第7話
ノンが鳥の声と共に瞳を開けると、背後に人の気配があった。寝ぼけ眼を擦りつつ起き上がり、後ろを振り向く。そこには、なんとなく知っている少年が横になっていた。
「…あ、ドロボーだ。」
たっぷりと考えた上で、ノンはやっと思い出した。その声に少年はむくりと身を起こして、ノンをじとりと見る。
「おい、今忘れてただろ。」
ノンはそっと目を逸らした。五秒ほど間をおいて、ようやく答える。
「…覚えてたわよ、もちろん。あ〜そういえば今日の朝ごはんも昨日と同じのにしようかな〜美味しいわよね〜!あなたも昨日のやつ食べていいわよ〜残ってるかしら〜残ってなかったら予備があるわ〜!」
「おい誤魔化すな。」
少年はくるりと目を回してため息をついた。目が完全に泳いでいるノンは、ガサゴソとポッケの中を探している。
「つか、お前名前は?」
ノンはポッケを探る手をとめ、きょとんとして首を傾げた。
「あれ、言ってなかったっけ〜?」
夜は眠くて眠くて仕方がなかったから、適当にあしらって寝てしまったのだ。ノンはそれを思い出して振り返った。
「ノンだよ〜!あなたは?」
少年は、清々しい笑顔で答えた。
「エデン!多分だけどな!」
「多分じゃないわよ〜!」
口を尖らせながら、ノンは叫んだ。
時は移り変わり朝食後、エデンとノンは満腹感でうとうとしながら世間話を繰り広げていた。と言っても、それぞれが好き勝手に話しているだけである。
「それで宿屋のメアリーさんが〜、」
「そいであの街の美人がよ〜、」
「私の荷物を〜」
「俺の弟のことを」
やがて話題も尽き、二人はようやく相手の話を聞こうと相手に目を向けた。沈黙が広がる。
「話さないの〜?」
「話さねぇのか?」
また沈黙が訪れる。二人は、ようやく相手が何をしていたのか理解した。
「私の話、聞いてなかったの〜!?」
「俺の話、聞いてなかったのかよ!?」
息ぴったりな二人は、溜息まで同時についた。それぞれもそれに気がついた。そして、ノンのポニーテールがぴんと逆立つ。
「真似しないで〜!」
「真似するなよ!」
ここまでくるともう息ぴったりどころではない二人は、またもや同時につぶやいた。
「私たち、前世双子?」
「俺たち、前世双子?」
顔を見合わせて、黙る。数拍遅れて、二人はまたもや同時に吹き出した。
「ふふふふふふっ」
「あっははははは!」
一方は口元を抑え、もう一方は腹を抑えながら笑い転げる。彼らがやっとのことで落ち着いたのは、それから十数分も経ってからのことだった。
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