最下層で拾ったダンジョンママを連れて帰ったら、異常なまでの母性で俺を駄目にしていく

菊池 快晴@書籍化進行中

第1話 最下層でダンジョンママを拾った。

 世界各地にダンジョンが出現してから、すでに三十年が経過した。


 ダンジョンには、上へ進むほど敵が強くなるものや、逆に下へ進むほど手強くなるものなど、さまざまなタイプが存在する。内部では、獰猛な魔物が多数確認されている。

 しかし一方で、オーパーツと呼ばれる貴重な宝も存在していた。

 それはダイヤモンドを凌駕する鉱石であったり、手にした瞬間に魔法の才能が目覚めるといった、常識を超えた代物ばかりだった。


 やがて世界中の人々が、こぞってダンジョンに挑むようになった。

 だが、怪我人や死者が続出し、ダンジョン登頂は一大社会現象へと発展していく。

 その影響を受け、各国政府はダンジョンの管理体制を整え、公的な免許制度を導入することを決定した。


 ダンジョン登頂には自動車の運転免許のような資格が必要となったが、その取得は極めて困難であり、一般人が合格するのは容易ではなかった。


 それでも、ダンジョンが日常に溶け込むにつれて――ある異変が起き始める。

 魔法を生まれつき使える子どもたちが誕生したのだ。

 彼らは“ダンジョンベビー”と呼ばれ、その戦闘能力は驚異的な高さを示した。


 やがて、物心ついた頃にはすでにダンジョンへの登頂を許可される者さえ現れるようになっていた。


 俺――神代シンヤも、そんなダンジョンベビーの一人だ。


 生まれつき身体能力が高く、魔法だって扱える。

 幼い頃からダンジョン配信があり、多くの有名人が生まれ、消えていくのを生で見ていた。

 気づけばダンジョンへの登頂を夢見ていた。理由は……寂しかったからだ。


 人付き合いが苦手で、話すことが得意じゃない。

 誰かと何かを共有した思い出はほとんどない。

 そんな俺でも、何かできることを見つけたかった。


 しかし免許申請には保護者の同意が必要だった。

 20歳以上であれば個人で行えるが、孤児院で育った俺には親がいなかった。

 理事長に掛け合ってみたがダメだった。

 危険極まりないことは確かなので、前例は作られないと。


 そんな俺は16歳になった。もちろん免許は持っていない。


 しかし俺はダンジョン内部にいた。それも、最下層に。


 俺みたいなやつは世界でこう呼ばれている。


 ”無免許”のダンジョンクライマー。


 公に成果を持ち帰ることはできないし、制覇しても公表することはできない。

 もしバレると罪になるだろう。


 しかしそれでもダンジョンの魅力は凄まじい。

 同じ無免許でも人によって目的は違うが、俺は”戦う”ことが好きになっていた。

 力の限り魔物と戦い、勝利する。

 それが、たまらなく楽しい――。



「あら、随分と可愛らしいお客様ねえ。ご飯にする? お風呂にする? それとも私と戦う?」


 ダンジョンの最下層、苦労の果てにたどり着いたラスボスは、黒髪ロングのたゆんたゆんママだった。

 目元には涙ボクロ、顔立ちはなんというか美形だ。

 バストが凄まじく、前から見ているにもかかわらず、立体的で浮き出ている。


 後ろには、口から涎が滴り落ちている魔物たちがグルルと唸っていた。

 どいつもこいつも魔力がバグっている。だが、何よりも恐ろしいのは、目の前のママがそれ以上の魔力オーラを昇らせていることだ。


 俺は多くのボスと対峙してきた。


 竜にしか見えない魔物、あるいは死神のように実態のない”ナニカ”だったり。

 どいつもこいつも強かった。


 だが目の前にいる”ママ”は、過去の強敵を遥かに凌駕する魔力を漲らせていた。


 今まで”人語”を操る相手と戦ったことはない。

 それも”人型”。それも……”ママ風”だ。


 ありえないことの連続に思わず心が揺れる。


 このダンジョンは渋谷のど真ん中にあるにもかかわらず、誰も制覇できなかった未踏ダンジョンだ。

 理由は単純明快、魔物が強すぎるから。

 ここへ来るまでにも凄まじい魔物がいた。

 そしてその果てが――ママだ。


 例え相手がどんな風貌でも、必ず倒すと決めていた。


 それは揺るがない。


