に綺麗というか……正直作り物みたいだなって自分でも思うのだ。
「まったく……大人の女性はそんなことしません。じゃあ、そろそろランタンも消すよ」
「はいほい。じゃ、明日はいよいよ適正検査ね! ふふ……どうなるかなー」
「あれだぞ、適性検査ってある程度希望者が集まってからじゃないと行われないからな? 明日予約してすぐとは限らないからな?」
「えー!」
まったく……本当、懐かしい記憶ばかりが次々に思い出される日だ。
そうして俺も、リヴァ程ではないにしろ、少しワクワクと興奮している胸の内を落ち着けようと目を閉じ、ゆっくりと意識を落としていった――
「お前どうして急にそんな……このままなら間違いなく最年少でAランク入りだぞ。俺もギルドの幹部候補に挙げられている。その時にお前の昇級を推薦する予定だったんだ」
「すみません、どうしても俺、王都にある学園で学んでみたくて……狭き門だとは思いますが、商家で住み込みで働いて、勉強しながら学園を目指そうと考えているんです」
「ぐ……そうか、そうだよな……お前はまだ若い、まだ一五だ。選べる道は沢山あるんだからな……だが、身体だけは鍛えておけよ、ケイア。お前の才能は本物だ。もしもの時の為、選べる道は少しでも残しておくんだ」
「ありがとうございます、グースタフさん。短い間でしたけれど、お世話になりました」
「ああ。まったく……お前と戦って追いかけっこしたのだがついこの間のようだったが……最短で新人宿舎を卒業したと思ったら、そのまますぐに脱退なんてな……」
「はは……でも、きっといつか違う形でここに戻ってきますよ、俺」
冒険者ギルド所属から約一〇ケ月。季節も巡り、年を挟んでまさに夏真っ盛り。
八月のその日、俺は冒険者ギルドを脱退することになった。
アリスから、学園の夏期休暇の終わりに合わせて、転入するようにと言われたのだ。
日本だと新学期って四月、つまり春から始まるのが一般的だが、海外だと九月からってところが多いんだったな。
俺はこの日、ギルドでお世話になった皆さんに別れの挨拶をして回っていた。
なんだか懐かしいな。部署替えいなくなるスタッフもこんなことしていたっけ。
そんな中、一人の冒険者が荒々しくこちらに歩み寄って来た。
薄い黄緑色にも見える長髪を靡かせながら、鋭い眼光を飛ばす一人の女性。
その耳は笹葉のように尖がり、自分が『エルフ』なのだと主張しているかのようだ。
「どういうことよ……! 子供の癖に私を差し置いてランクアップまでして、私より良い評価まで貰っておいて……それなのに冒険者を辞めるですって!?」
「あ……ごめん、実はそうなんだ『リアナ』さん。俺、王都で学問を学ぶつもりなんだ」
歳の頃、二十歳からそこらの女性。
エルフは長命故に外見と実年齢が一致しないが、彼女は本当に二十歳になりたての、エルフの視点から言えば『まだまだ子供』と呼べる年齢の人物だ。
彼女は俺と同じ日に冒険者になったそうだ。更に言うなら二時間程早かったのだとか。
それで、たまに変なところで先輩風を吹かせてくる、ツンデレのような、面倒見が良いような、そんな人物だった。
若手同士ということで組んで簡単な依頼をすることも多かったのだが……ご存知俺は超ペースでランクアップして一人前になってしまったので、こうしてよく絡まれていたのだ。
ちなみに、原作にもしっかり登場します。主要キャラではないが、先輩冒険者としてリヴァに色々と教えてくれる役回りだったはずだ。
「っ……なら、もういい。学者でもなんにでもなればいいじゃない。私は有名な冒険者になって、それでアンタがもう追いつけないような場所にいってやるわ」
「……そうだね、きっとなれると思う。それで、君は新人に尊敬される、立派な先輩冒険者になるんだ。俺はそう信じてる」
それは、役割の押し付け、そうなる運命だからと言っている訳ではない。
心からの本心だった。彼女は……自分よりも若い俺を、いつだって目にかけてくれた。
多少大人げないことで張り合ったりもしてきたが、本当に好ましいと思えたんだ。
「じゃあ……またね、リアナさん。きっといつか戻って来るから。今度は依頼を出す側としてかな?」
「ふん、その時は一流の冒険者になっているわ。安い報酬じゃ受けてあげないんだから」
「了解。じゃあ頑張って稼げる人間になるよ」
こうして、俺は所属してから一年も経たずに冒険者ギルドを、そしてここ主都リュクスフリューゲンを後にしたのだった。
主都から王都への道のりは、俺の故郷の里から主都までの距離よりは遠くないのだが、それでも三日程、ほぼ休憩なしで走らなければ辿り着けない距離だった。
ゲームではいまいち距離感が分からなかったが、現実のものとして移動すると、こうした都市間の移動だけでも、相応のリスクがあるのだろうな、としみじみ思う。
そんな交通事情を考えつつも馬車に揺られ、無事に王都へと辿り着いたのであった。
いやぁ……季節が夏だということもあり、移動中も中々暑くて大変だったのだが……この辺りは海から遠い内陸な為、主都よりは幾分カラリと乾いた空気だ。
「確か……『ラムエタリア商会』ってところが俺の仮の住まいになるんだったかな」
アリスは、俺が王都で学園に通うにあたり、王室と縁の深い商会に『将来有望な若者』として見出された青年、という触れ込みで預けることにしたそうな。
化け物じみた冒険者として有名になったり取り立てられるよりは遥かに地味というか、そこまで注目されないだろう。
実際、俺は学園にはほぼ通わず、すぐに王宮でアリスと共に学ぶ生徒になるのだが。
「すみません、今日からここに住まわせて頂けると伺って来たのですが」
俺はその紹介された商会(洒落にあらず)に向かい、窓口の男性にそう告げると、すぐに奥から身なりの良い、いかにも柔和そうな顔をした中年男性が現れた。
「これはこれは……お話は伺っておりますよ、ケイアさん。なんでも、元宮廷魔術師のメディス様の助手を務めていらっしゃったのだとか。なるほど……学徒への道を選ぶとは、向上心が溢れているのですね。この『ラムエ』が精いっぱいサポートさせて頂きます」
「恐縮です。今は確か……学園は夏期休暇という話でしたね。その間、自由に行動せよと言われていたのですが、何かお手伝い出来ることはありますでしょうか?」
ここは下宿先との関係も良好にしておかなければ。
そして同時に……この人物、ゲームにいたかは定かではないが、間違いなくやり手の商人だろう。
アリスが手配した以上、それなりに信頼のおける相手なのだろうが、何よりも商会の建物の規模が大きい。それはそのまま、商会の力の強さの表れだ。
俺、いつかは世界の情報を下調べする為にも行商人になりたいとも考えてるんだ。
なので、この商会と顔を繋いでおくのはプラスになるはずだ。
「殊勝な心掛けですが……よろしいのでしょうか? 貴方は学徒となるべく見出された若き可能性。それを私どもの為に」
「いえいえ、これは正当な対価ですよ。学園にも近い、そしてこんな立派な場所でお世話になるんですから、相応のお返しを『今のうちから』したいんですよ。未来の為に」
未来をちらつかせる。貴方は俺に何を見る。
突然、アリスの力で送り込まれた俺を受け入れることに、どんな価値を見出したのか。
そして俺が今だけでなく、将来どんな益をもたらしてくれるのか。
貴方は今考えてくれている筈だ。
「……では逆にお聞かせ願います。どんなことが出来るのでしょうか?」
「人員の労働スケジュールの管理、体調を考慮した業務割り当て、帳簿付け、肉体労働、護衛、商品開発のアイディア提供ですかね。信じる信じないかはお任せします。最悪、肉体労働でも構いません。大人以上に力も体力もあると自負していますから」
ハッタリ半分、なんとか出来そうなこと半分。ほぼ日本にいた頃の経験を生かす内容だ。
インターネットが普及してから、爆発的にヒットした商品については、社会人として、そして娯楽を提供するゲーム会社の人間として一通り調べている。
全部が全部ではないだろうが……この世界でヒットしそうな品だってあるはずだ。
個人的に何故ヒットしたのか分からない品も沢山あったが。
ハンドスピナーとかマリトッツォとか。
「……俄かには信じられませんが、そうですね、では帳簿付けが本当に出来るのかどうかだけ、試させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構いません、お願いします」
なによりも、とりあえず仕事しないと俺今金ないんですよね。
冒険者抜ける時、ギルドに預けてた金の殆どを故郷に送ってしまったので……。
そうして俺は、商会の手伝いをしながら、学園生活の始まりを待つのであった。
……まさかまた学生をやるなんてなぁ。
日本にいた頃と合わせたらそろそろ四〇だぞ俺。
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