第五夜 水色しましまパンツ(後編)

 青春未満の小六男子と、大人の階段を登りつつある中二女子。あまりにも唐突な展開に継宣つぐのぶは戸惑いを隠せない。敦子あつこもまた、まさかの反応に驚くばかり。当初の目的はなんだったのか。ただ可愛がりたいだけだった。なのに継宣からの「ババア」呼ばわりである。


「だって、先生が学校で言ってたよ」

「ああ、小学校だと保健体育の授業で教えていたかな?」

「女の子は、男子より早くおとなになるって! おとなになると股間に毛が生えるって!」

「どんだけ毛を気にしているの。こんなの全然生えてないのと変わらんて」


 そう言いながら、ちょろちょろっと生えている数本の毛をつまむ敦子。

 敦子は、股間を手で覆い隠しておどおどしている継宣の背中を押し、風呂場へと入っていった。

 慌てて風呂釜へと逃げるように飛び込んだ継宣は、恥ずかしながらも、洗い場の敦子を、チラチラと見ていた。


「もう、つぐくんったら、なに今更照れてんのよ。昔はよく一緒に入って洗っこしてたじゃない」

「そんなこといったって、アツコ姉……大人の女の人になってきてるのに」

 そう言いながらもチラチラと敦子の股間と胸を視線を上下させながら見続けている。


 そんな継宣に気がついてた敦子は、いつものように彼の髪をガシガシと乱しながら、洗い場に引っ張った。

「ほらほら、ちゃあんと身体洗ってから風呂に入ろうねー」

「もうっ、いつまでも子ども扱いしてぇ」

「えー、だって子どもじゃないの。毛……生えてないよね? 少年ちんちん」

「ぎゃあああああ! もーっ! もぉーっ!」

 そう言うと継宣は、敦子の手を払いのけた。

「きゃっ」

 思いの外はずみがついた継宣の手が、敦子を押し倒してしまった。

「ご、ごめん、アツコ姉……大丈夫?」

「もうっ、大丈夫? じゃないわよ。ケロロン桶に足をぶつけちゃったじゃない。ほら! 赤くなってる」

 と、赤くなったふくらはぎを継宣に見せると……。継宣は敦子の別の部分を凝視していた。

「……アツコ姉……、なんか、胸が……腫れてる……」

「ちょっ!!」

 敦子はびっくりして、思わず両手で乳首を隠した。急に恥ずかしくなったのだ。


(――なんなの? つぐくん、おっぱいにも興味津津なの?)


 敦子を起こそうと彼女の手を掴み、引っ張ろうとした時、今度は継宣が足をすべらせた。敦子に覆いかぶさる継宣。手は彼女の膨らみかけの小ぶりな胸を強く押しつぶし、膝は彼女の股間を強く、そして深く圧迫していた。


「……!」


 二人は、急接近していた。息がかかりそうな程に顔が近くなり、お互い見つめ合った状態のまま、しばらく静止した時間が過ぎた……。

(――つぐくん、なんだかすごく真剣な顔をしている。それになんだか息が荒い……)

(――アツコ姉、胸がやわらかい……、それにアツコ姉の股間が熱い……)

