Day8 足跡

 気がつくと、私は砂浜に埋まっていた。

 三日月が夜空を移動しているが、まだ空は真っ暗だ。腕時計を見たが、残念ながら螺子が切れている。スマートフォンは充電が切れて真っ暗だ。何時かよくわからないが、しかしまぁ夜中だ。

 一体どうしたというのだろう。

 砂浜に座ってぼんやりしていると、だんだん思い出してきた。

 しらはえ通りで友人に出会った。大判焼等をあげた代わりに、リヤカーに乗せてもらった。その辺に掴まれと言われて、リヤカーの荷台の縁を掴んだ。

 友人が走り出す。といっても、しらはえ通りを抜けるまではスキップみたいなものだった。しらはえ通りを抜けて片側二車線の広い道路に出ると、いよいよ本性を現した。

 スピードがどんどん上がる。カーブのたびに遠心力が私を押し出そうとする。よく見れば緩衝材の毛布たちも、互いに端を絡ませあって、振り落とされまいとがんばっている。

 そうだった、友人とはこういうひとだった。雲をつつくために空に脚立をかけるような傑物だった。穏やかな旅にはなり得ないということを、私はしばらく会わないうちに忘れていたのだ。どうしてこんなハードな乗り物に乗ってしまったのか――私は自分の愚かさを呪った。

 友人は車通り、人通りの少ない道を選ぶ。遠回りになっても、思い切り走れた方が楽なのだ。リヤカーはいつの間にか山道を走っている。片側に土の斜面、そしてもう片側には海が広がっている。夜の海は黒い。黒くて巨大な穴のようだ――

 その辺りで手汗がにじんだか、握力が尽きたかしたのだった。

 とにかく、リヤカーから振り落とされた先が、柔らかい砂浜でよかった。私は砂を払いながら立ち上がった。白い砂がぱらぱらと落ちた。

 さて、ここからどうしたものか。

 ぶらぶらと歩きながら考えた。幸い、財布とスマートフォン、そして家と会社のロッカーの鍵がついたキーホルダーは持っている。ただ靴が脱げてしまったので、どこかで調達しなければなるまい。

 砂浜は広く、どこまでも続いているように見える。波の音が心地よい。このままあたらよの散歩を楽しむのも悪くない、と格好つけたところで欠伸が出た。眠い。

 とりあえず、人気のあるところへ行こう。街へ行けば、靴屋も宿屋もあるだろう。

 ちょうどそのとき、私は前方に足跡を発見する。人間の、素足のものだ。

 三人か四人か五人か、とにかく複数人が海から出てきて、砂浜を横切っていったようだった。

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