エンジョイ勢、ファンタジー世界をいく

赤雪トナ

第1話 まずは目標を立てる

 ある程度の力を得て、今後の行動を考えていたときにふと思いついた、未来を見ることができるのかと。

 断片的にだが見えたものは己が地に倒れた姿。近くには二人の人間。片方はぼやけて見えないが、もう一人はなんとか見えた。

 赤みを帯びた茶の髪、深紅の目、若い人間。不思議なことに最初は男かと思ったが、女に見えることもある。

 人間の性別がどちらにせよ、自分が負けたことに変わりはない。

 その結末は受け入れられず、未来を変えるために行動を起こす。


 その行動はたしかに流れを変える。

 それを異常と捉えて修正のために手を打つ存在もいた。

 不確かであやふやなそれにできることは多くはない。

 少ないながらも行動を起こしたが、乱れた流れを正せるかどうかわからない。


 本来の流れとはすでに変わり、されど近い道筋をたどる。

 結末はまだ定まっていない。


 ◇


 俺は生まれ変わった。

 それまでの生き方を変えたとかではなく、物理的に生まれ変わった。

 死んだのは覚えているけど、その原因はわからない。イヤホンをつけて音楽を聞きながら道を歩いていたら、ものすごい衝撃を背後から受けたんだ。たぶんトラックかなにかが突っ込んできたんじゃないかと思う。

 即死したのは不幸中の幸いだった。痛みはあったはずだけど、ほぼ感じなかった。誰だって死ぬほどの痛みなんて感じたくないよね。

 そんなわけで親不孝にも親より先に死んでしまって、その罰かどうかわからないけど賽の河原には行かず、異世界なんてところに生まれた。

 ラノベに出てくるような神様に会った記憶はない。

 だから本当に偶然生まれ変わったのかなと思う。考えてもわからないから考えないことにした。もっと大きくなったら噂話とかで、俺のようなやつの話を聞くこともあるんだろうか?

 前世に未練はあるけど、どうしようもない。なにも原因がわからないんじゃ、今の人生を大切にするしかない。

 

 俺は生まれてすぐに前世の人格をもったわけじゃない。

 三歳くらいまではこっちの人間として生きてきて、あるとき前世を夢見るようになって、四歳になる頃には記憶を取り戻した。

 現状はこっちの人格に前世が混ざった感じ。前世の方が長く生きているから、そっちがメインになってるかな。

 親に怪しまれてはないはず、夢を見始めたころから前世の影響を受けていたし、一年かけて少しずつ変化していった。成長の一種として受け取ってもらえると嬉しい。

 親兄弟には変わったところのある子という認識で接してもらえていると思う。

 

 家族は俺を含めて六人。祖母、両親、兄二人。

 祖母は母の代わりに俺の世話をしてくれる。親に嫌われているんじゃなくて、祖母の方が時間が余っているからだ。両親も時間があれば俺にかまってくれる。

 父親は畑仕事。母は祖母と家事をしながら、合間をみて畑仕事を手伝っている。

 一番上の兄は四歳離れていて今は九歳。畑仕事を手伝っている。二番目の兄は七歳、こちらも少しずつ畑仕事を手伝っている。

 五歳の俺にできることはない。水運びくらいは子供でもやれそうだけど、魔法ですんでしまうのだ。

 ここは魔法がある世界だった。小さな頃から見ているから驚かなかったけど、地球じゃないのは確定した。

 魔法を見るまでは、昔の地球に生まれ変わったのかなと思っていた。でも今にして思えば、髪や目の色が地球人よりも豊富。それに気付かなかったのはやっぱり生まれ変わりなんてことが起きて戸惑っていたからか?


 俺が住んでいるのは農村だ。

 親の話を聞いていると伯爵家の領地だそうだ。伯爵の屋敷がある町に近い農村だと言っていた。

 伯爵がまともに領地経営をしているおかげで、盗賊被害はなく、魔物被害もほとんどない。

 そう魔物もいるんだ、この世界。魔法もあって魔物もいる。剣と魔法のファンタジー。

 村人も少しは戦えるから、雑魚くらいは倒している。

 その雑魚の名前を聞いて、俺は「おや?」と感じた。聞き間違いかなと思ったけど、聞こえてくる名前は覚えがあるものだった。

 ランテマウスやビザンバグという名前で、それは前世でやっていた同人ゲーム「バルジオンサーガ」に出てくる弱い魔物だ。

 

