200マイルの残像

半熟たまご

第1話 〔西岡〕

もう十数年ほど前だろうか、東名高速を大勢で飛ばして走っていたのは。海老名saから瀬戸・東京料金所までのタイムを競う悪しき公道レース…今でもあの時の熱を覚えている。

当時R32GT-Rが華々しくデビューし、多くのチューニングカーを過去のものとしてきた頃だった。大半のチューナーや公道レーサーが乗り換えるか降りるかをしている中、俺は意地でもL型エンジンと初代フェアレディZに拘りなんとか食らいついていた。そんな自分と同じ様に時代遅れの鉄仮面スカイラインに乗って、しかもそこそこの結果を出す男がいた。旧車乗り同士なにか通じるものがあったのか、互いにあだ名しか知らないのによく飯をおごってもらったりしていた。そんな彼を俺は慕っていて、アニキなんて呼んでいた。


偶然の出会いゆえ最初から長い付き合いになるとは思っていなかった。自然に歳をとって公道レースから離れていくと同時に疎遠になるとでも思っていた。が、アニキとの別れは思いもよらないものだった。


単独での事故だったそうだ。無理もないだろう。250km/h、速いときには300km/hに到達することもある運転なのだ。しかも一般車両も通るような公道で…いつ何が起きるかなど分かるはずもない。

高馬力で暴れる車体に足がついてこなかったのか、アニキの車は急に制御を失い中央分離帯に突き刺さって炎上したらしい。遺体は判別不能なまでに焼け焦げシートと張り付いてしまっていたなんて聞いた。


あれからしばらく経って、東名も警察の目が光るようになり俺は活動を首都高湾岸線に変えた。車も随分ガタが来ていたから乗り換えた。フェアレディZのZ31、現行で買える一番新しい型だ。エンジンだけ前の物を引き継いでいる。L型じゃないといけないんだ。アニキが死んだと言われるあの日、たまたま走っていなかった俺はその事故の話を受け入れることが出来なかった。いや、今でも受け入れられていないのだろう。何故か、どこかで生きているようなそんな気がするのだ。澄んだ夜の闇は奇妙な幻想を与える。昼には感じられない、まるで夢のような不思議な時間が俺の錯覚をあたかも現実であるかのように演出するのだろう。


まだどこかにいるかも知れないアニキに音が届くことを祈ってか、はたまた自分が忘れてしまわないようになのか、自分でもわからない。だが車体は変わってもエンジンは変えてはいけないのだと心の中の叫びが聴こえてくる。だから買い替えの際有利なはずのGT-RにせずフェアレディZを選んで、備え付けのVGエンジンをわざわざ降ろすようなマネをした。


今日も首都高に繰り出す。状況も場所も違う…それでも彼の残像を追って…

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