第21.5話:動悸の余韻



 家に着いて布団に倒れ込む。


 身体の火照りが収まらない。穏やかな高揚とわずかな物足りなさが胸をつくせいだ。


 あのまま抱きしめられていたらきっとあたしは自分から離れられなくなった。あの妙な心地よさに浸っていたかったから。


 包み込まれるような、しっかり支えてもらえているような心地。言い換えるなら安心感が近い。きっとあいつの背が高くて、その分腕が長いからそう感じたんだろう。


 そうしてもたらされたのはキスの時みたいに暴力的ではない優しい胸の高鳴り。けどそれで十分だと感じた。このドキドキがあれば十分生きていけると思えた。


 いや、むしろこっちの方が精神衛生上はいい。あんなに激しい動悸を毎回起こすなんて絶対身体に悪いし。そういう意味ではあいつがキスを止めようって言ってくれたのは助かったのかも。


 今日だってキスしてないのに壁ドンされただけでどうしようもなくドキドキした。

 一度目が嘘みたいに心臓が高鳴って痛いほどだった。


 本物の壁ドンを体験できたのは良かったけど苦しくもあったわけで、もう一度軽率にはしてほしくない。


 顔の良さってここまで強さを発揮するものなのね……というか一体なんなのよあいつは!


 なんかまさにキスします、みたいに触ってくるし、さも当然のように「キスしていい?」なんて聞いてくるし!


 いや言うように仕向けたのはあたしだけど!


 でも自然すぎて勘違いしちゃったじゃない、ばか!


 それでこれが初めてやりました、中学の頃の恋は上手くいっていませんでした、なんて嘘にもほどがあるでしょ!


 というかあいつなんであんな澄まして言えたのよ!


 ドキドキしないわけ?


 ……やっぱりむかつく。


「あたしだけドキドキしてばかみたいじゃない……」


 枕に顔を押しつけて嘆く。


 もちろんあいつのことが好きなんてことはないし、あいつがドキドキする必要は無い。

 けどあれだけのことをしておいてあんまり恥ずかしがらずに余裕を見せているのはなんだかむかつく。


 まるであたしに魅力が無いみたいじゃない……いや、好きになってほしいわけじゃないけど。あたしに気がないからこそ信用できるところもあるけど。


 でも、矛盾してるけどなんか悔しい。不必要に辱められてもいるのも納得いかないしむかつく。


 だからあいつにも少しくらい恥ずかしがって欲しいしドキドキして欲しい。

 これはそういうこと。

 もう考えるのは止めよう。


 にしても楽しかった。楽しかったというか嬉しかった?


 やってみたかった少女漫画のシーンを追体験できて。


 お互いが好き合っているわけじゃないから完璧じゃないけど十分雰囲気は味わえた。思い出すだけでこそばゆさに襲われるくらいにはしっかり堪能できた。


 それもあいつが協力的だったから、よね。


 寝返りを打って天井を見つめる。


 今日色々出来たのも、こうして普通に過ごせているのもあいつのおかげだ。


 呼び出したら来てくれて口止めせずとも秘密を守ってくれていて、我が儘を聞いてくれて、一応はあたしの事を考えて、あたしのために色々やってくれる。


 油断も隙も無いところはあるけど、悪いやつじゃないのも確かだ。


「……何かお礼の一つくらい、した方がいい、のかな?」


 むかつくけど感謝してる。

 だからあたしにしてあげられることがあるならしてあげてもいい。

 というかそろそろ何かしないと一方的に借りを作り続けているみたいで気持ち悪い。


 あいつならきっと変なことは要求してこないだろうし……多分。


 でもあいつ絶対むっつりよね。ここぞばかりにえっちな要求をしてきたらどうしよう……いや、どうするもこうするも断って縁を切るだけか。


 まあ大丈夫でしょ、面と向かって要求するような度胸はなさそうだし。そういうことやるならもっとさりげなく、事故を装うようにするはずだし。


 って、これじゃあ早速疑ってるみたいになってるわね。


「とりあえず次、聞いてみればいっか」


 うん、そうしよう。


 あたしにだって出来ることの一つや二つはあるんだから。



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