第1話 監視任務①
エスタ共和国。その領地内にある酒場は、プリスコヴォ町の一角にポツリと存在していた。辺りは暗くなり、雪が降り積もっている。酒場の内部は、小便の匂いと葉巻の煙が漂い、ひどい空気の場所だった。
レイフは、額に皺を寄せて、椅子に座り直した。相棒のブライアンは、貧乏ゆすりをしながらビールを少し口に含んだ。
「やってらんねえ」
ブライアンは、ボソッと言った。
「任務中だ。愚痴を吐くな」
レイフは、睨みながら言う。
「情報部の言ってる事は、マジなのか? 約束の時間をすでに過ぎてんだぞ」
ブライアンの貧乏ゆすりの動きが増した。
「落ち着け。ガセネタだったら後で怒鳴り散らせばいい」
レイフは、ため息をついた。二人とも薄汚れたグレーの作業服とジャケットを着こんでいた。頑丈なトレッキングブーツは、雪と泥でまみれている。周囲で飲んでいる冒険者達は、見る限り武器を携帯していない二人にまったく関心を示していない。ドブさらいをしている底辺労働者だと思っているのだろう。
(早くこいよ……密告者)
レイフは、ジャケットの下のふくらみを触った。二人のジャケットの下には、ショルダーホルスターに入れられた四十五口径のHK45ハンドガンが、収められている。その襟には、秘密通信用マイク。ポケットの無線機と繋がった、ワイヤレスイヤホンを片耳に装着。足首には、シグP230小型ハンドガンがホルスターに入れられ留めてある。
「俺らが武装していると知ったら、周りのマヌケ冒険者共は腰を抜かすだろうな」
ブライアンは、鼻を鳴らして言った。
「気付かれはしないだろうが、探知の魔術や法術を使えるやつは厄介だ」
レイフは、酒場の内部を見渡すが魔法使いや神官の職に就いている冒険者は、今のところ見当たらなかった。
「セオドア、テレンス。外に密告者の姿は見えるか?」
レイフは、秘密通信マイクを使い、外で待機している仲間に言った。
「こちらセオドア。姿は見えない」
「こちらテレンス。こっちも見えないっすね」
彼ら二人は、酒場の道路向かい側に停めた黒いランドローバーに乗って、監視任務を続行している。そのトランクには、強力な武器が搭載されている。サプレッサー付のM4カービン。赤外線フィルター付マグライト。手榴弾。焼夷手榴弾。閃光手榴弾。医療品キット。携行糧食。弾薬類。激しい戦闘が予想される任務だ。持っていく装備品は、厳選して持ってきた。
「了解。引き続き監視を続けろ。その密告者が今回の任務の肝。クズ野郎を捕まえるための重要なカギだ」
レイフは、通信を終えるとブライアンと共に再び、酒場内部の監視に戻った。
彼らは、特殊部隊ウルフ。
この世界で汚い仕事を請け負う軍事組織のメンバーだ。
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