人狼ゲームに巻き込まれたがどこかおかしい⑪




「「「うわあああぁぁぁ!!」」」


目を瞑っていても耐えられないレベルの光をまともに見てしまった村人たちは眩しい感情を越え身悶えしていた。

穂風が何をしたのか分からないが光と共にキーンと耳に刺さるような音も鳴っていて、腐った卵のような硫黄臭まで辺りを包んでいた。


「琉加、こっち」

「え?」


琉加は穂風に腕を引っ張られこの場を離れた。


「今から電気柵を抜ける」

「は!? いや、それは流石にできないって!」

「大丈夫だから」


そう言って電気柵の目の前まで来た穂風は躊躇うことなく電気柵に手をかけた。


「それはマズッ・・・」


感電することを恐れ止めようとしたがどうやら本当に大丈夫らしい。


「え、どうして・・・? 電気が流れていない?」


恐る恐る自分も手をかけてみたが安全のようだ。


「早く上って!」


穂風に促され二人は電気柵を抜けた。 同時にトランシーバーのようなものを取り出して誰かと連絡を取り出した。 ただ先程の一件で耳の聞こえが悪く何を言っているのかは聞き取れない。


「こっち!」


今度は穂風は入口へと走ると門にマスターキーを取り付けてしまった。


「意味なくない!? だって電流が流れていないなら中にいる人たちもッ」


慌てて電気柵を見る。 光で目が慣れ遅れてやってきた村人たちは門が開かないことが分かると琉加たちが通り抜けた痕跡を見つけ電気柵を越えようとした。


「上ってくるから早く逃げないと!!」


琉加が走り出す準備をした瞬間電気柵から激しい火花が散った。


「「「ッ!?」」」


村人は一斉に電気柵から距離を取る。


「ここの村の人なのに電流が流れていないとでも思ったのか?」


穂風は楽しそうに笑っている。 電流は予想通りかなり強く、触れた村人はピンと硬直したまま倒れて泡を吹き起き上がることはなかった。


「え、どうして・・・? だって僕たちが上った時は電流は流れていなかった」

「電流が流れていないのはさっきの一瞬だけさ」

「どういうこと・・・?」

「とりあえずこれで村人たちは外へ出ることができなくなったな」


村人たちは門をガチャガチャと鳴らし試行錯誤しているが開く気配がない。


「電気柵は村の中からではどうにもできないということは確認済みだから安心して」

「どうやって確認したの?」

「占い紙を使ったのさ」


そう言いながらバッグの中から占い紙を取り出した。 それはハッキリと紫色へ変わっていて嘘をつかれたのだと分かる。


「外で色々と動いていてね」

「外へ出られたの!? 僕が頼んだら門は開けてくれなかったのに」

「そりゃあ、そうだろう。 部外者二人が村の外へ出たら何をされるのか分からないから人質は確保しておかないとな」

「だったら一人でも逃がしてはいけないんじゃないの?」

「村の外へ出ることを拒むと村自体が怪しまれるから断れなかったんじゃないか? まぁ、落ち着いたら詳しく話すよ」

「・・・穂風が何をしたのかはよく分からないけどこれで無事逃げられるのか」

「逃げられんよ」


琉加の声に村長が反応した。


「君たちは確かに村の外へ出た。 だけど決して我々から逃げることはできない」


その言葉に琉加は身体中を確認する。


「・・・特に異常はないしこのまま帰れそうだけど」

「くっくっく」


電気柵の向こうにたくさんの村人が集まってきた。 その彼らが次々に人の姿をした狼、人狼に変わっていった。 乱暴に柵を壊されるかもしれないと思い一歩後退る。


「なッ・・・! 早く逃げよう!!」


そう言うと村長が言葉を被せてきた。


「君たちは先程霧を吸った。 あれはこの地特有の夜になると出る霧で吸うと人間を変化させる。 これで直に私たちと同じ人狼となる」

「はぁ!?」


驚いている琉加をよそに穂風は至って冷静だった。


「ふぅん、なるほど。 どうしてこんな手の込んだことをするのかというのが最大の疑問だったがそれで分かった。 この推理ゲームはただの足止めだったというわけか」

「いや、どうしてそんなことを!? 一体何のために・・・」


村長も余裕を持ったままだ。


「君たちも疑問に思ったことだろう。 どうしてこの村に女性はいないのか。 それは女人禁制だからだ」


琉加と穂風は顔を見合わせた。


―――だから男に手紙を送ったんだ・・・。


「人狼というのは男だけの種族。 子を為すことのできない私たちは外の男たちを人狼に変えるしか繁栄の手段がないんだよ」

「まさか・・・」

「その通り。 ここの村人の半分以上は外の人間が人狼へ変わった者だ。 人間の頃の記憶はもうないだろう」

「ふッ・・・」

「何だ?」


突然穂風は笑い出した。 皆の視線が穂風に集まると穂風はおもむろに男装を解き出した。


「その霧とやらを女性が吸った場合はどうなるのかな?」

「なッ・・・!? 貴様、女だったのか!! 女が吸った場合は何もならん! 男装など私たちを騙しおって!!」

「最初に騙したのはそっちでしょう」

「だが! そっちの男は直に人狼へと変わるはずだ。 その女を殺して喰らえ!!」


そう言って村長は琉加を指差した。


「え、っと・・・」

「・・・人狼にならない? どういうことだ? 吸ってから数分は経ったはずだが・・・」


琉加は今の自分の状況を見て気まずそうに目を泳がせた。


「あー・・・。 僕は確かに身体も心も男だけど生まれた性別は女性だったから、かな・・・」

「は・・・!?」

「そういうことだ。 もうすぐ私が呼んだ警察が来るだろう」


穂風の前で初めて“自分は女性だった”と打ち明けたのに穂風は動揺していなかった。


「貴方たちの境遇に全く同情できないわけじゃない。 だけど何の罪もない人を勝手に人狼へ変え村に閉じ込めたことは決して許されることではないな」

「そんな世迷言のようなことを誰が信じるか!!」

「まぁ、全て録音させてもらっているから。 『人狼へと変わったら私を殺してしまえ』と言ったところもね」


そう言って穂風は録音されたレコーダーを再生してみせた。



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