第4話

 その後、宿でリヴァと別れた俺は、長期契約結んだ後に徒歩で実家へと戻る。


 丁度昼食の為に父さんも戻ってきていたので都合がいい。


「ただいま、父さん母さん」


「あら、思ったよりも早かったわね」


「文を出していただろう?」


「けど予定より二日程早いわね。自分の馬車で来たのかしら?」


「正解。今回は乗合馬車じゃなくて自分の馬車で来たよ」


「よく戻ったなケイア。自分の馬車というと……ギルドから支給された馬車か。行商人で自分の馬車をギルドから借り受けたのではなく譲り受ける者は中々いないと聞いたぞ」


「まぁね、それなりに上納額も納めているし、貢献しているからね」


「そうかそうか。それで、今回はいつまでいるんだ?」


 説明中。とりあえず宿に長期で泊まりつつ、小さい自分の家でも持つつもりだと。


 そして三年後に里をまた出るつもりとはいえ、現段階では引っ越して来たのだと伝える。


「まぁ! 嬉しいわね! 母さん、最近ちょっと疲れやすくなってきたし、おつかいとか頼もうかしら?」


「いいよ、問題ない。二人もそろそろ歳だしね」


「そんなことはない。クワを振る回数も落ちず、斧を振る回数も増えていく一方だ。こんなことなら私も戦士を目指すべきだったかもな」


「ははは、言うねぇ」


 まぁ二人がまだまだ若いというのは俺も同意。俺もあんまり老けないが、これは親譲りかな。


「じゃあ、俺は馬車の荷物を下ろしたり色々してくるよ。報告に来ただけだからさ」


「ん、分かった。今晩里長にも顔を出した方がいいぞ」


「了解。じゃあまた後で」




 ゆっくりと里を見回しながら宿へと戻る。


 本当に平凡な、けれども平和で優しい時間が流れる里。


 元々、良質な木材が採れるからと切り開かれた土地らしいのだが、今ではその需要もほとんどなく、木材の加工品や野菜を細々と外に売っているだけの、どこにでもあるような里。


 ここに、三年後にとある冒険者の一団がやってくる。近くにある遺跡の調査の為にここに滞在するのだが、その一人に『剣の訓練をしていたリヴァが見いだされる』のだ。


 そして外の世界に憧れを抱いていたリヴァは、主都に出ることを目指す。


 別に、何か特別な使命を帯びていたり、特別な血筋だったり、そういういかにも主人公らしい動機は彼女にはないのだ。だが……。


「ゲームはミスティア王国を旅立つところまでしか出来ていなかった。旅の理由だって様々だが……」


 共通して言えるのは、人間と亜人、獣人族の交流が深まってきたのと時同じくして『魔族』と呼ばれている、果ての大陸に住む亜人が不穏な動きを見せ始めたことへの対処の為だった。


 特使として魔族領に赴く場合。


 侵略する為の軍として参加する場合。


 今の国を裏切り、向こうに付く為の出奔。


 そして――国を追われる立場に身を落とす場合。


 理由は様々あれど、彼女はいずれこの国を出る。それだけは決まっている流れだ。


「けどなー、バッドエンドでこの里で一生を終えたり、奴隷に身を落としたり色々あるからなー……しかもその場合はいずれ国が亡ぶって内部設定もあったし」


 つまり最初の関門として、彼女がこの里に残る道だけは潰さないといけないのだ。


 悪いなシリュー君。君とリヴァを仲良しこよしにする訳にはいかないのだよ。


「あ、ケイアー! 挨拶はもう終わったー?」


 考え込んでいると、リヴァが先程あげた剣を早速腰に取り付けて駆け寄って来た。


 私服に剣を下げる姿は中々に浮いているが、嬉しそうなのでヨシ!


「みてみて、腰に付ける為のベルト買っちゃった! ちょっと素振りするとこ見せてあげるから空き地にきてよー」


「元気だなぁ……どれ、じゃあ見せてみろリヴァ」


「ふふふ……私の剣筋に見惚れるといいわよ!」


 ああもう可愛いなこいつ! こりゃシリュー君じゃなくても若い男ならイチコロですわ。


 空き地に向かうと、そこには日頃から訓練に使っているのか、表皮がズタボロに剥げている一本の木があった。そのうち木人形でも作ってあげようか。


「この剣、いつも使っている木剣より少し重いけど、見ててね!」


「怪我するんじゃないぞー。しっかり握るんだ」


『えいえい』と、あまりにも普通な掛け声と共に素振りを始めるが、すぐに剣で木を斬りつけようとして手を止めた。


「木剣じゃないから木がスパって斬れて倒れちゃうかも!」


「どんな達人だよ……」


「ほら見て見て、自警団の皆が使う『三段斬り』だよ。ちゃんと野生の動物だってしとめられるってお墨付きもらったんだから」


「おー、すごいすごい」


順調に剣士としての道を進んでいるようですな。というか――


「確かに駆け出し冒険者よりもしっかり剣が振れているね。これなら弱い“魔物”なら狩れそうだ」


「ほんとに!? この辺りじゃ魔物は出ないから、試したことないんだ。いつか森の奥に遠征に行く自警団にくっついて行ってみたいなー」


「はは、じゃあ次は木剣に持ち替えて少し俺と打ち合ってみようか」


「いいの!? 私強いよ、商人のケイアじゃきっとすぐに負けちゃうよ?」


 ニマニマと笑いながら、木の裏に置いてあった木剣を二本、リヴァが持ってくる。


 大丈夫……手はしっかりと抜きます。攻撃の意思……明確な害意がなければこの力が暴走する事はない。間違ってリヴァまで吹っ飛んで行ったらこの世界積んじゃうから!


 そして今言ったようにこの世界の魔物と呼ばれる生物。これはゲーム時代から当然存在する敵であり、主な死亡原因がこいつによるものだ。


 この先、魔物の動きが活発になり、徐々に世界全体の危険度が増していく。


 幸いこの里の周囲に魔物の姿はないが、連中は確かに人々の脅威としてこの世界に存在しているのだ。


「じゃあいくよー! はじめ!」


「よし来い!」


 彼女の剣を受けながら、しみじみと思う『ああ、ここまで来たんだな』と。


『無事に大人になりつつあるんだな』と。赤ん坊の頃からの付き合いなのだ、本当に気分は父親なのだ。


「くっ……この!」


「おっと。今度はこっちからだ」


 軽く剣を受け流しながら、彼女の技量の高さに舌を巻く。本当にこの子は強いな。


 少なくとも……まだ一五歳とは思えないどころか、素人とはとてもじゃないが思えない程に。少なくとも辺境の自警団じゃどうにもならないレベルだ。


「本当強いなリヴァ……ちょっと驚いた!」


「私も! 凄い凄い、本気なのにかすりもしない!」


「主都で一応戦ってきた身だから――ね!」


 木剣を弾き飛ばし、切っ先を彼女に向ける。


「嘘……ケイアってこんなに強かったの……?」


「そっちこそ、もう自警団のみんな相手じゃ訓練も出来ないんじゃないか?」


「んーどうなんだろ? 最近一緒に訓練してくれないんだよね、危ないからって」


 ははーん……さてはもう勝てないと思って、一緒に訓練して恥をかかされないようにしているな?


「今度からは俺が訓練に付き合うよ」


「本当!? じゃあじゃあ、訓練だけじゃなくて主都の話も教えて! 私いつか主都に出てみたいんだー」


「ああ、いいぞ。ただ外は危ないからな? 強くなるだけじゃなくてしっかり勉強……この場合は相手を疑うことも必要だからな? 知識は多い程良い」


「そっかー……じゃあ訓練は終わり! 明日家の手伝いが終わったら宿屋に迎えに行くね!」


 そう言いながら、またしても嬉しそうに駆け出すリヴァ。


 ……この子がこの先、世界の中心へと進んでいく。これはその第一歩なのかもしれない。


 こうして、俺の最後の準備期間。里で彼女と過ごす日々が始まったのだった。


「……今日から裏山の木の実も集め直すか。これ以上強くなっても意味は薄いけれど」

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