Day15 解読
浮き輪売りと私は、海岸にやってきた。
何もない砂浜が広がっているように見えるが、浮き輪売りは砂に埋もれた貝殻を目ざとく発見し、腰から提げた袋にどんどん入れていった。たちまちのうちに袋はいっぱいになった。
「いやぁ、お付き合いいただきありがとうございます」
浮き輪売りはホクホクしている。
東の空が明るくなりかけている。夜明けが近いのだ。私たちはしばらく海岸を歩くことにした。浮き輪売りの屋台は砂地にも沈まず、むしろ自ら車輪を動かし、ゆっくりと前進する。
「おや、前に何かありますね」
浮き輪売りが指さした。砂浜に何か描かれているらしい。絵のような、記号のような――暗号文だろうか。
「何でしょう?」
「さぁ」
二人で首を捻っていると、突然海から黒いものがヌッと現れた。アシカである。ツヤツヤしたアシカが、波の間から何頭も現れ、砂地に描かれた模様を取り囲んだ。抱えてきた分厚い本をめくるものもいれば、砂浜に描かれているものをノートに書き写そうとしているものもいる。
「何をしているんですか?」
声をかけると、アシカは一斉に振り向いた。
「夏祭りの大祭の、場所と日時を調べているんです」
「なんですと」
私は思わず一歩前に出た。夏祭りの大祭といえば、山車は必ず出席するだろう。しかし場所も日時も毎年ランダムなので、手がかりにするのは難しいと思っていた。
「これは古代の言葉でありまして」ひときわ大きなアシカが、眼鏡のつるをクイッと持ち上げながら教えてくれた。「このように砂場に描かれるのは、祭りについて鳥などに告知するためと言われています。誰が描いているのかは不明です」
「読めるんですか?」
「いや、私たちには読めません」アシカは首を振った。「鳥たちにも解読不可能です。しかしこうしてデータを集めておれば、いつか再び読めるようになるときがくるはずです」
地道かつ大変な仕事である。
浮き輪売りと私は、アシカの研究者たちと別れ、なおも海岸を歩いた。しばらく歩いたところで、浮き輪売りが言った。
「ああいう意志のないアシカだったら、二、三匹浮き輪にできたんですけどねぇ。残念です」
結構怖かった。
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