20 王家の剣(レナ視点)


「強くなるための……道?」


 レナは国王の言葉を繰り返した。


「これを見るがいい」


 国王は祭壇を指し示す。


 凹型をした祭壇は一方に書物が置かれ、もう一方には剣が刺さっている。


「この剣は単なる祭具ではない。かつて魔王を討ち滅ぼした我が祖先――当時の勇者にして初代バレルオーグ国王が使っていた聖剣『グランゼア』なのだ」

「グランゼア……?」

「正確には、その形代だ。この剣に王族が『聖なる力』を籠めることでグランゼアは完全な姿となり、あらゆる魔を討ち払う真の聖剣と化す」

「真の……聖剣」


 レナはゴクリと息を呑んだ。


「王家の血筋は、代々『聖なる力』を宿している。そして、その力を解放するためには試練を乗り越えなければならん」


 国王が説明する。


「試練を……」

「危険な試練だ。しかし、お前が望むならば受けさせよう」


 レナを見つめる国王。


「受けます」


 彼女は即答した。


「……お前ならそういうだろうと思ったよ」


 国王はうつむき、つぶやいた。


「父としては受けさせたくないが、な。しかし私は父である前に王だ。民を守るため……たとえ娘といえども、お前が危険な試練に挑むことを止められん」

「私は、感謝しています」


 レナが進み出た。


「私に成長の機会を与えてくださることを。強くなるための機会を与えてくださることを」

「レナ……」


 国王は険しい表情で告げる。


「必ず生きて戻れ。そして強くなれ。よいな」

「御意!」




「あたしは国王陛下に殿下のことを進言しました。差し出がましい真似をしたことをお許しください」


 礼拝堂から出て、訓練場に戻る途中、カミーラが声をかけてきた。


 深々と頭を下げた彼女に、


「いや、頭を上げてくれ。君が進言してくれたことには感謝している」


 レナが微笑む。


「おかげで道が開けたんだ」


 言って、国王との会話の内容を告げた。


「王家の試練……ですか?」


 カミーラの表情が険しくなった。


「あたしも噂で聞いたことがあります。確か命懸けの危険なものだと――」

「それでいいのさ」


 レナは平然と答える。


「命を懸けなければ得られないほどの力――それを得ることができたとき、私は今よりも強くなれるはずだ」

「殿下――」

「私は、ジルダの隣に並びたいんだ」


 レナが熱を込めて告げる。


「彼に守られる存在ではなく、彼に頼られる存在になりたい。彼に――私のことを見てほしい」

「……まるで恋のようなことを言うのですね」

「こ、恋っ……!?」


 カミーラがぽつりとつぶやくと、レナは思わず言葉を詰まらせた。


「な、な、な、何を言っているのだ!? 私は別にっ……こ、この気持ちはそいうのじゃない! え、えっと、だから、その……っ」

「随分と動揺してますね」

「し、してない!」


 言いながら、レナは頬が熱くなるのを感じていた。


 正直、恋というのがどんな感情なのかは分からない。


 ただ、ジルダのことを意識しているのは確かだ。


 絶対的な強者として――彼への敬意や憧れはある。


 だが恋とは――なんだろう?




 そして、その夜――。


 白く淡い光に包まれた空間に、レナは一人で立っていた。


 ここは魔法的に作られた異空間だ。


 王家専用の『試練の間』。


 国王に案内され、この空間内に入ったレナは、これから試練に挑むところだった。


 ヴ……ンッ!


 と、うなるような音を立てて、前方に人影があらわれる。


 王によれば、この空間では『自分にとって乗り越えるべき壁』が具現化し、現れるのだという。


「私にとっての壁は――お前しかいないな」


 レナはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 前方に現れた人影はジルダだ。


 正確には彼の幻影か。


 ジルダの幻影は無言で剣をだらりと下げていた。


 いつもの、彼の【カウンター】の構え。


「いくぞ、ジルダ」


 レナは剣を抜いた。


 幾度となく戦い、完封された相手。


 レナに生まれて初めての、完膚なきまでの敗北を味わわせた相手。


「私は今こそ――貴様を乗り越える!」


 レナの、試練が始まった。





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