「当然、”戦う”だ」

「ふふふ、だったら全力でお相手させていただくわ」


 ママはおもむろにエプロンを外し始めた。

 まさか全裸で――と思っていたら、地面に投げ捨てた後、轟音が響いた。


 なるほど、重いヤーツか。


 つまり俺の本気をくみ取ってくれたということ。

 相手の目が細くなり、顎に手を置いて戦闘態勢を構えた。


 俺は駆けた。

 渾身の右ストレート。しかし、ママはなんと軽く受け止めた。


「ふふふ、随分と強いのね」

「――あんたもな」


 それからは夢のような時間だった。

 魔物はママに制御されているのか動かず、俺たちは一対一の攻防を繰り広げた。


 俺が攻撃をすると、ママは回避する。


 ママが攻撃を繰り出してくると、俺が回避する。


 お互いに笑みを浮かべて、感覚を共有する。


 楽しい、楽しい、楽しい。

 これが、命を懸けた戦いだ。


 しかしそこで驚いたことが起きる。


 ダンジョンが、崩壊し始めたのだ。


 通常はボスを倒すことでダンジョンの崩壊が始まる。

 なのに今このタイミングで――? ありえない。

 

 しかし空から凄まじいほどの瓦礫が降り注いでくる。


 その一つが、ママの頭部を直撃しようとしていた。

 気づかなかったらしく、俺は咄嗟にママをかばうように吹き飛ばした。


「――なぜ、助けたの」


 理由はわからなかった。

 人型だったからだろうか。危ない、咄嗟にそう感じたのだ。


 ただ、これだけで終わらない。崩壊が広がっていく。

 それどころか、地面までヒビが入り、立つことすらままらなくなってきた。


 いつもなら瓦礫を辿って外まで逃げることもできるかもしれないが、魔力を使いすぎてしまったのだろう。

 身体がうまく動かない。魔力が練れない。


 こんな最後――と思っていたら、後ろからフローラルな香りがした。


「ダンジョンの限界がきたようねえ。残念だわ」


 ママが、俺の身体を掴んでいたのだ。優しくフワッと、恐ろしい包容力と柔らかさ。いや、そんなのはどうでもいい。


「な、なにを――」


 まさか自爆か!? 自爆型ママか!?


「あなた、元旦那と似ているわ。無鉄砲でそれでいて野心があって、一つのことに集中しすぎるタイプでしょ。それでいて、優しい」

「や、やめろ触るな――」

「ふふふ、力強く動いてもダメ。死にたくなかったら、私の言うことを聞きなさい」


 俺を抱えたまま、ダンジョンママは瓦礫をつたっていく。

 崩壊していく隙間の中に外が見え始めると、ここが凄まじい高層だとわかった。

 いつのまにかこんな高さまで来ていたのか。

 数分だろうか。神業を見せられたまま、俺はママの包容力に包まれていた。

 そしてダンジョンは完全に崩壊、無事に地面にたどり着いたものの、凄まじい光景が広がっていた。

 

 瓦礫、瓦礫、瓦礫だ。幸い人は見えない。

 今日はこのあたりはイベントで封鎖されていて、誰もいなかったからだ。

 俺もそれを狙ってきていた。


 そのとき、ママが俺に身体を預けてきた。

 いや、気を失ったのだ。おそらく、力を使いすぎたのだろう。


 ダンジョンを警戒するサイレンが鳴り響き響き、パトカーのサイレンが聞こえてくる。

 俺は無免許クライマーだ。ここからすぐ立ち去らなければならない。

 だがこのボスはどうなる?

 

 世界初の人型のラスボスとして”人体実験”、最悪の場合”二度と日の目を浴びれないだろう”


「……まだ、決着はついてないよな」


 俺はママを背負い、その場を後にした。


 背中にたゆんたゆんを感じながら。


 ――――――――

 世界初ダンジョンママとの溺愛ラブコメです。


 主人公は16歳、神代シンヤ。戦いが大好きな無免許ダンジョンクライマーです。

 高校には通っています。


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 注意点としましてはラブコメです。ダンジョンへ行くこともあると思いますが、ラブコメです。


 よろしくお願いいたします!!!!

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