その57:グロタンディーク素数!

放課後、いつもより少し遅めの時間。

私たちはまた、人気のない体育倉庫の裏にいた。


「……で、今日は何の技を仕掛けてくる気?」


「え〜、べっつに〜? ふふ、なんにも考えてないよ〜♡」


「ふぅん」


にこにこしてる私を、夏奈は鋭く見上げてきた。


だけど、次の瞬間――


「……じゃ、今日は、こっちの番ってことで」


「えっ、ちょ――」


ぐいっと腕を引かれて、私は倉庫の裏の壁に押しつけられた。


「……っ!? か、な……?」


「この前の、覚えてるでしょ? 倒れて、私の胸に顔くっつけて、寝言で“好き〜♡”とか言ってたやつ」


「うぇぇ!?!? そ、それはっ、あれはバテてて、で、でもぉ〜〜!!」


「言い訳禁止。……今度は、こっちの番だから」


夏奈の手が、私の耳たぶに触れる。

ひやっとした指が、そこから滑るように首筋まで撫でてくる。


「紗帆ってさ……こういうとこ、感じるんでしょ」


「んひっ……っっ!?」


「図星。わかりやす……」


夏奈が、どや顔で笑う。

それなのに、その目がいつもより潤んでて、なんだか大人っぽくて――


(うそ……これ……私が仕掛けてきたやつ全部、やり返されてる!?)


「……でさ、さっきの57って数字」


「え、なに?」


「ほんとは素数じゃない。けど、みんな騙されてた。……今のあたしも似たようなもん」


「……?」


「素直な気持ちなんて、ないって思ってた。でも、あるんだって……あんたに教えられたから」


そう言って、夏奈は私の首筋に顔を寄せて、そっと――


「……紗帆。好き」


囁かれた瞬間、足が崩れた。

壁伝いに座りこんで、手で顔を覆った。


「や、やだ……ずるい……っ、そんなの……っ」


夏奈はそのまま、私の顔に手を添えて――


「でも、これ全部あんたが教えたんだよ? 紗帆が悪いの」


「……っ……じゃあ、責任取ってよ……っ」


「取ってあげる。最後まで」


体育倉庫の裏、落ちる夕陽。

私たちは、もう何も仕掛けなくても、自然に惹かれあってた。


『技その57:ツンデレの逆襲押し倒し(=偽りの素数で本心暴露)』

→「素数だと思ってたものが違っていた」──恋心も、気づいたときにはもう止められない。

成功度:逆転劇のエクスタシー♡

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