第45話 井の中の龍

「こうか?」

ワンルーム・ディストピアが無造作に鍵を振るう。

瞬間、昏き空間にビシリと罅が入っていく。

「なっ!?」

あり得るはずのない・・・・・・・・・その現象に、INМインムは目を見開く。

(嘘でござろう…!?)

雲母が一枚一枚剥がれていくように、黒い空間が一枚づつヴェールを解かされていく。いっそ幻想的なソレはINМにとっては、悪夢のような光景だ。

攻撃しようにも例の光のせいで思うように近づけない。

(空間を掌握出来るとは盗聴してたでござるけど、まさかここ・・でも対象になるなんて。流石はワンディス殿、規格外でござる。)

この空間の崩壊阻止を諦めた半泥はんでいの少女は、ふっと笑った。

「けど、外に出れば拙者の勝ちでござるからね。」

ベリリッ!と空間が剥がれ落ちて視界が極光に塗りつぶされても、INМは歯を見せながら狡猾に笑っていた。


ヒュゴォオーーーーーーー!!!

肌を突き刺す冷たい逆風。耳をつんざく風切り音。

そして視界一面に広がる街並み。

そう、ここは地上の遥か空。

…そう、ワンルーム・ディストピアは異空間に飛ばされていた訳ではないのだ。

正解は夢の世界へと誘われていただけであった。


うごぉクソーーー!!!!」


だが、そんな事を気にしている暇はクソニートに残っていなかった。

何故なら、ワンルーム・ディストピアは頭から真っ逆さまに落下している・・・・・・・・・・・・・・・のだから。

必死に首を動かせば横には同じく落下しているルドルフと九龍の姿が。INМとアフDの姿は見えない。恐らく、気絶した体をダーティニアに回収させたのだろう。

(俺達にダメージ与える為に気絶させたのか?あぁそうだないくら魔法少女とはいえ落下ダメージはキツイだろうからなぁ!…かー、クソゴミカスが!)

もしワンルーム・ディストピアやルドルフ、九龍を気絶中にさらったとしても元気なままでは捉えるのも一苦労だ。なので一旦弱らせてから捕まえようという算段なのだろう。

誤算なのは、転移を操るワンルーム・ディストピアが目覚めてしまったことだ。これに関してはクソニートが規格外すぎたせいなのだ。

夢の世界に行っただけで魂の融合に難なく成功するなんて、誰が予測出来るだろうか。難易度ルナティック過ぎだろ。

(転移するにしたってどこに行けばいいんだよっ!つーか、なんでコイツらは寝たままなんだ?産まれたてのバブちゃんかてめぇらはっ!)

ワンルーム・ディストピアが壊したのはあくまでもあの空間だけであり、大元のアフDを倒しに行かないことには夢から醒めさせる事は出来ない。

(どーすればいいってんだよクソが!)

「チッ!転移!」

悩んだ結果、パラシュート無しのスカイダイビングをしていた三人は空中から姿を消し、どこかへと転移した。


同時刻

がばっ!と夢の空間から強制的に弾かれたINМは飛び起きた。

横のベッドではアフDが寝ており、周囲は護衛のダーティニアが立っていた。

「やられたでござる…!」

ひび割れるように痛む頭を押さえながら、悔しげに呟くINМ。

(大元のアフD殿は破られていないでござるね…。不幸中の幸いでござるか。)

What's upどうした?」

「博士…。」

コツコツと靴の音を響かせながら、白衣を着た成人男性程の大きさのダーティニアがやって来た。黒いネックウォーマーと手袋をしており、露出を最低限に抑えている。

服装や体つきだけをみるだけならば人間と酷似しているが、その頭部は玉虫色の泥がダイラタンシー状になりながらも丸まっており、人外であることは一目瞭然だ。

頭部を揺蕩わせながら人類には認識不可能の異形の音アルファベットを響かせる。

「|A primordial magical girl… troublesome….《原初の魔法少女か、厄介だな…。》」

瞳があるわけでもないのに、INМにとってはじろりと観察されているような気分になってしまう。

昔から…どころか生まれた時からの付き合いであるがINМはどうしても博士が苦手だった。だが対照的にアフDは白衣を真似て着る程博士を好いている。

しかしそれは、混血児あいのこ合成獣キメラへの扱いの違いから生まれるものだ。

「|No matter. If it failed, it can be used next time.《まぁ、いい。失敗したならば次に生かせばいい。》」

「了解でござる。」

(失敗したら、拙者に次はないでござるな。)

いつものことだ、と心の中で溜息を吐くINМ。

素体が貴重なため肉体的に・・・・危険な任務は与えられなかった。だが、逆に言えばINМ・・・の価値とは"原初の魔法少女"の肉体を守るだけであった。

「ワンルーム・ディストピアについての固有魔法についてでござるが、恐らく危険度5に達しているかと思うでござる。」

ピシリ、とその場の空気が冷え固まった。

危険度5___それはワンルーム・ディストピアの能力が完全に覚醒したことを示している。

原初の魔法少女の魂の転生体、どんな固有魔法であれ厄介であることは明白だ。

「|…Understood. Retrieval must be prioritized. I leave it to you.《…それはそれは。尚更回収を急がなければ。頼みましたよ。》」

「了解でござる。」

ゾロゾロと数体のダーティニアを連れて、博士は部屋から退出していく。

(…バレなかったでござるか。)

内心、汗を流しながらもホッとするINМ。


ー"ザザッー"…ワンルーム・ディストピア…の固有"ザザッ"はゲートの開閉"ザッ"…まりは空間掌握デ"ザザッー"…

雑音混じりに聞こえてきた音に、INМは目を見開いた。

それはワンルーム・ディストピアの固有魔法の驚きと…願いの成就が見えたからだ・・・・・・・・・・・・


博士が去った後、ボフンとベッドに横たわりながら黒髪の少女はニヤリと微笑む。


(さっさと滅んでしまえばいいんでござる…、こんな奴らダーティニア。)


オマケ


難産でした。

次回は視点が変わり、アフDとルドルフのターンです。





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