 バルジオンサーガとはそれなりに売れたローグライクRPGで、内容は王道。ちなみにエッチなものではない。

 主人公が各地にあるダンジョンに仲間と共に潜って実力を高めて、武具を整えて、魔王に挑むというものだ。

 主人公の性別は男女どちらも選ぶことができて、キャラ性能はほとんど違いがない。装備できるものが少し違ったり、魔法への耐性に差異がある程度だ。

 ゲームクリアだけを考えるなら、主人公とメインキャラクターのコンビで進むのが効率がいい。サブクエストも楽しみたいなら、サブキャラも育てることになる。

 ミニゲームといったおまけもあって、主人公だけでクリアというやりこみもできるし、クリア後にモブキャラでエクストラダンジョンに潜ることもできる。

 主人公は最初から魔王討伐を目指していたわけではなく、冒険者として栄達を望んでいた。

 でもあちこちのダンジョンに潜るうちに、魔王幹部と遭遇して撃退したことで、魔王討伐の候補としてみなされていく。

 そうして魔王幹部を討伐するまでに成長したことで、魔王からも脅威とみなされて、各国の支援を受けて魔王討伐に乗り出す。

 魔王を討伐すればクリアになり、その時点で一番好感度の高いメインキャラクターかサブキャラクターとのエンディングが流れる。


 俺がゲームの主人公なんてことはない。

 出身地がまったく違う。主人公はどこかの国の子爵領の小さな町出身。

 容姿も全く違う。母親の持っていた鏡で確認ずみだ。俺はこげ茶の髪で、オレンジ色の目。主人公は赤みを帯びた茶髪に、深紅の目。

 メインキャラやサブキャラの一人ってこともない。完全にモブキャラだ。

 時期的には魔王がまだ本格的に暴れる前だと思う。村人が魔王について話題に出さないし、魔物が大暴れしているという話も聞かない。

 本編の百年前とかだといいんだけど、残念なことに本編まであと何年かという感じらしい。

 それがわかったのはローグライクRPGのメインであるダンジョンの話を聞いたからだ。

 昔は小規模と中規模のダンジョンがあちこちにあったくらいだけど、十年くらい前に大きなダンジョンが大陸の七ヶ所に出現した。

 これは魔王の行動が原因だった。魔王自身の力を増すために魔力の発生源に干渉しようとしたことで、中規模ダンジョンがまとまってしまうという異変が起きた。魔力の発生源とダンジョンには繋がりがあるので、中途半端に干渉した結果こんなことが起きてしまった。

 おまけに魔王はダンジョンと繋がってしまった。魔王はパワーアップしたけど、弱点も増えてしまった。魔王の力を削ぐために七大ダンジョンの最奥で封印魔法を使うというイベントがあるのだ。あえて封印魔法を使わず、魔王と戦うというやりこみもある。

 主人公たちだけで七つのダンジョン全てで魔法を使う必要はなく、一つのダンジョンを選んでその最奥に行き、ほかは各国の実力者が最奥まで潜ることになる。

 封印が終わると魔王との決戦になる。

 ちなみに現状ダンジョンは小ダンジョンと七大ダンジョンしかない。中ダンジョンは生まれてもすぐに大ダンジョンに吸収されてしまってみつからないのだ。


 魔王が活動しているとわかって、思ったね。鍛えようと。

 魔王が大々的に存在を知られると、魔王幹部が魔物を使って暴れ出す。その被害はあちこちに出てくる。

 ストーリーが進む前も進んでいる間もしっかりとモブが死んでいる描写があったから、油断していると俺も死にかねない。

 このゲームはメインキャラとモブキャラとの間に能力の差はほとんどない。

 メインキャラには専用装備と専用技があって、スタート直後にステータスがモブより少し高めなくらいだ。

 最終的にはステータスは追いついて差がなくなる。

 だから鍛えていけば魔物に殺されるようなことはなくなるはず。センスの差はあるだろうけど、地力の差はないからゴリ押しで対抗できると思うのだ。

 あと夢があるから積極的に鍛えていきたい。

 夢とは必殺技だ。男の子なら一度はやったことがあるか〇はめ波や昇〇拳やア〇ンストラッシュといったものを再現したい。

 この世界は魔法だけではなく技も魔力を使って発動させるから、頑張れば再現可能なのだ。

 日本では動作を真似るだけだったけど、こっちは光って唸って飛ぶ。

 本格的なごっこ遊びがしたいだけと言われたら、そうだねと肯定するしかない。

 鍛えたところで再現不可能な技もあるだろうと思われるかもしれないが、そこは魔力の特性でなんとなりそうだ。それでも無理なものはありそうだけど。


 魔力というのは仮の呼び名で、正式には願望粒子(劣化)と呼ばれるものだ。

 これはゲーム製作者のブログにある設定資料集に載っていた情報だ。攻略情報を求めてブログを読んだとき、目にしたそれをついでに読んだ。

 この世界は現状剣と魔法の世界だけど、実は下地にあるのが科学文明だ。

 大昔に繁栄した文明があり、発展の末に一つの発明をした。それが願いを叶えるナノマシン。

 詳細を述べると長くなるので割愛するけど、ナノマシンが原因で文明崩壊する大事件があって、魔力は本来の性能から制限されたものになる。二度目の文明崩壊は避けたいということなのだろう。

 制限された魔力はどんな願いも叶えるわけじゃない、でも技の再現くらいならできる。

 メインキャラの専用技がそれを示している。強敵を打ち倒すため修行し、その過程で願いを叶える性質がメインキャラの願いとイメージに反応して、技として現実のものとなった。

 これだけ説明すると誰でもできそうだけど、魔力で願いを叶えたいならその願いの大きさにそった魔力が消費される。もともとこの世界にはない技を生み出すには、少なくない魔力が必要なのだ。

 だから多くの魔力を扱えるように鍛える必要がある。

 魔力は世界に満ち溢れているけど、人間はそれを無尽蔵に扱えるわけじゃない。魔力に課せられた制限が問題となってくる。誰でも、それこそ幼児であっても魔力は扱える。しかしその量は少ない。魔力を多く扱うには、魔法を繰り返し使うことで魔力に適合する必要がある。魔力そのものにもっと多くの量を扱ってよいと認められる必要があるわけだ。

 それと俺が趣味を邁進するなら、再現した技を実用化できるように体も鍛える必要がある。

 例えばひょろがりが放つ昇〇拳やア〇ンストラッシュなんてたかが知れている。

 技を再現するなら相応しい肉体があるというものだ。

 

 というわけで人生の目標が決まった。

 憧れの技を使えるようになる。その技を使いこなすために体を鍛える。

 これをやっていけば死なないように強くなるという目標も果たせる。ついでに技にふさわしいシチュエーションで使いたいな。か〇はめ波を強盗で使うとかありえないよな。

 趣味に邁進していけばいいというやる気のでる目標だと自画自賛する。

 生まれ変わった目的なんか知らされていないのだから、自由に楽しんでいいと思うし、好きにやらせてもらう。

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