第4話:天ノ衣さんはギャルなのか
結局、空き教室での出来事は何一つ忘れられるわけもなく朝を迎えて登校した。
席替えが行われていない今の段階では廊下の方から出席番号順に席が割り振られている。僕は廊下側から二列目の最後列に与えられた自分の席に座って前を見た。
廊下列の二番目に座る天ノ衣さんが隣の席の友人、
やろうと思えば学年一の○○という女子はたくさんいてもおかしくないのに、今のところ二人しか冠していないのはそれだけ二人が際立っているということだろう。
そんな二人が仲良さそうに話しているとなると男子のみならず多くの生徒から注目を集める。目の保養、と称した羨望や幸福感、あるいは若干の嫉妬が入り交じった多くの視線が二人に注がれている。今日も癒やし空間が形成されている、とか相変わらず眩しいわ、とかそんな事を囁かれながら。
そして僕も同じように揺れる金髪をジーッと見つめていた。
本当のところ、天ノ衣さんはどんな人で何がしたかったんだろう。
電波さんでまとめるのは違う気がする。言っていることは訳分からないながら、キスを頼む時や胸を触らせた時は普通に恥ずかしがっていた。図らずのパイタッチも自分のせいだと言ったところを見るに羞恥心や良識は一般的な感覚を持っているんだと思う。
つまり感情や思考の回路は何もおかしくない可能性が高い。
だからこそ余計に「ドキドキしないと死ぬ」という発言が浮いてしまう。普通言わないでしょって。本気で言っていそうだったのが怖かった。
もちろん僕も家に帰ってからそんな病気が存在しないか調べてみた。別段医学に詳しくはないからもしかしたら天ノ衣さんの言う病気が存在している可能性もある。自分の無知で相手を貶すなんてことはしたくない。
ただ結果は残念ながら何も得ず。そりゃあそうだ、ドキドキしないと死ぬ病気、なんて頭の悪い調べ方としたところでそんな症状が出てくるわけない。とはいえ与えられたのが「ドキドキしないと死ぬ」という簡素かつ奇天烈な情報だけだから他に為す術もなく。
そんなわけで今のところ天ノ衣さんがおかしい人、という評価を覆せそうにない。
ただ、それ以外にも気になることはある。
それは――、と。
ふと目の前でヒラヒラと掌が振られた。
手の主を見ると中学からの親友、
もう片方の手には来る途中で買ったのか人気カフェチェーンのカップが握られている。
「おっす睦月。珍しいな、お前がボーッと誰かを見つめるなんて」
「……あぁ、おはよう魁斗」
ギリギリ女子の平均を上回るくらいの身長に可愛い顔立ちが合わさって魁斗は女子から人気がある。髪を明るい茶色に染めているのは、本人曰く少しでも格好良く見せるためらしい。
なお、逆にもっと可愛さが引き立ってしまったようで可愛がるような女子の反応は変わっていないと不満を漏らしていた。可哀想ながら面白い話だ。
そんな魁斗の少し驚いた様な顔に「そういうんじゃなくて、ちょっと考え事してただけだよ」と誤魔化すと、魁斗は楽しそうにニヤリと笑った。
「ほうほう、思わず考え込んじゃうほど睦月の視線を釘付けにしているのは一体誰だ? ピピピピーっと……なーんだ、天ノ衣と栞薙か。まぁ意外でもなんでもないわな」
なんだかずれた発言をしながら、さっき僕が向けていた視線を両手の人差し指でなぞる様に動かすも、視線の先にたどり着くと魁斗はつまらなさそうな顔をした。
そして隣の太田さんの席を引っ張ってきて座った。
「でも珍しいな、睦月が熱視線向けるなんて。あの二人相手とはいえ今更眺めて浮かれ上がるってこともないだろ?」
「別に熱視線を向けていたつもりはないんだけど……」
「そうか? 結構なガン見だったぞ?」
「えっ、本当?」
そう言われると少し心配になる。少しボーッとしていたとはいえ、そんなに見てしまっていたのだろうか。
「ふっ、聞き返してくる時点で熱心に見ていた自覚はあるってことだわな」
「…………」
言われて恥ずかしくなった。その通りだ。
魁斗は安心したように、けど揶揄うように笑ってくる。
