二人

 原中源太はらなかげんた斉田修さいだおさむは常に喧嘩をしていた。


 源太はわかりやすいガキ大将タイプで子供たちのリーダーだった。

 一方、修は成績は上位、運動もそこそこできる。優等生と呼ばれるタイプだった。


 かつては一方的に源太が修をいじめていたのだが、プリン争奪を期に修が爆発し、それからやってはやりかえすが恒例行事となった。


 小学校の登下校では、ランドセルや傘や、給食袋を使った戦いが繰り広げられた。


 二人は同じ中学に通い、同じ高校に上がった。


 源太はあいかわらず子供たちのリーダーだった。

 高校では不良グループの頂点に立っていた。しかし酒や煙草、薬に手を出す仲間はこっぴどく叱った。そういうところが男にモテた。


 一方、修は時代が時代なら劣等生と呼ばれるタイプだった。

 誰にもおもねらない。物静かで顔が良い。しかも学校の外では隠れて酒や煙草を嗜んでいる背徳的なところもあり、そういうところが女にモテた。


 高校生にもなって売店のプリン一つを争い取っ組み合いの喧嘩になったのは、そこに至るまでの積み重ねが放置されてきた、そこに要因があったのだと言う外にない。


 源太のやり方は幼稚で陰湿だった。

 椅子に鉛筆の芯を刺しておいたが気付かれる。誇張したモノマネは取り巻きの女にボコボコに叩かれる。トイレ個室に閉じ込めようとしても斉田はめっぽう強く、逆に閉じ込められた。本来ならそこで諦めて別の人間をターゲットに選ぶのが賢いやり方である。しかし源太は諦めなかった。


 修のやり方も負けず劣らず幼稚だった。

 黒板消しを扉に挟んだトラップは誤爆する。関節技をかけたら取り巻きの男にヘッドロックされる。トイレの怪談を個室の外から言い聞かせるやり方は両者疲れ果てた。ここまでやったら気が済んで別の事に興味が向きそうなものだが、修は諦めなかった。


 二人はライバルになっていた。



  ◆


 文化祭。

 二人は別々のクラスで出し物を決めた。

 どちらも喫茶店で、隣同士で、売り上げで競い合っていた。


 かわいい給仕のいる修のクラスは男女問わず客層の心をつかみ盛況していた。

 男たちが肉体美を見せつける源太のクラスはちょっと特殊な客層にリーチしていた。


 二人はまったく同じタイミングで廊下に出て、敵情視察に向かった。

 当然、鉢合わせる。


『原中源太くん』


 校内放送が鳴った。


『本当は斉田修くんのことが大好きな原中源太くん、至急体育館まで来てください』


 源太の顔が青くなり、それから赤くなった。

 修はそんな源太を指さして笑ってやろうとした。


『斉田修くん。本当は原中源太くんのことが大好きな斉田修くん、体育館まで来てください』


 修の顔が赤くなり、それから青くなった。


 喫茶店の営業は続いている。

 二人は何も言わず、自分たちのクラスへ戻った。



  ◆


 原中源太と斉田修は常に喧嘩をしていた。

 お互いに相手を許す気はなかった。


 二人は同じ中学に通い、同じ高校に上がり、同じ大学へ進んだ。


 それから同じ会社に入り、同じ屋根の下で暮らすことになったのだが、詳しいことは伏す。



  了

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