 敦子は、かつて経験したことのない痺れのような衝動を股間に感じていた。また継宣も膝と太ももに未知の柔らかく、そして生暖かくぬめりとした感触に戸惑っていた。


「さっ、身体洗っちゃおうか」

「う、うん……」

 二人はこのままでいたいなと思いつつ、少しだけ照れくさそうにしながら身体を洗い始める。


「はい、背中終わり。ほら、こっち向いて。前も洗おう」

「ま、まって……アツコ姉、ちょっと……」

「あっ……」


 先程敦子の胸と股間に感じた柔らかさを思い出しつつ、彼女の細く白い指が継宣の腹の辺りを優しく触れる感触にたまらなくなっていた。初めて固くなっていたのだ。


「アツコ姉……なんか変な気持ちだよう」

「うん、大丈夫、大丈夫だから。これはとても自然な事だから。つぐくんが健康な男の子だから……大丈夫」


 敦子も内心とても動揺していた。イトコの、それも小学生の固くなった、少年ちんちんを目の当たりにしたのだから。

 初体験。そんな言葉が脳裏をよぎるも「ないない、だって少年だし」と思いながらタオルを泡立てて丁寧にこすってあげた。


「はい、綺麗になったよ」

「ありがとう、じゃあ今度は僕がアツコ姉を洗ってあげる」

「えっ、いいよいいよ。自分で洗えるから」

 と、軽くお断りをするも、どうにも継宣は強い好奇心を隠しきれず、振り払おうとしていた敦子の手を強く掴んだ。そして――


「あ……、やんっ」


 継宣は石鹸で泡だらけになったタオルと手で無我夢中で敦子の股間、腹、ワキ、胸を執拗になで……いや、洗いまくった。ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……。


「ちょっ、つぐくん、痛いってば。やっ、もうちょっと優しくこすってよ」

「はぁはぁはぁ……ご、ごめん、ついなんかふにゃふにゃでふかふかで柔らかいアツコ姉の身体が気持ちよくって」


(――ちょっとつぐくんをからかい過ぎちゃったかな、もうちょっと大きくなってたら危なかったかも)


 そんなことを考えながら体の泡をながし、二人で風呂に浸かった。


 いくら田舎の農家の大きい風呂でも二人はさすがに狭かった。継宣の背中には敦子の胸が、敦子の股間には継宣の足の指がデリケートなところをピンポイントで刺激を繰り返していた。


 そして――


 二人とものぼせた。

 しばらくして、いつまでたっても風呂から上がってこない二人を心配した敦子の母が様子を見に来てくれた。彼女はなんの疑問も不信感も持っていなかった。この二人は以前から姉弟のように仲良く風呂に入っていた仲だったのだから。まさか大人の階段をのぼりつつある二人とは思いもよらなかったのである。


 その後、すっかりのぼせてしまった二人は、夕食も食べずにそのまま、二階の敦子の部屋で、布団を並べて寝かせられた。


   *


「ん……、あれ? いつの間にか布団で寝ていたのか。あ、そっか風呂場でのぼせちゃて……」

 身体を起こし横を見ると、布団を足で蹴飛ばして大口を開けて寝ているアツコ姉の姿があった。

「……相変わらずすごい寝相だ……ぷぷっ」

 そんなアツコ姉は、昔と変わらぬぶかぶかのいちご模様パンツを履いていた。昔と違うのは、やはり体つきの変化だ。腰はなんだか細くて小さいのに、お尻がドーンと大きい。

 僕はしばらくまじまじとアツコ姉のお尻を眺めていた。寝ぼけてなのか、ときどきアツコ姉が尻をボリボリかいていたのがなんともいえない気分になる。昼間、そして風呂場で感じたあれは一体なんだったのだろう。


 ――翌朝


「つぐくん、おはよう」


 アツコ姉は、僕を起こし、何事もなかったのように、素知らぬ顔で、部屋を出て洗面所に向かった。僕は、朝日を浴びに、ベランダへと出た。

 二階のベランダの物干し竿には洗濯された、色とりどりのしましまパンツ。水色と白のしましま。青紫のしましま。赤と白のしましま。チェックのミニスカート、白いブラウス……。小さなスポーツブラ。それらがヒラヒラと風になびいていた。一緒に干されている僕のブリーフとTシャツが、ポツンと居心地が悪そうに見える。


「――アツコ姉、どんだけ縞パンが好きなんだよう」


 ――水色しましまパンツ……、アツコ姉の股間を思い出す。はぁ……。


 今日は、アツコ姉の一つ違いの弟、アツシちゃんの一周忌の法事。昼前までにはお母さんもこっちに到着するだろう。


 アツコ姉、来年もまた会いにくるね。それまで元気でね。


          (了)

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