《第二章》第三節:資料館での波乱、そして真司の不器用な優しさ

健太と別れ、俺と桃、そして真司は、気を取り直して資料館へと向かった。しかし、真司の表情は、どこか曇ったままだった。先ほどまでの穏やかな雰囲気は消え、彼の周りには緊張感が漂っている。俺は桃の肩の上で、真司の心の波立ちを感じ取っていた。


資料館は、昔のゲーム機や開発資料などが展示されていて、ゲーム会社を営む二人にとっては、まさに宝の山だ。桃は目を輝かせながら、一つ一つの展示を食い入るように見つめている。


「見て、真司さん! これ、昔憧れてたゲームの原画よ! すごい、こんな細かいところまで描き込まれてるんだ」


桃が興奮気味に真司に話しかけるが、真司の返事は、普段よりも短かった。


「……そうですね。貴重な資料です」


その声には、少しだけ力がない。桃も、真司の様子に気づいたのか、不安そうな顔で彼を見上げる。


「真司さん、どうかした? 顔色悪いけど、疲れた?」


桃の優しい問いかけに、真司ははっとしたように顔を上げた。


「いえ、大丈夫です。少し、ぼーっとしてました。すみません」


真司はそう言って、無理に笑顔を作ろうとした。だが、その顔はやはり硬い。俺は、真司が健太という男の存在を、まだ引きずっていることを確信した。彼は、桃の過去の人間関係に、嫉妬しているのだろうか? だとすれば、なんとも人間らしい、そして、不器用な男だ。


資料館を巡る間、桃は真司の様子を気遣うように、何度も彼に話しかけた。真司は、そんな桃の優しさに触れるたび、少しずつ表情が和らいでいくようだった。しかし、彼の心には、まだ何か引っかかるものがある。


展示の途中、古いアーケードゲームのコーナーに差し掛かった。桃が目を輝かせているのを見て、真司が提案した。


「桃さん、これ、やってみませんか? 確か、桃さん、このゲーム好きでしたよね」


真司が指差したのは、昔懐かしいシューティングゲームだった。桃は「え、いいの!?」と声を弾ませ、真司と並んで筐体に座った。二人の顔が、ゲーム画面の光に照らされる。


桃は、ゲームが始まるとすぐに熱中し、真剣な顔でコントローラーを操作している。真司は、そんな桃の隣で、時折アドバイスをしながら、優しく彼女を見守っていた。その横顔は、先ほどまでの沈んだ表情とは違い、どこか楽しげに見える。俺は、この瞬間こそが、真司にとっての安らぎなのだと感じた。


しかし、その穏やかな時間は、突然終わりを告げた。

「桃さん、お時間よろしいでしょうか?」

どこかで聞いたことのある、耳障りな声が聞こえた。振り返ると、そこには、またしても健太が立っていた。彼は、先ほどの公園とは違い、どこか得意げな顔をしている。


「健太さん!? どうしてここに……?」


桃は、驚きと戸惑いの入り混じった顔で健太を見上げた。

健太は、真司をちらりと見ると、ニヤリと笑った。


「まさか、ゲームセンターみたいなところで会うとは。相変わらず、子供っぽい趣味は変わらないな」


その言葉には、明らかに桃を小馬鹿にするような響きがあった。そして、真司への侮蔑も込められている。真司の顔が、再び硬くなる。彼は、桃の前に立つようにして、健太と桃の間に割って入った。


「何か、ご用でしょうか?」


真司の声は、低く、威圧感を帯びていた。普段の彼からは想像できないほどの、強い感情が込められている。健太は、真司の思わぬ反応に、一瞬だけひるんだようだった。


「いや、別に。ただ、桃に挨拶でもと思ってね。副社長さんは、ずいぶん過保護なんだな」


健太は、真司を挑発するような言葉を吐き捨てた。

真司の拳が、僅かに震えているのが俺には分かった。

彼は、桃のために、静かに怒っているのだ。

その不器用なほどの優しさが、俺のひねくれた心を、また少しだけ揺さぶった。

さて、この状況を、この不器用な男は、どう乗り越えるのだろうか。

俺の観察は、さらに熱を帯びてきた。

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