第2話 愚者の原石

「知らんのだろうなぁ……『愚者』の原石からしか『賢者』にはなれないって」


 俺は良さげな倒木に腰かけ、そんな事をふと思う。

 今が前世から何年後かは知らないが、少なくとも未だに俺の原石が前世と変わっていないという事は誰も至れなかったという訳だ。


 ───『賢者』にはな。


 まぁ仕方ないか。俺がそう思う理由はひとつ。

『愚者』の魔法は人が使うと即死案件だからだ。


 細かく説明する必要はないのだが、端的に言うならば『愚者』の魔法は属性を持たない。

 なんなら、し、あらゆる魔法を逆に壊す。


 そう、『愚者』の魔法はとっても故にあらゆる魔法を殺すのだ。


 ちなみ俺が杖を探してる理由もこのが問題だったりする。


『杖』は持ち主の原石から魔力を受け取る受信機であり、それと同時に増幅器と可変機でもある。

 その為、杖には基本的にあらゆる属性を受け取る魔法と、その効果をセットされた魔石に反映する魔法のふたつが付いている。


 ……もう一度言おう。

 必ず魔法が付いているのだ。

 え?『愚者』の魔力を杖に流したらどうなると思う?

 ……砕け散るよねそりゃそうだ。


 つまり俺が杖を使うには、を無効化、または中和してそれから受け取ってくれるものを使う必要があるのだ。


 無理である。

 少なくとも杖としての最低限の機能を持たない杖など無い。

 だからこそ自分で作ると決めたのだ。


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 さてと、回想も終わった事だし、始めるか。


 俺は服を脱ぎ捨て、倒木の上に腰掛け、そして沈黙していた原石を呼び覚ます。


告げよ汝の原石の名をアクト』」


 心臓の前に現れた『愚者』の原石は、相変わらず透明なクリスタルのようだ。

 酷く世界から隔絶されており、周囲だけ魔力が強制的に浄化されているせいかヒビが入っている。


「それじゃあ地獄を始めようか。ローグ君、君の怠慢を今在るべき形に返す時だ」


 ゾリゾリという風の音、先程まで晴れ渡っていた空は雷が振り落ち、どす黒い空気が辺りを包み込んだ。


「……ぐ、ぎ、…………む、ぅ」


 初めの変化が身体に起こる。

 ボコっという音、血管が沸き立ち鼻から血が滝の様に噴き出す。

 次にボキッという音、腕の骨が逆さ向きに曲がる。


 脂汗は濁って真っ黒で、身体には無数の亀裂が走る。


 ……やはりキツイな。

 今、俺は魔力を全身にしっかりと回しているだけなのだ。

 ただ回しただけでコレだ。

『愚者』の魔力は人体にとってあらゆる毒素よりも強烈な毒となる。

 ローグは本能的にそのことに気がついたのだろう。

 だから鍛えなかった。使ったから死ぬから。

 一応正しい判断をしたと褒めるべきなのだろうか?


「……ふむ、それにしても血を流しすぎたな。頭が痛い、クラクラする」


 流石にいきなりは無茶だったようで、身体がビクビク痙攣し、口から泡が止まらない。

 まぁそれでも死にはしない。なぜなら、俺は賢者だからだ。


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 気が付くと夜だった。

 どうやら俺の匂いに引き寄せられた魔物がわらわらと群がってきて、そして『愚者』の魔力の残滓に当てられてしまったのだろう。

 無数の死体が積み上がっていた。


「……昔と逆だな。前世の時は、誰も寄ってこなかったからコチラから詰めて殺すしか無かったっけな」


 執事が残した剣を手に取り、倒れた魔物の死骸に刃を突き立てる。

 サーペントタイガーという蛇の体に虎の頭を持つ変な魔物だった。並大抵の魔法使いなら軽く魔法を当てるだけで殺せるので、害にはならない。


 ぐしゅ、ぐしゅと肉を断つ感触がして、それからコロンと石ころが落ちた。

 これが魔石だ。

 魔物が体内に持つ魔力機関。つまり心臓。


 それを拾い上げ、それから俺は食べた。

 本来は食べれるような物じゃないらしいのだが、生憎『愚者』であれば食べれる代物だ。


 すぐに腹が満たされた。

 原理は忘れたが、魔石を浄化して食べるとお腹いっぱいになるし、肉体も強化される。


 ふと体を触ると、やはりふっくらとしていた。

 だが明らかに細くなっている。


 そりゃそうだ。

 俺はさっきのアレで脂肪分を純粋な魔力で洗い流したのだから、脂肪はだいぶ削ぎ落ちたに決まっている。


 あと10回やれば確実に必要な身体になるだろうし、さっさと済ませよう。

 そう思ったのだが、やはり無茶をしてしまったようで思うように身体が動かなかった。


 ……気長に行くか。


 死骸の肉もついでに生で貪ったあと、骨を片付けながら俺は寝る事にした。

 ちなみに魔物の肉には汚染された魔力がこびりついているので、焼くのが推奨されている。


『愚者』には特に関係無いが。


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 遮るものがないので、朝日がすぐに目に突き刺さった。

 だいたい4時間ほど寝たのだろうか?

 目を開けると、身体が結晶化していた。


「早いな、若さゆえか」


 手や足、顔にも結晶の柱が何本も連なっている。

 ちなみにこれは別に『愚者』にはよくあることだ。


 世界の大気には魔力があり、必ず属性が含まれている。

 息をするだけで必ず属性を人はとりいれる事になる。

 だが『愚者』はその大気に含まれる属性とすら相容れない。

 その結果こうして反応し続け、結晶が出来るのだ。

 要は錆である。


 心臓に手を当て、再び原石を呼び出し、それから調整を施す。

「『逆像と為せ』」


 ……すぐに身体の結晶が消える。

 同時に、体内に重いものがずっしりと膨れ上がっていく。


 相変わらず最初の衝撃が特徴的だ。

 なんのことは無い、結晶のを体内に変えただけである。

 なので結晶自体はこれから先もずっと生えてくる。


 だが、体内に生まれた結晶は折り重なって、肉体の一部となるので心配はいらない。

 ……最もその為人間としての機能はすぐに無くなるのだが。具体的に言うなら内臓器官や血液などは直ぐに結晶に置き換わり、筋肉、筋繊維、脂肪分、細胞に至るまでの全てが『愚者結晶』となる。


 でも仕方ないだろう?

 それをしないと、無限に結晶が生えてきて邪魔なのだから。


 ちなみにこの事を昔知り合いの魔女に話したら、頭がおかしいと言われた。

 ……そんなにおかしいかな?

 割と正しい判断な気がするのに。


 ……そんなことよりも次の肉体改造の時間だ。

 早く済ませて、早く杖を作るのを始めねば!!

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 作者です。


 というわけですぐに痩せる方法でした。

 もちろん真似しないでくださいね?


 フィクションだから許される無法なだけですので。








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