「とうとう睦月も恋に前向きになり始めたのか。で、天ノ衣と栞薙どっち?」
「だからそんなんじゃないから。それより魁斗に聞きたいこと、というか魁斗のイメージで答えてほしいことがあるんだけどいいかな?」
「なんだいきなり畏まって」
訝しむ様に顔を顰めた魁斗に「あくまで一般論として、だけどさ」さらに前置きを挟んで、一番気になっている事を問いかける。
「その……遊び慣れているギャルって告白する時とかキスする時って緊張すると思う?」
「……なんだいきなり?」
眉毛と口をへの字にした魁斗は、すぐにハッとした。
「なるほど、天ノ衣の方だったか……。だが睦月には栞薙の方が合うと思うぜ、俺は」
「だから違うってば。あくまで一般論として聞いたんだよ」
「ふぅん? 見つめてたからてっきりそういうことかと思ったんだけどな」
「だからそういうんじゃないって」
ニヤニヤと見られて内心ヒヤっとしながら目を逸らす。
天ノ衣さんの話をしているのは間違いないけどそういうことじゃない、断じて。
何も言えずにいると魁斗が「ま、いっか」と腕を組んだ。
「本当にヤり慣れてるんだったら告白だとかキス程度じゃ緊張しないだろ。口以上のとこで何度も合体してんなら唇が触れるだけじゃなんも思わなくなりそうだし」
「そう、だよね……」
全くの同意見だ。
もっと言えば何度も大人と寝ているのなら胸を触られて涙ぐむようなことはしないんじゃないかと思う。もちろん嫌いな相手に触られたら泣くかもしれないけど、それならそもそも僕に触れさせてないわけで。
「なに、天ノ衣にギャップ萌えでも見出そうとしてんの?」
「だからあくまで――」
「はいはい、一般論として、だろ? 悪かったって……うおっ!?」
僕の言葉を遮った魁斗がいきなり変な叫びを上げて縮こまった。
どうしたの、と聞くと身体を寄せてきてヒソヒソ声で聞いてきた。
「なんかめっちゃくちゃ天ノ衣が睨んできてんだけど」
「えっ?」
僕も身体を小さくしながらチラッと見てみると、天ノ衣さんのジトーとした鋭い視線がこちらを向いていた。
殺気すら感じる視線に思わずサッと魁斗に向き直る。
「か、魁斗の声が大きかったんだよ」
「いや聞こえてないだろ俺達の話なんか。というかなんか明らかにお前の方見てね? なんかしたのか?」
恐る恐るもう一度見てみると、こちらを射貫いてくるような視線は僕と魁斗、というよりは僕一人だけに向けられているみたいだ。
思いっきり「なんか」した心当たりがあるせいで冷や汗が噴き出た。突き刺さってくる視線には「余計なこと言ったら殺す」というメッセージが籠もっているように見える。
「なんていうか、昨日ちょっと触れちゃったというか触れられたというか……」
「うわっ、それだけで因縁付けられた感じ? 当たり屋かよ。天ノ衣怖っ」
決して「それだけ」ではないけど当たり屋という評価に関しては激しく同意する。天ノ衣さんの自爆が原因でまた呼び出されることになったんだから。
それはともかく、未だに睨みが止まらない天ノ衣さんに、何も言わないから安心してと念じながら小刻みに頷いてみると、その想いが伝わったのか彼女は前を向いて栞薙さんとの会話に戻った。
視線の恐怖から解放されてひとまず安堵の溜息を吐いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みくださった方々、そして作品のフォロー、応援をしてくださっている方々、誠にありがとうございます。本当にありがとうございます。すごくありがとうございます。とてもありがとうございます。
大変喜ばしく、そして嬉しく思います。
まだまだ序盤なのでこの先長々と続いていきますが、梨々花ちゃんが可愛くなるのは間違いないのでぜひともよろしくお願いいたします。
そして本日はこの後もう一話、投稿することにしました。
また楽しんでお読みいただければ幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます