第2話 ひとり暮らしのスタートライン

第2話 ひとり暮らしのスタートライン


「こんにちは〜!なごみ不動産です!」


今日も元気いっぱいに店内へ声を響かせたのは、入社3年目の佐藤遥。明るくて物怖じしない性格が、特に若いお客様から人気の営業スタッフだ。


ガラス越しに入ってきたのは、見るからに緊張した様子の青年。黒縁メガネにリュック姿、ちょっとくたびれたスニーカー。


「予約してた、石井優斗(いしい ゆうと)です。春から、〇〇大学に通う予定で……」


「あ、石井さんですね!お待ちしてました!担当の佐藤です。よろしくお願いします!」


遥は笑顔で手を差し出し、優斗の緊張をすっとほぐした。



「じゃあまず、希望の条件を教えてもらえますか?」


「えっと……家賃は5万円までで、できれば駅から近いところ。あと、バイトで帰り遅くなるので、できたら明るい場所にある物件がいいなって思ってて……」


「うんうん、大丈夫!学生さん向けのお部屋、けっこうありますよ~。ちなみに、自炊は?」


「一応するつもりですけど、たぶんコンビニがメインになると思います……」


「はは、最初はみんなそうですよ。じゃあ、近くにスーパーとコンビニがあるエリアで探してみましょうか!」


遥は素早く検索を始めた。

奥のデスクから、先輩の島田咲希がちらりと視線を送っていたが、今日はあえて口を出さない。


(ちゃんとお客さんに寄り添ってる。遥、頼もしくなったなぁ)



内見に向かったのは、駅から徒歩10分のワンルームアパート。古さはあるが、管理状態は良く、部屋には日がよく差し込んでいた。


「……ここ、悪くないかも」


優斗がぽつりと言う。


「ちょっと古いけど、静かで、空気の感じがいいですよね。あと、管理人さんが常駐してるから、防犯的にも安心です」


遥が説明すると、優斗は小さく頷いた。


「大学の入学式、緊張してます?」


「めっちゃしてます。友達できるかなって……」


「でも、部屋が落ち着ける場所なら、それだけでちょっと安心できません?」


「……たしかに」


優斗の表情が少しだけ和らぐのを、遥は見逃さなかった。


「この部屋で大学生活をスタートしたいと思います!」



契約を終えて帰る頃、優斗がそっと言った。


「正直、最初は不安だったんですけど……佐藤さんが担当で、よかったです」


遥は少し照れながら笑った。


「ありがとう。でも本番はこれからですよ。一人暮らし、大変だけど、楽しいこともいっぱいありますから!」


玄関まで見送ったその背中が見えなくなったあと、遥は静かに、でも少し誇らしげに言った。


「……よし。次も、がんばろ」



さて次回、第3話は、どんなお客様とのエピソードがあるのでしょうか?更新まで楽しみにしていてください。


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