第5話 女神は穀潰しを脱出するよう迫られる
働いて来いと、ユリに教会を追い出された。
普通に考えれば、教会が俺の職場だ。なんたって御本尊だ。
しかし、ミュー様はまるで人々の信仰を集めておらず、教会にお参りに来る奴など年に一人もいればいい方らしい。
その状況でシスターやってるユリって何者なのだろうと逆に怖くなったので、言われるままに出掛けて、そしてすぐに舞い戻った。
「おい、どこに行けばいいんだ?」
「あーもうこの駄女神様! というか前隠してください!」
「あ?」
隠してるぞ…と下半身を見たら、ちゃんと隠れていた。
ただしジーンズにでっかいテントが張られていた。
「ダメか?」
「ダメです」
なんだよこれが女神の個性だよ…とごねたくなったが、広場の石像には屹立していない。だから偽物扱いされる可能性があると言われればしょうがないか。
ちなみに偽物なのは広場の石像だと思う。なんだよあの聖人君子みたいな顔。こいつは絶対に自堕落クズ女神だった。それだけは自信がある。
だって、俺が入れ替われるんだぜ?
ともかくダメだと言われたので、泣く泣く取り外すことにした。
「ひぃっ!!?」
「なんだよ御神体だぞ? 子宝に恵まれるぞ?」
「ミュー様はそんな神様ではありません!」
股ぐらに手を入れて握ったらポロッと取れたので、そのまま竿をその辺に置こうとしたらギャーギャー騒がれた。
しょうがないなぁ。
「なななななななんということをっ!!!?」
「一番問題ない場所だろ? 俺だし」
「一番問題ありますっ!!」
石像の股間にくっつけたら、ユリの癇癪がさらに酷くなった。まったく困った奴だ、これだから最近の若者は。
結局、妥協策として部屋の隅にあった引き出しの中にしまった。
正直言って、引き出しを開けたら肉棒が入ってる方がよっぽど心臓に悪いと思うが、居候の俺は渋々ユリの意向に従った。
あれ? 居候じゃないよな、俺。
ようやく股間テント問題も解決したので、ユリと並んでタニワの街を歩く。
昨日は夕暮れ近くでしかも騎士団に取り囲まれていたのでよく分からなかったが、どこかのテーマパークに迷い込んだ気分だ。
石畳の道に木造もしくは煉瓦造りの家が並び、馬車が行き交う景色。少なくとも俺の住んでいた世界より古めかしいのは間違いない。
――――その「俺の住んでいた世界」の輪郭が不鮮明なのは困る。
「なんかじろじろ見られてないか? ユリ」
「あ、貴方様が見られているのではありませんか?」
ふむ。
今日も相変わらず俺の巨大メロンは絶好調で、何せ自分の足元が隠れて見えない。立派なエロエロ身体を保っている。
自分で自分の顔は見えないが、そっちも昨日と変わらないはず。強いていえば、出すもの出してスッキリした顔?
小太りが美の化身とか巨乳は恥とかデカ女は消毒的な世界観でない限り、そりゃあ目立つだろう…が、一緒にいるユリも確実に視線を集めている。
見知らぬ女神と、別人のように変わったけど見知った奴が歩いていたら、後者に注目してしまうのも当然だ。服のまだら模様が消えてるし、誰だこいつって感じだろうよ。
「投げ銭どころか拝んでくる奴すらいない辺り、ミュー様の人徳のほどがうかがえる。これではただのエロエロ美女神だ」
「堕女神でも駄女神でもお好きな方をどうぞ」
「ユリは本当に俺に仕えているのか?」
「私はミュー様にお仕えしています」
「あ、そう」
テーマパークみたいな街で楽しいデートのような時間。
ただし思い描くほどそれは楽しいものではなかった。
道端の汚物、横丁にはむしろに寝転んだ人たち、そして後ろから見たらケツが欠けていたミュー様像。ファンタジーに生活臭はいらないと思う。
そうして歩いて十分ほどで、昨日尋問を受けた悪の巣窟の前に到着した。
「目的地は隣の建物です」
「この世の地獄とはこのことだな」
「女神様と一緒にいる今が地獄のような気がしてきました」
「それは一時の気の迷いだから滂沱の涙で奉仕するが良い、俺を寄生させるなら許してやろう」
「寄生しないでください! さあここでお仕事探しましょう!」
「えーむりー」
ヤバい、今初めて俺は女子っぽい言葉を吐いた気がする。やればできる神ミュー神だ。
「そうして辿り着いた――連行された場所には「冒険者ギルド」と大きな看板が掲げられていた」
「女神様は目が悪いのでしょうか頭が悪いのでしょうか」
「ユリの口が悪い」
おかしい、何となくそうじゃないかと思っていた憧れのギルドに到着したはずなのに「職安」と書いてある。
職安って、失業者が向かう場所だろ? 俺には女神っていう立派な職業があるし教会という職場もあるんだぞ?
「さっさと登録してください。そもそも身分証も持っていませんよね?」
「なんで女神に身分証がいるんだよ」
既に女神様への敬意のカケラもないユリに脅されながら、受付で書類を書かされた。
書類の文字はなぜか読めたし、文字も書けた。その辺はさすが女神ってことなんだろうか。
「あの…職業が女神、お名前がミュー様って本気ですか?」
「ほら見ろユリ、お前のせいで俺が疑われてしまった」
「仕方ありませんね、隣の騎士団で身分を証明してもらいましょう」
「よしそれは却下で」
それは身分証明ではなく不審者証明だっての。いや、一応は俺が被害者なんだが、あの騎士団長は苦手だ。ああきっと全人類が苦手に違いないぜ。
そうして斡旋された仕事は、魔物退治だった。
「おかしいだろ! ついさっき登録したばかりの新人女神がなぜ!?」
「運命の出会いだろう」
「お前、俺のこと女神だと思ってないだろ?」
「ああ」
元からガラの悪いオッサンのたまり場だった職安で、エロエロ美女神な俺はいつ襲われても不思議ではなかった。
しかし、残念ながらそのようなお決まりのイベントは起こらず、代わりに世界の嫌われ者ナンバーワンの女騎士団長が現れ、そのまま隣の建物に連行された。
「聖剣より重い物を握ったことないのに」
「おいユリと言ったか。こいつはミュー様なんだろう?」
「はい! いと尊き御方、世界をお救いになる女神様でございます!」
「うむ。では世界を救ってもらおうではないか」
「お前ら仲良しだなぁおい!」
畜生め、魔物って何だよそれ、これじゃまるで冒険者ギルドで日雇い仕事を受け取って俺は戦士だタンクだヒーラーだとか遊んでる連中みたいじゃないか。
あれ?
まぁいいか。やってみたかったし。
「ユリ」
「な、なんでしょうか」
となれば、心配事は一つだけ。
「御神体を頼む」
「甕に投げ込んでおきます!」
「いいのかそんなことして。甕の中身を吸った御神体がスーパー御神体に進化して怒りと悪臭のなかで勃ち上がるぞ!」
「どんな脅しですか!?」
大丈夫かこいつ。こんな世間知らずがシスターをやってたから、ミュー様を誰も信仰せずに鳥の餌を食わされる羽目になったのだろう。
俺は軽い義憤に駆られながら、見た目だけは悪くない残念女の顔を見てため息をつくのだった。
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