第31話 おらっ!死ね!

ナチュラルの二人と再会したワンルーム・ディストピアは…、特に何も感じていなかった。

(へー、厨二病患者ザッソウが言ってた他国から誘拐されてきた魔法少女が居るとかって言ってたな。こいつらもそうなのか。)

「あー、一応言っとくと俺なら固有魔法で日本に帰れるから、お前らも連れてけるぞ。戦うのは無しにしないか?」

(つーか、俺は戦いたくない!無理矢理誘拐されてんなら帰るって言えば戦わないだろ!)

しかし、クソニートの思惑とは反してナチュラルの二人は首を縦に振らない。

「わ、私達は確かに誘拐されました。けど…、こ、ここに居るのはあんまり苦しくないんです。」

ネイビーがオドオドとしながらもワンルーム・ディストピアの言葉に反対する。同調するように、スマイルも頷いた。

「大会が終わった後、私達に向けられたのは盛大な手のひら返しの言葉だったわ。笑っちゃうわよね。」

「い、今まではあんなに辛い事を強制させてきたのに、いい人ぶるんです。もう、人が分からないですよ…。」

鬱々とした雰囲気を醸し出す少女達に、痺れを切らしたワンルーム・ディストピアが問いかける。

「結局、お前らは日本に帰りたいのか?」

「いいえ、帰りたくないわ。」

「わ、私も…。」

二人の答えはノー。連邦にすっかり染まってしまっているようだ。親衛隊の目標はおそらく革命軍の壊滅。もし捕虜になったら、さぞかし素晴らしい待遇を受けること間違いナシである。

「す、素直に降伏するなら、上官さんに口添えしますよ…?」

「私もネイビーに同意よ。どうせ魔法少女じゃない人なんて、私達の苦悩を知らないんだから。だったらまだ実力主義で誠実な連邦を選ぶわ。」

洗脳されてるのかそうでないかは定かではないが、連邦に即オチ2コマされてしまったようである。

「あー、オッケーなるほど理解したわ。」

「こ、降伏してくれますか?」

問いかけるネイビーにワンルーム・ディストピアはニッコリと笑った。そう、クソニートは理解したのだ。


(戦いが避けられないってことがなぁ!)

「先手必勝だ死にやがれ!!!」


「【なんか強いのでろ】」

ゴッ!!!とスマイルをレバータンブラー錠で殴りつける。

「スマイルッッッ!」

転移し死角から殴りつけたため、スマイルは成すすべもなく白い雪にドサリと倒れてしまう。

倒れるスマイルの頭部から、ぶっしゃあああーーー!と赤とピンク色が舞った。それらはまるで、噴水のように空へと高く湧き出てくる。スマイルの体が倒れると、雪がイチゴのように真っ赤に染まっていく。スマイルの可愛らしい衣装も、それのせいで汚く汚れてしまう。

ゴッ、ぶしゃ、ドサリ。

本当に、急展開だった。

あまりにも速い出来事に、ネイビーの意識が遠くなる。

だが不幸な事に、鍛えられたネイビーの体は気絶することを許さなかった。

すると、

びちゃり、とネイビーの頬にそれ・・がへばりついた。何も考えずに反射的に拭い、ネイビーはそれを視界に入れる。

ぐちゃぐちゃとしたピンク色のナニカと、ほんのりと温かかい赤い水と透明な水。

それはスマイルの柔らかな脳味噌と髄液、鉄臭い血だった。

スマイルがどうにもならない事は、誰の目にも明らかだった。

「あ、ああ、ぁああああああッッッーーー!!!!」

死、その重すぎる一文字がネイビーに絡みつく。

(え…、わ、わたし…死ぬの?)

「ぁ、ああ…!」

ガタガタと身を震わすネイビー。足は生まれたての子鹿のようにプルプルとし、指先はカタカタと震えている。

「おらっ!死ね!」

ゴンッッッ!!!

振り下ろされたレバータンブラー錠がネイビーの頭に直撃し、ドサリと倒れる。スマイルより直接的なダメージは少ないが、ピューピューと大量の血が流れているので、長くは持たないだろう。ショックで身がすくんでいるネイビーも容赦なくぶん殴ったワンルーム・ディストピア。

人を殺したというのにその顔に翳りはなく、むしろホッとしている。人の心とかないんか?

