第15話 信仰と共通認識
土曜日、今日は授業が無い。僕は部活動をしてはいないので、学園に寄る用事は無い。今は古い高層住宅が立ち並ぶのを、下の広場から眺めている。回りの建物が邪魔で日当たりは悪い。まあ、日光を遮れるのは夏の近い時期には嬉しい。個人的にね。
視線を落とすと広場で少年たちがキャッチボールをしている。ここは島の中でも特に治安の良い場所の一つだ。近くに交番があるからかな? 待ち合わせにはピッタリだろう。それと、この場所を選んだのは、僕が最近の体験にビビってしまっているからだ。我ながら、情けない。けれど、安全が第一だと思う!
僕が広場に到着してから数分後に、因習村さんもやって来た。彼女はいつものように、黒くて袖の長いジャージを身に付けている。彼女は背が低いんだけど、その服装で結構すぐに見つけられる。手が隠れても、まだ余裕のある長さの袖って結構目立つね。でも、袖が長すぎて不便ではなのだろうか。僕はそこが結構気になる。
「おはよう、霧島君。待たせちゃったかしら?」
「そんなことないよ、因習村さん。おはよう」
軽く挨拶を交わし、今後の行動について話し合う。僕たちは、今調べるべき人間が四人居る。九頭先生、校長、教頭……そして渚野叔父さんについて調べてみる予定だ。叔父さんを調べるのはあまり気が乗らないんだけどね。
叔父さんは今日忙しくしているらしいので、話を聞くのは明日だ。校長、教頭、九頭先生本人についても、後日……月曜日辺りから調査していく。では、この土日を何に使うのかといえば、島の図書館で調べものをする。焦らずに、見落としが無いように、少しずつ調査を進めていこう。きっとそれで良い。
「島の図書館で調べものをするわけだけど、霧島君。九頭家について調べる?」
「ん、どうするかな」
九頭家は島の名家であり、古くから存在している。クトウ島の図書館なら、九頭家について何かが分かるかもしれない……うん、そちらは僕が担当しよう。任せてほしい。
「分かった。僕が九頭家について調べる」
「了解。なら私はクトウ島と霧についてを、調べてみる。私も、知らないことは結構あるからね」
因習村さんはそう言うが……少しだけ怪しい。や、手伝ってくれる相手を疑うなんて良くないんだけど、因習村さん、そういうことには詳しいイメージだからな。本当に知らないのか? と疑ってしまう。いや、ほんとに良くない考えなんだけどね?
「……霧島君」
「あ、はい。何かな?」
「私なら、わざわざ調べなくても霧のこととか分かるだろって考えてない?」
「それは……」
「どうなの?」
因習村さんは僕を見上げながら、ジロリと睨んでくる。うう、そういう目を向けられると困るなあ。ここは正直に白状するしかなさそうだ。
「……うん、そうだね。因習村さんは、その辺のことには詳しいと思ってる」
「私は、そういうことには詳しいけれど、何でも知っているというわけではないのよ。ちょうど良いかな。ちょっとしたルールってやつを教えてあげる」
「ふむ」
何がちょうど良いのだろう? ちょうど良いタイミングということか? あと、因習村さんのドヤ顔がちょっと腹立つな。ま……何か教えてくれるというのなら、教えてもらおう。
「知ってるかしら? 怪異っていうものはね。人々の認識によって性質を変えるのよ」
「人々の認識によって?」
「そう、人々の認識によって性質が変わるの。共通の認識で安全な怪異は安全だし、危険な怪異は危険なの。そういうものなのよ」
「へえ?」
「神様が人々からの信仰を力にしてる設定とか漫画やゲームで見かけないかしら? ああいうものなの。何故、そうなのかは分からない。けれど、そういうルールなのよ」
「そうなんだ?」
「んもう……ちゃんと話を聞いているのかしら?」
「ちゃんと聞いてるよ」
「なら良いけど……」
因習村さんは、いぶかしむように僕を見上げている。いや、ほんとに話はちゃんと聞いてるんだよ? ただ、いきなり信仰とか、共通認識についての話をされても困惑するというか……怪異というものが存在するのは信じるけど、それはあくまで現象として考えてるというか……うーん。
そこにあるから、あるんだろうって感じで、僕は因習村さんが言うより、怪異については、もっと単純に考えていたのだ。
「……ま、良いや。私が何を言いたいのかというとね。怪異というものは、その土地によって姿や力が変わることもあるということ。だから私は、島の霧について、改めて調べるのよ。この土地の怪異は詳しくないから」
ん? 今の発言何か引っ掛かるような?
「そんなんだ」
「そう、例えば他所ではスーパーウルトラ怖い姿の怪異が、ここでは私のように可憐な美少女の姿だということもありえるのよ」
「な、なるほど……」
「むう、なによう……文句あるのかしら?」
「いや、文句は無いさ。良い説明だったと思うよ。ありがとう」
文句は無いけど、自分のことを可憐な美少女って、ずいぶん自己評価が高いな。それと、スーパーウルトラ怖い姿の怪異ってなんだよ……もうその字面が怖くないよ……。
と、あれ……何かさっき会話の中で引っ掛かっていたような……?
「というわけで、霧島君。行こ」
「あ、うん」
因習村さんが歩きだす。僕は、置いていかれないように、彼女の後をついていく。とりあえず今は、やるべきことについて調べよう。今日の調べものが先決だ!
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