第35話 シャーロットのお茶会
貴族の集まりにお茶会というものがある。
男子禁制。お茶とお菓子で恋バナという花を咲かせる女性だけの集まり。
誰と誰が付き合っているか、どの男性がかっこいいか、どんな性格で、何が好きで何が嫌いか。
古今東西、女性が集まると出てくる話。
そのお茶会に今までリリスは参加したことがなかった。
なぜなら、リリス自身お茶会を開いたことがないし、誰からも誘われなかったからだった。
「でも、結局話の中心はジル王子とカイル様の話になるのよね」
リリスと違ってサリーは、ときどきお茶会に招かれていた。そのためリリスよりもお茶会に詳しかった。
なぜ、今そのような話をしているかと言えば、初めてリリスにもお茶会のお誘いが来たのだった。
主催者はシャーロット。四大貴族の一人で、令嬢グループで一番大きいロッティ会のリーダー。
「リリスさん、来てくれますわよね」
そんなシャーロットから招待状を直接渡されて、リリスは戸惑った。
シャーロットとはコレットの病気の一件以来、仲良くなった。しかし、あくまでそれはコレットの病気という共通の秘密を持つ者としてであって、リリスがロッティ会に入ったわけではない。リリスは相変わらずサリーと二人で行動することが多い。
そんな状況でのお茶会の誘い。リリスはお茶会など、何をどうすれば良いか分からなかった。正直、断ろうかと思ったが、シャーロットの次の一言で参加が決定してしまった。
「今回はコレットも参加しますよ。コレットもリリスさんが参加すると聞いて楽しみにしていますよ」
コレットの名前を出されては、さすがのリリスも断れない。その上、サリーも一緒だと言われれば、安心もする。そのため、事前にお茶会の様子をサリーに聞いていたのだった。
お茶会でのマナーやルール、立ち振る舞いなど、サリーに教えられて二人でお茶会対策をして臨んだ当日、リリスはサリーと二人で、シャーロットの屋敷を訪れていた。
二人が通されたのは、手入れの行き届いた美しい庭園。以前、マリウスと来たときに通された所はシャーロットが個人で楽しむ庭園だったが、今回は来客用の大きな庭園だった。咲き誇る色とりどりの花々。ただよう甘い香り。あちらこちらに休憩用の椅子が備え付けられて、ゆっくりと花を楽しめるように配慮されていた。
中央にはガラスで囲まれた大きなガゼボが一つ。
そこには色とりどりのドレスを着たお嬢様達が集まっていた。
真ん中のテーブルには贅を尽くされたお菓子や軽食、高価で香り高い紅茶が用意されていた。
その中心で、その瞳と同じ鮮やかな青いドレスを着たスタイルの良い体つきに長い金色の髪の女性は今回の主催者シャーロット。
その隣では鮮やかなオレンジ色の髪にエーデルワイスの花飾りをつけた可愛らしい少女がリリスを待っていた。
「お姉様、お待ちしていましたわよ。さあ、こちらに」
すっかり元気になったコレットは足取りも軽やかにリリスに近づき、嬉しそうにリリスの手をとる。
「リリス、こちらのお嬢さんは?」
サリーは同じ年頃の令嬢の集まりのはずなのに、こんな小さな女子が参加しているだけでなく、リリスに親しげに話しかけてくることに、驚きを隠せなかった。
「ああ、こちらはね……」
「リリスさん。あなたとコレットのことは、これからみんなに紹介いたしますわ」
リリスがコレットのことを紹介しようとすると、それを遮るようにシャーロットが声を掛けてきた。
そして、シャーロットは主催者として、リリスとコレットの二人を他の人々に紹介し始めた。
「さあ、皆さん、今日はわたくしのお茶会に来ていただきまして、大変感謝いたしますわ。まずは、今日のスペシャルゲストの二人を紹介させていただきます。まずはご存じの方も多いですが、噂の中心、リリス・ロランド子爵令嬢」
噂の中心? おかしな紹介の仕方をすると思いながらも、リリスはスカートを両手でクッと上げると、軽く膝を曲げてお辞儀をする。
「ご紹介にあずかりましたリリス・ロランドです。本日はこのような素敵なお茶会にお招きいただきましてありがとうございます。田舎者ゆえ、無作法もございますが、仲良くしていただけると幸いです」
リリスは最大限の猫をかぶって貴族らしい振る舞いをする。
参加している令嬢達は良くも悪くもリリスのことを知っているため、良い反応も、悪い反応も半々だった。
それは仕方が無いことだった。これまでのリリスの学院生活を考えると、そういう反応が出るのはごく普通の反応だとリリスも理解していた。しかし、リリスはこのお茶会でこの悪い反応をした人々とぜひ仲良くなってやる。そう、意気込んでいた。
「次に、こちらのお方は、コレット・ネルニア第一王女。つまりはあのジル王子の妹君です。わたくしシャーロット・アマデウスとリリスさんの共通の友人と言うことで、本日のお茶会に招待いたしました。コレット様、ご参加いただきありがとうございます」
いつもの幼馴染みの姉ではなく、四大貴族の一つアマデウス家の一員として、第一王女のコレットを紹介した。
アマデウス家とネルニア王家の結び付きは広く知られている。そのため、シャーロットとコレットが友人だと言うことは他の者達にすんなりと受け入れられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます