その67:夏祭りに誘ってみよう!

「うわ……紗帆、それ……それ反則じゃん……」

祭りの人波の中で、夏奈が顔を赤くして呟いた。


「ん? なぁに〜? 浴衣、変じゃない?」

くるっと回って見せた紗帆の浴衣は、淡い藤色に金魚柄。

うなじがちらりと見える結い上げた髪に、ほんのり艶のあるリップ。

でも、本人は無自覚。


「変じゃないけど……それ、絶対わざとでしょ……」

「え〜? ぜんっぜん。かなに可愛いって言ってほしかっただけ♡」


「……バカ」


夏奈は口を尖らせて横を向いたが、視線はずっと逸らせなかった。

だって――自分の視界の端には、

こっちをじっと見つめて、笑ってる紗帆がいるから。


「それより、かなの浴衣……赤、似合うね。なんか、花火よりドキドキするかも」

「……っ///」


祭囃子が遠くで鳴る。

金魚すくいの水音、屋台の匂い、どれも懐かしい夏の記憶。


でも今日は、全部が“ふたりの今”になる。


「……手、つなぐ?」

紗帆がそっと差し出す。


夏奈は一瞬迷ったあと、

「……別に、いいけど」

と言いながら、ぎゅっと握った。


その手の熱さは、屋台の明かりよりまぶしかった。


「……さほ」

「なぁに?」

「こうやってさ、並んで歩いてると……ほんとに“恋人”って感じする」


「うん。……私たち、ちゃんと恋してるんだよ」


夜空に、大きな花火が打ち上がる。

目を閉じるたび、誰より近くに感じる――ふたりの鼓動。


「ねえ、かな」

「ん?」

「このまま、帰りたくないな」


夏奈が口を開く。

「……なら、寄り道する?」

「え? どこに?」

「……秘密。でも、浴衣は脱がさないでよね」


「も〜〜ッ♡ そのセリフ、えっちぃ!」

「お前が言わせたんだろ!!」


笑い合うふたりの背中を、最後の花火が照らしていた。

結んだ指先と、心のリボンはほどけることなく、優しく結ばれていた。



---


『技その67:夏祭り浴衣と、恋する金魚の夜』

→ 夏の恋は甘くて、浴衣の裾より揺れる。

成功度:心拍数120オーバー、祭囃子が止まらない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る