第5話 Day 5 三日月(小さな散歩)

 買い物から帰ったら、もう夕暮れ時であった。――それもそうだろう。水着を買うだけでは終わらなかったのだから。せっかく街中に出たのだからと、ウィンドウ・ショッピングもしたし、疲れてきたからと軽くお茶もした。――だが、それも込みで買い物である。少なくとも、ジェフがランフォードと一緒に行く買い物とは、そのようなものであった。


「いいのか、ラン。家まで送らなくて」


「もう少し君と喋りたいのだよ」


 家までの道を、ランフォードと並んで歩く。他愛もない話をしながら。太陽が沈みゆく時間帯になって、ようやっと少しずつ気温も下がってきている。その小さな散歩は、ジェフにとって心地よいものであった。


 駐車場からジェフの家までは、そう遠くない。すぐに、見慣れた家が見えてきた。


「せっかくだ。茶でも飲んでいくか、ラン?」


「構わないのかね?」


「ああ。冷茶が出来ているぜ。今ならゼリーも一緒に冷蔵庫で冷えていたはずだ」


「君の淹れたお茶は美味しいんだよね。もちろん、いただくよ」


 家の鍵を開けると、一階の和室にすぐにクーラーを入れる。涼しい空気を循環させるためのサーキュレーターを作動させるのも忘れない。


「少し、待っていてくれ」


 ランフォードが頷くのを確認してから、ジェフは階段を上がる。荷物を自室におろしてから冷蔵庫を開けて冷茶とゼリーを用意すると、漆塗りの盆に乗せて運んだ。


「待たせたな、ラン」


「そんなに待っていないよ。――この掛軸は現代で買った品かね、ジェフ?」


 ランフォードが、この前買ったばかりの新しい掛軸について尋ねてきたので、そこから話をまた始める。最近行った展示即売会の話に、この前店に来た客の話――ランフォード相手だと、話はいくらでも弾んだ。不思議なくらいに。


「また奇妙なお客だったのだね。人間は本当に、興味深い存在だよ」


「全くだ。――おい、ラン。そろそろ帰らないと、奥方が気を揉んでいないか? 連絡は入れたのか?」


 気付けば外も暗くなりつつあった。時計の針も七時を指している。


「そうだね。まだ話していたいけど、今日はそろそろ帰らないといけないかなあ」


「――またいつでも来ればいい。俺様なら、大概ここにいるからな」


 ランフォードと目が合う。にこりと微笑むランフォードに、自然とジェフも笑みを浮かべて応えていた。





 外に出ると、空には星が瞬きだしていた。まだ少し明るい西の空には、三日月の姿が。


「三日月だねえ、ジェフ」


「――ああ……」


 眉月びげつとも呼ばれるその月は、見事な弧を描いて空に光っている。月は、この人間世界でないと見られないもののひとつだ。魔界には月は存在しないから。


 この世界を照らすその光が、ジェフは気に入っていた。こちらの世界のどの国に滞在しても、月は変わらず、美しいと。


「――本当に、家まで送らなくて良いのか?」


「構わないよ。せっかくだから散歩を兼ねて、月見をしながらのんびり歩いて帰るから」


「まあ、それも風流だな――」


 ランフォードがジェフに手を振ってくる。ジェフはそれに、片手をあげて応えてみせた。

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