第11話 蝶紛い(Day11、蝶番)


夜。

弥命叔父さんと、あばら家へラーメンを食べに行った。

煙草を吸ってから中に入る、という叔父さんの言葉に頷き、僕だけ先に店内に入った。

店内に、他のお客さんは居ない。カウンター席に座り、店主のおじさんに注文すると、いつも通り微かに頷かれた。

待っている間、突然店内の隅から、ギィ、と大きな金属音が響いた。僕と店主は、音の方を向く。

壁があるだけで、何も無い。気のせい?

でも、店主も聞いてるみたいだし……。

店主は、何事も無かったようにラーメンを作っている。だから僕も、何も言わなかった。

しばらくすると、また、ギィ、と音がする。

まるで蝶番が軋むような、そんな音。

その音は僕の背後から聞こえていて、段々近付いて来た。

店主は顔を上げると、僕の後ろの方をじっと見つめる。やがて、静かにカウンターから出て来た。手に麺棒を持っていて、ドキリとする。


「振り向くな」


それだけを、店主は僕に言う。

いきなりそんなことを言われて混乱したけど、言う通りにした。

ギィギィと、背後で音が続いている。店主は、僕の背後を暗い目で見据えていた。音が近付く度、麺棒を素早く振るっている。

表情は暗く険しいままなので、ふざけている訳でないことは分かった。意味が分からないけど。

音がかなり不快に感じ始めたところで、お店のドアが開く音がした。


「あ?」


弥命叔父さんの声。

ドアは僕の背後にあるから、叔父さんが何をしているのかは分からない。

足音がして、ドカッという音、その直後にバキッと何か折れるような音がした。

店主が息をつくと、僕を見る。


「もういい」

「は、はい」


店主がカウンター内に戻ると、叔父さんが僕の隣の席にやって来る。

店主は、じろりと叔父さんを睨んだ。


「もっと早く来い、つるぎ

「は?虫潰してやったのに、なんつー言い草だよ」


叔父さんはわざとらしく溜息をついて、席にカチャリと何かを散らすように置く。

それは、砕けた金属片たち。

到底虫には見えなかったけど、オーロラみたいな色の破片もあり、まるで羽が千切れた蝶みたいだな、とは思った。

店主はそれを一瞥しただけで、何も無かったようにまた、ラーメン作りを再開する。


「あの。ありがとうございます」


店主にお礼を言うと、いつも変化の無い目が、僅かに丸くなったのが分かった。

何も、変なことは言ってないと思う、んだけど。


「……これで、何で剣の甥なんだ」

「へ?」


呟かれた言葉に、変な声が出る。

弥命叔父さんは、店主を睨む。


「どーゆー意味だよ」


店主は暗い目で叔父さんを眺めただけで、何も答えなかった。

ちぇ、と叔父さんが舌打ちするのを聞きながら、僕はまた、よく分からない金属片を見る。

蝶番と感じたのは、あながち間違ってなかったのかもしれない。

何となく、そう思った。




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