その2:まずは笑顔で褒めまくろう!

「……あれ、髪切った?」


教室で鞄を整理していた夏奈に、私はそっと声をかけた。

まだ入学して一週間。

彼女の髪の毛先が、ほんの数ミリ短くなっていたのを私は見逃さなかった。


「……は? 気づいたの?」


「うんっ。すっごく似合ってる、かわいい♡」


彼女の動きが、ピタッと止まる。

顔を上げるかと思ったら、そのまま、下を向いたまま動かなくなった。


「な、なに急に……そ、そんなの、別に……」


「本当に可愛いよ? かなの、サラサラの黒髪……こう、触りたくなっちゃう」


「はっ!? な、ななな、なに言ってんの!? 触るなバカ!」


私は悪戯っぽく笑って、口元に指を当てる。

彼女の頬は、すでにほんのりピンク色。


──耳まで染まったら、大当たり。


私の中には、もうひとつのノートがあった。

**「ツンデレを堕とす100の技!」**という名の、秘密の作戦リスト。


「技その2、笑顔で褒める。効果:大。成功度:90点♡」


「なっ、なにひとりでブツブツ言ってんの……! 怪しいし、やっぱキモい!!」


「え〜!? 傷つくな〜、かなに褒められたいのに〜」


「なっ……誰が褒めるかっ! 勝手に褒めてきたくせに!!」


でも、私の目には見えている。


夏奈の指先が、ぎゅっとスカートの端を握っているのを。

下を向きながら、口元だけが小さく笑ってるのを。


(ああ……この子、ほんとにかわいい……)


「じゃあ明日は、もっと褒めたくなるような可愛いとこ、見せてね?」


「う……バ、バカっっ!!」


彼女は顔を隠すようにして、足早に教室を出ていった。


──今日も耳まで真っ赤だった。

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