(パワーアップしてたらヤバかったけど、難なく倒せて良かったわ。いやー、僥倖僥倖。)

クソニートはこう考えているが、実際は違う。

実際はナチュラルの二人も大会の時よりかは強くなっていたのだが、ぶっ倒れるほど固有魔法を使ったワンルーム・ディストピアも強くなっていたのだ。筋肉を鍛えたわけでもないのに魔法を使うだけで強くなっているのは、実に摩訶不思議である。まぁ、そもそも魔法少女がふぁんたじーな存在なので、気にしたら負けなのかもしれないが。

「ワンディス殿!だ、大丈夫でござるか?」

「大丈夫に決まってんだろ。目でも腐ってんのか?」

「そ、そうでござったか。」

ワンルーム・ディストピア=暴力衝動を理性で抑えている、と誤解しているINМインムはクソニートの良心へのダメージを心配したが、当の本人の様子を見て一息ついた。

「うわぁ…。」

その一方でミンはスプラッター映画のような光景にドン引きしている。流石は良識人(?)、マトモな反応だ。というか、同じ形をした生命体を殺されても何とも思わない二人が生物としてイカれてるだけである。

(んー、それにしてもドッカンバッカンやってやがるなぁ。)

ワンルーム・ディストピアが周囲を見渡すと、火が轟々と燃え上がったり氷が飛び交ったり銃弾が飛び散ったりとカオスな状況である。余波で攻撃が飛んでくる事はあっても、三人へ向けられた攻撃はないようだ。

(あー、他の魔法少女達は俺達に気づいてるけど攻撃出来ないのか。…あれこれ逃げられるんじゃね?そもそも、俺達は逃げられればいいんだし。んだよ、だったらさっきの二人と戦う必要無かったじゃねーか!)

クズすぎる、この男。

殺してから大切な事に気付くなんて、ナチュラルの二人に申し訳ないと思わないのか?思わないんだろうな。この倫理観ゼロのクソニートは。

「おい、インムとミン!ちょっとこっち来い!」

呼びかけられた二人がクソニートの側に集まる。

「どうしたんでござるか、ワンディス殿?」

「どうしたも何も、逃げるんだよ。」

小さな声で話すワンルーム・ディストピア。流石にバレたらまずいという意識はあるようだ。

「…えぇ!に、逃げるでござるか!?」

と、INМ。

「おまっ!まじかよ…。」

と、ミン。

二人とも当然の反応である。

「何驚いてんだ、お前ら?」

お前の下劣な性格に驚いているんだよ、気づけ。

「俺達は戦う必要ないんだぞ?そもそも、お前らの目標だって俺と日本に帰ることだろ?転移を繰り返せば、なんとか戻れるだろ。」

「でもバレたらなんかヤバそうでござるけど…。」

「そこはお前の固有魔法を使うんだよ、インム。隠密を使えば、ここにいる奴らは逃げたことに気づかない。よしんば、戦いの後に気づいてもその頃俺らは日本だ。連邦とも革命軍とも何の関係もない一般人なんだよ。」

「た、確かに!」

倫理観を除けば、確かに合理的な考えに納得した様子のINМ。

「ミンもそれでいいだろ?」

「うーん…、まぁ確かにそもそも俺らは連邦と関係ある訳じゃないしな。逃げるのも…、ありか?」

「ありだよ、あり。うし、それじゃあインム隠密してくれ。」

「分かったでござる。Hide Conceal Мirage Mystery−−−隠匿せよ。」

三人の体が蜃気楼のように揺れ、存在が薄くなる。轟音や光が点滅する戦場とこの魔法は、相性抜群のようだ。

「それじゃあお前ら、帰るぞ!」

「おう。」 「はいでござる!」

二人と手を繋いだワンルーム・ディストピアが固有魔法の呪文を唱えた。

「転移!」

次の瞬間、三人は戦場から姿を消した。


オマケ


長かった漂流編もこれで終わりです。終わり方がスッキリしませんが、そもそもクソニートは極力戦いたくないので致し方なし。

次回は幕間です。



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