第24話 女神の伝説 その3
翌日の早朝、大勢の聖霊術師たちに見送られて、ロドは聖霊術院を後にした。馬車が城門を抜け光の聖堂を通り過ぎたところで、同乗していたハピエフがロドに話しかけた。
「今朝がた、政務官に先立って、ライノルト聖霊術師が聖霊術院を出発するのをお見送りしました。政務官にも、よろしくお伝えくださいとのことでした」
一介の行政官だった時から仕えてくれているハピエフを、ロドは誰よりも信頼していたが、ライノルトに何を託したかは打ち明けていなかった。だが、ハピエフは、長年仕える主人の様子から、重要な案件を依頼したことを肌で感じているようだった。
「そうか。出発したか。それは良かった」
ロドは視線を窓の外の景色に移した。頭の中は、この訪問を振り返っていた。わずか四日間の滞在だったが、生涯忘れ得ない出来事を、いくつも体験していた。
光に包まれた光の円盤が脳裏に浮かぶ。永劫の時間の中で普遍に光を放つ聖なる遺物。そして、その光の中で燦然と輝くクリュソナイトに姿を変えた蜜蝋石。
(もし、あの円盤を神が作ったのならば、何のためだったのか?)
(あの光は、ただの光ではない。では、何なのか?)
(円盤の縁に刻まれた、神聖ウルラム文字が解読できれば、答えは得られるのか?)
(だが、解読の糸口さえつかめていない)
ロドは考え続けた。
(想像もしていなかった収穫もあった。ルカが持っていた、あの棒。神聖ウルラム文字が刻まれている古ぼけた棒)
(あの棒は、明らかに人の手で作られたものではない。誰が何のために作ったのだろうか?)
(そして、あれを持っている彼女は……。噂通り、リドリアドの再来なのかもしれない)
ルカとのやり取りを振り返った。
(今回の訪問以前は、私は彼女を、非常に強い聖霊力を持つ聖霊術師としかみていなかった。だが、彼女は、それだけの存在ではない。彼女はこれからの私にとって、最も重要な人物の一人になるだろう。それどころか、彼女がいなければ、何も前に進まないかもしれない……)
ロドは大きく息を吐いた。
(だが、私は、あのことを彼女に話さなかった。話せなかった。今は、まだ……)
一方、ロドは確信していた。(だが、いつか彼女に話すだろう。いや、話さなければならない。それは私が考えているよりも、遥かに早い時期かもしれない)
それの意味するところを考え、ロドは身震いした。
それを振り払うように彼は馬車の窓を開け、後ろを振り返った。魔術師たちの城塞は、森の中に吸い込まれるように、その姿を消しつつあった。
その景色を見ながらロドは自らに言い聞かせた。(今は考えない)
(なぜなら、打てる手はすべて打ったのだから。後はライノルトの報告次第だ。それにより、次にどう動くか決めればよい)
「政務官。どうか、されましたか?」
ハピエフの声に、ロドは現実に引き戻された。窓を閉めながら答えた。「聖霊術院がもうじき見えなくなる」ハピエフを振り返った。「魔術師の世界から現実に戻るぞ」
「現実でございますか」ため息交じりにハピエフは応じた。「ダレンルクには、仕事が山のように積まれていることでしょう」
ロドは口元に笑みを浮かべた。「それでは、今は束の間の休息を取ることにしよう。戻ったらまた、
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