第5話 勇者一行の話し合い
「昨日譲ったから今日は絶対俺がガットの側だからな!」
「分かってますよ。独り占めして彼を困らせる訳にもいきませんから」
宿屋の食堂で勇者一行は朝食を取っていた。パンを豪快にかじりながら、今日は譲らないとサラが不機嫌気味に言うのに対して、ガットの側で眠れて爽やかな笑顔を魅せるシャイカ。
「あ、水貰って来ますね」
ガットは水が無い事に気づけば、席を立って水を貰いに一旦離れた。
「で……可愛い可愛いガット君の事だけど、孤児院以前の記憶がすっぽり抜けてるというのはどう思うかな?」
彼が席を離れたタイミングで、ティアモは仲間2人にガットについて問う。
「聞いた限りでは頭を強く打って記憶喪失……とも違ってそうですね」
「頭が痛ぇとかあいつ言ってなかったし、頭の傷も特に無かったよな?」
先程とは違う真剣な雰囲気漂うシャイカとサラ。ガットについて共に気になる所があるようだ。
「記憶だけでなく、彼に元々猫耳あったのならそもそも孤児院のシスターや他の子供達がその時点で気付くはずですよね?なのにある程度日々を過ごして気づかない、というのも妙な話です」
「うん。僕としては何者かの作為的な物が感じられたかな」
シャイカが不自然な部分を言えば、ティアモの方も分かると頷く。
「誰かの陰謀にでも巻き込まれたか……?ま、一緒に行動してりゃいずれ分かるかもしれないよな。何にせよティアモ的にもあそこであのまま放置はしておけなかったし」
「そうだね。もしかしたら……魔王が何かやったって可能性がもあるかもしれないし」
ティアモの口から魔王という言葉が出れば、シャイカもサラも厳しい顔を見せた。
世界各地で暴れている魔物達、その原因となっているのが魔王という存在。それによって滅ぼされた国がいくつかあり、人類は魔物に対して危機感を抱くようになる。
そこにティアモが現れ、数々の魔物を倒し始めたのだ。
彼女は女神から加護を授かり力を得た後、各地を旅して見聞を広めたり、魔物や人間の賊を倒し、経験を積み重ねていた。剣の実力だけでなく精霊と契約を交わした事で、様々な属性魔法も身に付く。
その活躍を知った今居る大国オルスタがティアモを勇者と認め、これが勇者ティアモの誕生。後に今のシャイカ、サラが仲間に加わり勇者一行が結成された。
「遅かれ早かれ魔王とは何時の日か戦う事になりますよね」
「早く行ってぶっ倒してぇけどなぁ、居場所が分かんねぇし」
「まあだから魔物達を倒し続けて魔王の所に行ける切っ掛けを掴むしかないよね。中々地道だけど」
3人でパーティーを組み、幾多の戦いを潜り抜けて来た。既に数え切れない程の魔物を倒して来ている。それも魔王に辿り着く為で、勇者一行は果てしない戦いを繰り返す日々だ。
「その中で癒しとなる存在が加わるのは嬉しいですよね」
「こちとら戦闘するだけの人形とか奴隷じゃねぇからな。潤いとか褒美とかあっても罰は当たらねぇだろ」
「そうそう、ガット君が加わってくれるのはめっちゃ貴重だよー」
色々異なる彼女達だが、共通している所はある。それが勇者を繋ぐ絆となっているのかもしれない。
全員がガットのような可愛い男の子が大好き、という所だ。
「彼は思ったよりも華奢で私の腕の中に収まったりと、あのような殿方は初めてで衝撃でした……」
「抱き締めただけだよな!?何か言い方紛らわしく聞こえるぞ!」
「それは普段から貴女がそういう邪な事ばかり考えてるせいでは?」
「考えてんのシャイカの方だろうが!昨夜ずっと羨ましいと思ってあんま眠れなかったんだからよ!」
シャイカはうっとりとした顔でガットの寝顔を思い出し、サラの方は全然眠れなかったと、ご機嫌斜めのようだ。
「それに良い匂いだったからなぁ〜、あれは癒されて良いね♡」
「お前ら今日の夜は絶対俺がガットと寝るからな!」
ティアモもシャイカとガットを挟んで眠っていて、彼の香りが凄く好きで癒されると、嬉しそうに話す。これを見たサラは今日の夜は絶対ガットと共に寝る事を誓っていた。
「お待たせしました。あの、皆さんどうかしましたか?何かサラさんの声が外まで聞こえて来たんですが……」
そこにガットが水を持って部屋に戻って来た。
「なんでもねぇぜ、とりあえずガット。お前今日の夜は俺と同じベッドで寝るの確定な」
「え!?そ、そうなんですか……!?」
知らない間にサラと夜に同じベッドで眠る事が決められ、ガットは顔を赤らめている。
「まあひとまずその話は置いといてさ、食事済んだらガット君も出かける用意はしてね?」
「出かけるって、これから何処かに皆で?」
「うん」
ガットに出かける準備をするよう告げる、ティアモの表情は引き締まって凛々しい顔になっていた。
「魔物退治だよ」
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次は勇者一行が魔物達と遭遇します。
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