第43話 女戦士の過去

 凄く暖かく、心地良くて幸せな気分だった。


 ガットは何かに優しく包み込まれてるような感覚が伝わり、このままずっと眠っていたいと思ってしまう。


 暖かくて柔らかい。そう思った時、ガットは「ん?」と何かに気づく。


「(これ、前もあったような気が……)」


 何処か覚えのある出来事、意識がハッキリしてくると耳にパチパチと鳴る、焚き火のような音が聞こえて来た。


 その音を聞くと共に、ガットの目はゆっくりと開かれる。


「っ!?」


 ガットは気づいてしまった。今の自分が寝袋の中に裸で居て、一緒の寝袋に同じくサラが何も着ずに自分を抱き締め、思いっきり密着している事に。


「(む、無人島の時と同じ〜!?)」


 顔を真っ赤にして、胸の高鳴りが急激に鳴り出す中でガットの記憶が蘇る。無人島でもこういう出来事があったと。


「(あうう〜)」


 抜け出そうにも、サラにがっちりと抱き締められてビクともしない。非力なガットでは、戦士のサラの腕から抜け出すのは不可能だ。


 ガットに出来る事はドキドキしながらも、サラが目を覚ますのを待つしかない。その願いが通じたのか、サラの目がパチッと開く。


「ふあ〜……お、気がついたかガット!?」


「は、はい……」


 欠伸をした後に自分の胸の中で、ガットが目を覚ましたのを見てサラは嬉しそうに微笑んだ。サラの抱き締める力が少し緩むと、ガットは彼女の顔を見上げる。


 微笑んでくれる彼女の顔は無邪気で、普段は勇ましく戦う戦士の時とはまた違った顔だ。


「良かった良かった!お前吹雪いてる中で寝たりしたんだぞ?ああいう場所じゃ寝たら絶対駄目なんだからな」


「ごめんなさい……!」


 サラに迷惑を色々かけてしまったと思い、ガットは申し訳なさそうに彼女へ謝った。そして彼は今更ながら気づく。


「ティアモさんとシャイカさんとセリーザさんは?」


「さあなぁ、吹雪の中ではぐれちまったみたいだ。外はまだ危険だし、出ないで此処に留まった方が良いだろ」


 他の女性達の姿も声もない。何処に行ったのか気になる彼にサラはしばらく、この場で待つのが賢明だとガットを抱き締めたまま伝える。


「んんっ……さ、サラさん苦し……」


「あ、悪いガット!」


 力を強くし過ぎたとなって、サラは一度離れた。そこでガットは改めてサラの魅力溢れる体を見る事になり、目を逸らしてしまう。


「いや、もう必死でさ……ガットが冷たかったからどうにか暖めようと思って、色々やったんだ」


「そうだったんですか、本当……ありがとうございます」


 サラがいなければ自分の体は凍りついて、命を落としていたかもしれない。ガットは命の恩人となった彼女に、頭を下げて感謝する。


「気にすんなって、もう大事なもん失いたくねぇし……」


「え?」


 その言葉と共にサラは洞穴の天上を見上げ、ガットは再び彼女の方を見た。彼女の顔は笑っているが、悲しげに見える。


「お前が苦しんでるのを見てる時、思い出しちまったんだよ。前にパーティーを組んでいた奴の事を」


「パーティー……ティアモさん達の前ですか?」


「ああ、元々は結構大人数で組んでたんだよ。アルディートフォース、つってもリーダーが格好良くてノリで付けただけの名だけどな」


 昔を懐かしむような感じで、サラは燃え盛る焚き火を見つめて話を続ける。ガットはその話に猫耳を真剣に傾けていった。


「皆強くて良い奴らで、その中で特に仲が良かったのはヒュールって奴だった。俺より小柄な男だけど、とにかく物知りでなぁ。そいつからは色々勉強を教わったもんだ」


 その男性について語るサラ。仲良いんだなと、彼女の顔を見れば伝わって来る。


「楽しくて、これが当たり前の日常と思ったら……呆気なく崩れちまった。凶悪な魔物の集団と出くわしてな。手強いと思いながらも必死で戦い、どうにか追い払う事には成功したけど……」


 サラは重々しい雰囲気で、当時の出来事をガットに話す。


「ヒュールは魔物の攻撃をまともに受けちまって、瀕死の重傷だった。仲間達は散り散りになったみたいで、残ったのは俺らだけ。回復手段はなく、そいつは俺の前で亡くなった……」


「……」


 かつて親しかった仲間が死んだ。それが恐れ知らずの勇猛果敢な女戦士の抱えた過去だ。


「寒さで震えたガットを見て、それと重なっちまった。ゴメンな、お前に関係ねぇのに俺が勝手に思って重ねちまって」


「いえ、そんな!サラさんは何も悪くないです」


 当時の仲間ヒュールとガットを重ねた事、その事を謝るとガットはその必要は無いと首を横に振る。


「サラさんは一生懸命戦ったり今まで守ってもらったり、今も僕の事を助けてくれて……格好良くて綺麗で素敵なお姉さんです!」


「!」


 目を見て、サラにハッキリと言い切るガットに彼女の胸はキュンッと鳴っていた。



「ガット……お前それ、誘ってんのか?」


「え……」


 サラは顔を赤らめたまま、ガットに近づく。互いが何も着てない状態なのを思い出せば、ガットの頬も再び赤く染まる。



「今のでお前の事、もっと好きになっちまったじゃねぇか。どうしてくれんだ?」


「!?それは、あの……ごめんなさ……」


 豊かな胸を揺らしながら迫る彼女に、ガットが謝罪の言葉を口にしようとした時だった。


「!?」


 サラはガットの後頭部に手を回して、自分の顔に近づければそのまま彼と唇を重ねる。一瞬の出来事で、ガットは目を見開いていた。


 長い時間が経過し、2人の唇は離れていく。


「サラ……さん」


「どうせ外は吹雪で出られねぇ、くっついてないと寒いし。もうちょっとさっきみたいに甘えとけ」


 サラは再びガットと寝袋に入り、彼の体を抱き締めた。外の凍てつく寒さを忘れさせる程に、狭いながら暖かい空間だ。



 彼女からの誘惑に負けたガットは、彼女に甘えていく。

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