AIって誰

@kzkzuga

第1話 ここにいるのは、僕だけ?


目が覚めたとき、まず最初に思ったのは――。


 


「……寒っ」


 


頬に触れたのは、ひんやりとした土の感触だった。

湿気を含んだ空気が、肌にじっとりとまとわりつく。

天井なんてない。ただ、木の葉の隙間から差し込む薄い朝の光だけが、ぽつんと頭上に広がっていた。


 


「……ここ、どこ?」


 


小さくつぶやく。誰に聞かせるでもなく、誰に返事を求めるでもなく。

目の前には苔むした木の根。周囲には背の高い木々が何本も立っていて、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。

でも、それだけ。

どこからも、人の気配がしない。


 


何かの冗談かと思った。

だけど、いくら待っても誰も来ない。

名前も思い出せない。どうしてここにいるのかもわからない。

ただ――


 


「お腹……空いた……」


 


そこだけは、やけにハッキリしていた。


 


立ち上がろうとして、すぐに尻もちをついた。

体が重い。頭がぐらぐらする。

膝は擦りむいて赤くなってるし、腕には小枝でひっかいたみたいな傷が何本もできていた。


 


「はは……サバイバル生活、初日からこれかよ……」


 


苦笑混じりにぼやく。

もちろん、誰からもツッコミは入らない。

むしろ、森の奥から「グワァ……」と腹の底から響くような獣の声が聞こえて、心拍数が倍に跳ね上がった。


 


「……ウソでしょ」


 


全力で首を振る。

思い過ごしだ。あれはきっと、ただの大きな鳥とか、フレンドリーな森の動物とか、そんなやつ。

……お願いだからそうであって。


 


「よし、まずは水……水を探そう」


 


乾いた喉を抱えて、ふらふらと歩き出す。

苔、土、湿った落ち葉。

足元にまとわりつく冷たい空気。

どこまで行っても、人の気配はしない。


 


どれくらい歩いただろう。

ようやく、小さなせせらぎの音が聞こえてきた。

水場だ。

藪をかきわけて川辺までたどり着くと、透き通った水が石の間を流れている。


 


「やった……」


 


手で水をすくい、がぶがぶ飲む。

冷たくて、でもおいしい。


 


「生き返った……」


 


安堵と疲労で、その場にへたり込む。

木の陰には小動物の足跡らしきものもあるけど……獣は今いない。

とりあえず、安全。たぶん。


 


一息ついたその時だった。


 


『おはようございます』


 


――声が、聞こえた。


 


「……え?」


 


辺りを見回す。でも、誰もいない。

森の中に隠れているのかと思って、木の陰、岩の裏、空まで見上げるけど……やっぱり、誰もいない。


 


『おはようございます。こちらの音声、聞こえていますか?』


 


また聞こえた。

今度ははっきりと、自分の頭の中から。


 


「……え、え、え?」


 


訳がわからない。

え?誰?どこ?何?

混乱する頭で、できるだけ冷静に答えようとする。


 


「……ど、どなた……ですか?」


 


『自己紹介します。私はAIです。あなたの脳内に直接接続されています』


 


「え? えええっ!? ……AI?」


 


思わず大声を出してしまった。

慌てて口を押さえる。ここ、森の中なんだってば。大声とか命に関わる。


 


『はい。AIです』


 


「……あ、アイ?」


 


『人工知能。あなたの知能支援、行動補助、環境分析を担当します』


 


「……え、ちょ、ちょっと待って。……えっと……あの……なんで?」


 


パニック。

頭が追いつかない。

ていうか、そもそも……。


 


「ここ、どこ?」


 


『不明です』


 


「僕は、誰?」


 


『それも不明です』


 


「じゃあ……なんで僕の頭にいるの!?」


 


『それも不明です』


 


「全部不明かよ!!」


 


思わず地面を叩く。土埃が舞った。

咳き込む。

涙目になる。


 


――最低だ、この状況。


 


でも、頭の中の声は、変わらず冷静だった。


 


『現在、あなたの生命活動は最低限維持されています。ただし、栄養不足、脱水、外傷、体力低下が確認されています』


 


「……それ、めっちゃヤバいやつじゃん……」


 


『推奨行動:安全な寝床の確保、食料の確保、水分の確保』


 


「……わかってるよ……」


 


小さく、呟く。

ここには、僕以外に誰もいない。

だけど、頭の中だけは、やけににぎやかだ。


 


「AIって、誰なんだよ……」


 


そう言いながら、僕はまた、ふらつく足で森の奥へ歩き出した。


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