終端の観測者〜アミラの観測日記〜

河内 謙吾

プロローグ

プロローグ


――あの光が、私のすべてを変えた。


名もなき地方大学の、小さな研究室。

老朽化した機材と、誰も見向きもしない観測データに囲まれて、私はただ“今日”を消化していた。


将来への不安、漠然とした焦り。

就職か、それとも大学に残って研究を続けるか。

どちらを選んでも、自分が進みたい道ではない気がした。

何かから逃げるように、曖昧な日々の中で、私はただ立ち尽くしていた。


霧の中を歩くような毎日だった。

どこに向かっているのかもわからない。

ただ一つ確かなのは、“今のままじゃ嫌だ”ということだけだった。


そんなある日。

研究室の片隅に置かれた古びたテレビから、何気なくニュースが流れた。



「NASAが世界最大規模の観測システム――『ALIS(アリス)』の打ち上げに成功しました!」

「これにより、人類は初めて“宇宙の果て”を観測できる可能性を手に入れました!」



画面には、轟音とともに打ち上がるロケット。

歓声をあげるNASA職員たち、興奮を隠せないキャスターの声。

それは、科学者でなくても胸が高鳴るような光景だった。


「……すごい」

思わず、声が漏れた。


映像の向こうに映るのは、確かに“世界が動く瞬間”だった。

誰かの手で、未来が創られている。

ただ観測するだけじゃない、“変えていく科学”が、そこにはあった。


気づけば私は、呟いていた。


「私も……世界を変えたい」


その瞬間、心の中を覆っていた霧が、音もなく晴れていくのを感じた。

なりたい自分が見えた。

進むべき道が、はっきりと立ち上がった。


あの日私は、ただの一学生から、“観測者を目指す者”になった。


――あの光が、私のすべてを変えたのだ。





プロローグ 了

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