第3話 コスメティックバレー

瑠璃はシャルトルに来ていた。フランスにはコスメティックバレーと言うものがあり、香水などのコスメを産官学共同で保護し推進している。シャルトルにはロレアルなどの化粧品会社があり、大学の紹介で見学に来ていたのだ。

瑠璃の興味のある調香の話や成分の特徴や分類を聴いて満足してパリに戻った。

ヒアリングの時に大学での研究内容を聞かれ、さらっと説明したら、わが社においでと誘いを受け名刺ももらった。

4月に試験と面接があるからエントリーシートを出しておきなさい。

” Cette entreprise organise des examens et des entretiens en avril, alors assurez-vous de soumettre votre candidature ” といわれた。

開発部に所属されれば調香師になる可能性は多いし、専門学校に行く手間が省けて且つ、即本物の仕事ができる。「だったらそうしよう」と瑠璃は考えた。

同じ科学科にもコスメを目指す仲間がいるので一緒にエントリーすることにした。

科学科の仲間の、ディディエ(Didier)とクリスティン(Christine)は化粧品やコスメの研究テーマを持っていた。

時々みんなで集まるが、ディディエのいる学生寮CROUSに幽霊が出るといううわさがあると瑠璃は聞いた。

その幽霊の居る403号室にはみんな気味が悪いので住みたがらないので、打ち合わせや会合やパーティーに使っていいように解放されているという。

瑠璃たち3人はエントリーシートや面接対策を兼ねてそこで集まることにして403号室の使用届けを出した。すると噂を聴いて全部で8人集まると言う。

瑠璃は世話役になり、一足早く言って飲み物や紙コップとスナックを部屋に運んだ。

部屋に入ると書棚の横に女子学生が膝を抱えて座っていた。

「こんにちは (Bonjour)」

「今日はコスメの会社に就職するための情報交換する仲間でここに集まるよ (nous sommes réunis ici aujourd'hui pour échanger des informations sur l'emploi dans les entreprises de cosmétiques)」

その女子学生は黙って瑠璃を見つめている。欧州の幽霊は普通に見えるので、いても気が付かないことが多い。だからゴーストと呼ばれる連中は必ず悪さをする幽霊と決まっている。

日本の幽霊のように恨めしそうに青い顔して、薄れた感じで足が無い状態で出て来るのとは様子がまったく違う。

「あなたも一緒にいたらいいよ (tu sois avec nous aussi)」

結局12人ほどが狭い部屋に集まり、めいめい自分の椅子を持ってきて就職や面接の話で盛り上がった。

その女子学生の幽霊は瑠璃が気に入ったらしく瑠璃の横にべったりついているが、警告が入った。この寮の管理組合の学生が来て、一人の学生が女子学生の幽霊に寄り添い過ぎると良くないので離れるようにと言うのだ。で、この寮経験の長い慣れた学生が場所を変わった。

女子学生の幽霊はコスメの話が面白かったらしく退屈していない様子だった。

後で聞いた話だが、この女子学生は同じ大学の男性友達に呼ばれて、ブローニュ近くのアパートに行き、猟銃でいきなり撃ち殺されて、バラバラにされたということだった。

お開きになって帰る時の女子学生の悲しそうな目が瑠璃の心に引っかかった。

彼女は大学を卒業することも無ければ恋人ができることももうない。

寮のみんなは慣れているようだったが、時々こうやってこの部屋で賑やかにするそうである。


瑠璃はかえって部屋で又叫んだ

「ジャン、ジャン、殺された女子学生の幽霊が学生寮にいるのよ一緒に来て!(le fantôme d'une étudiante assassinée est dans le dortoir des étudiants, viens avec moi !)」

「なぜ私が行かなくてはならない(Pourquoi devrais-je y aller ?)」 部屋の隅の上から声がした。

「あなた男でしょ、優しいんでしょ、話を訊いてあげて (Tu es courageuse et gentille ! Écoute son histoire) 」

「それでは私の本を鞄に入れていきなさい (Alors mets mon livre dans ton sac)」.

最近買ったJEANの伝記、お姉さんが書かれたものだという本を鞄に入れた。

「それじゃ、本に憑いて一緒に来てね!(Alors, entres dans le livre et viens avec moi)」.


また瑠璃は学生寮に行き、忘れ物をしたと言って鍵を借りて入った。

女子学生は扉を開けるとそこに立っていた。 誰かが良くあると言っていたがビビった。

すかさずJEANが本の中から飛び出して来た。

「Je m'appelle JEAN et j'ai fait des études de philosophie à l'université pendant la guerre.」軽く自己紹介して、女子大生の幽霊に話しかけた。

「Je m'appelle Lulu et je suis diplômée en littérature française.(私の名前はルル、専攻はフランス文学だったわ。)」 瑠璃は女子大生の幽霊が話す声を聞いた。聞ける体質なのだ。

403号室に集まった時に後から来た学生は、「見える人」、つまり幽霊が見える人たちだった。

聞いた話によると、女子学生以外にも幽霊が一人部屋に来ていたらしいが、瑠莉にはわからなかった。

JEANはLULUに戦争中の話をしていたようだが、LULUが殺された時の様子を語りだすと黙り込んでしまった。そしてすごく怒っていた。

「なぜ犯人は釈放されたんだ? (Pourquoi un meurtrier est-il en liberté ?)」

部屋に戻ってからJEANの声が聞こえてきた。

「犯人に復讐だ!(Trouvez le coupable et vengez sa mort !!)」

「今日はありがとう、JEAN (Merci d'être venu avec moi.)」

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