第26話 お願い、そっとして
かなには、ある大事な趣味があった。それは、イラストを描くことだった。字を書くことも好きだったが、本当は、絵をやりたかったのだ。いつかは、イラストを書いて、それを仕事にしたいという夢が、物心ついたときからあった。
幼いころ、何かは覚えていないが、何かにひどく苦しんでいる時に、心の寄りどころが、絵本だったという記憶がある。というかなには、一度自分がなくなった時に諦めてしまっていた夢があった。
それは、自分の絵本をつくることだった。
余暇は、その夢を追いかけることに集中していた。
しかし、そうして画材を扱うことに集中していると、近くに置いてあるケータイが何度も鳴る。
ラインの内容を確認すると、さりなちゃんから、仕事の愚痴が書いてある。そんな彼女に対してかななりに考えてその都度返信していた。
そうして一年程経った頃、かなは、だんだんと、彼女に対して不信感を抱くようになった。それは、祖母の体調の悪化がきっかけだった。
かなは、まだ若い大事な時期に、心も体も調子を大きく崩し、そのことで、母方の祖母には随分がっかりもされたし、悩ませたようだった。
かなは、その時に感じた祖母の冷たさに苦い思いを抱いていた。なので、一度ひどく侮辱され大喧嘩をしてしまって以来、かなは、あまり祖母の家には顔を出さなくなっていた。
十万円の給付金が出たときに婆孝行だと思い、おいしいと評判のうなぎの店でうな重を購入し、持って行った。祖母は、その時にとても喜んでいた。しかし、その後も祖母の家に顔を出すことは少なかった。しかし、かなは、いざこざはあったけれど彼女が弱った時には介護をして、その事柄をすべて解消しておこうと思っていた。
今までの事柄とこれからの身の振り方を頭の中で整理をしようと考えている時に、さりなちゃんは、ラインを送ってくる。
かなは、申し訳ないが、「今、いろいろと考えたいことがあって、ごめんね。しばらくそっとしておいてね」と返信したが、その数日後にはまた、「体がだるい」というようなラインが前置きなく送られてくる。話をどうしても聞いてもらいたいのだろう。その気持ちや思いは、かなもうんと経験してきたことだったのに。キャパが狭すぎるとは思うが、脳内で二つの事を同時に処理しきれずいらいらしているうち、その一か月後の春に、急変した祖母はあの世へ旅立ってしまった。
ある日、かなはさりなちゃんにこう返信をしていた。
「もう、愚痴に疲れた。ごめん」
それ以降、ラインをしてみても、電話をかけてみても繋がらず、かなはブロックをされてしまった。
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