【第6話】心の迷宮と二人の勇気
バグエリアの奥は、不安と孤独が具現化したかのような奇妙な世界だった。
宙を舞う壊れたオブジェクト、褪せた色の大地、見知らぬエラーコードが霞のように漂う。
リュカとエリスはそっと手を取り合って、ゆっくりと奥へ進む。
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「こ、ここ……すごく不気味だね」
エリスの声がわずかに震える。
「大丈夫。俺がいるから、一緒に行こう」
リュカはそっとエリスの手を握り返す。
バグの中心部には黒い影が渦巻いている。
それは、ゲーム世界に滞留する“誰かの負の感情”が集まってできた巨大な塊のようだった。
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アリアが現れ、説明する。
「これは、プレイヤーたちの“孤独”“不安”“嫉妬”“絶望”といった負の想いが積み重なったデータの集合体です。神リュカ様、そしてエリスさん、あなた方の“心の力”が浄化の鍵となります」
エリスは自信なさげにうつむく。
「私……自分の心すら整理できていないのに、本当に何かできるのかな」
リュカはエリスをまっすぐ見つめて言う。
「大丈夫。俺もずっと現実で孤独だったし、不安でいっぱいだった。だけど、こうしてエリスと出会って、変わろうと思えた。きっと俺たちなら乗り越えられる」
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巨大な影が二人に襲いかかる。
リュカは“創造”スキルで防御壁を作り出すが、負のエネルギーは強大だ。
エリスは恐怖で膝をつく。
だが、ふとリュカの手を握るエリスの手が力強くなる。
「わたし……もう逃げない。怖いけど、今は誰かと一緒だから前を向ける」
その瞬間、エリスの体が淡い光を放ち始めた。
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アリアが告げる。
「エリスさんの“勇気”のデータが、負の感情を上書きしています。続けてください!」
リュカもエリスに力を送り続ける。
「エリス、一緒にこの世界を浄化しよう!」
光はどんどん強くなり、闇の塊は小さくなっていく。
二人の“心の力”がバグエリアを浄化していくのがわかった。
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ついに黒い影が完全に消え去ると、エリアは鮮やかな草原と湖に生まれ変わった。
エリスは涙ぐみながらリュカに微笑みかける。
「ありがとう、リュカさん。わたし、ここで変われた気がする」
「俺も……誰かと力を合わせるって、こんなにすごいんだな」
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アリアが優しく二人を称える。
「お二人の勇気が、ゲームと現実の“境界”を一歩超えました。これからも、心で繋がる力を信じてください」
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その夜、ログアウトした遼の胸には、強い温かさと、これまでにない自信が灯っていた。
(エリスとなら、きっと現実でも前に進める。明日は自分から話しかけてみよう――)
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翌朝、遼は珍しく早く目覚めた。
鏡の中の自分に、少しだけ自信が宿っている気がする。
朝食の席で、妹の真琴が何気なく声をかけてきた。
「兄ちゃん、なんか最近明るいよね。どうしたの?」
「……ちょっとね。友達ができて、少し勇気が出た気がする」
真琴はふっと微笑み、「そういうの、なんかいいな」と呟く。
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大学では、タクが遼に近づいてきた。
「最近お前、雰囲気変わったな! なんかいいことでも?」
「うん、ちょっとだけ、前より自分に自信が持てるようになった気がする」
「それだよ、それ! 自信あるやつはカッコいいぞ!」
二人は自然に笑い合った。
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家に帰ると、真琴がリビングでくつろいでいた。
「ねえ兄ちゃん、もし良かったら今度一緒に映画でも観に行かない?」
「え? ……うん、行こうか」
兄妹の距離もまた、少しだけ縮まった気がした。
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夜、VRゴーグルを装着した遼の胸は、期待と不安が入り混じっていた。
ログインすると、すぐにエリスが駆け寄ってくる。
「リュカさん、準備できてますか?」
「もちろん。今日はきっと特別な冒険になる気がする」
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アリアが塔の前で待っていた。
「“希望の塔”は、ふたりの信頼と勇気が試される場所です。もし困難に直面したときは、互いを信じて一歩ずつ進んでください」
リュカとエリスは目を合わせて頷いた。
塔の扉が静かに開く――。
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