貧乏令嬢の恋愛事情~愛より特産品が欲しいのです~
三原みぱぱ
第1話 リリスの登校
青い空は高く、夏の始まりを予感させる温かな風が、レンガ造りの家々の間を流れる。
石畳の道に馬車が行き交う朝の早い時間、大通りから一歩裏道に入ったところに、一人の老人が倒れていた。
それに気がついた艶やかな黒髪の少女リリスが、老人を助けるためにそばに駆け寄った。
しわくちゃの浅黒い顔は青ざめ、息が荒かった。
少女は、従者である金髪の少年マリウスから水を受け取ると、老人の上半身を起こして飲ませた。すると、老人は少し落ち着いた様子だった。
日陰で、しばらく休ませていると、老人の顔色は次第に良くなってきた。
白髪に近い銀色の髪を持つ老人は、少女にお礼を言うと、ゆっくりと立ち去ったのだった。
少女はその姿を見送ると、舞い散る花びらの中、嬉しそうに学院へと歩き始めた。
~*~*~
日差しが暖かくなってきた中、子爵令嬢リリス・ロランドと従者の少年マリウスは教室へと走っていた。
「おはようございます」
リリスは息を切らせながらも、明るい声で挨拶をして教室に飛び込んだ。
広い教室にいる数十人の男女は、身なりが美しく高貴な身分であることがすぐに見て取れる。小さい声や挨拶をしないなど言語道断。後でどんな嫌味を言われることかわからない。
「おはようございます」
リリスと一緒に部屋に入った、ふわりとやわらかな金髪の少年も主人以上に周りに気を使って、さわやかな笑顔で挨拶をする。
リリスたちを一瞥しただけで、あいさつを返さない人々の中で、明るくあいさつを返す声がひとつ。
「おはようございます、リリス。今日は遅かったのね」
すでに机に着いている赤毛の少しぽっちゃりした優しそうな女性が、リリスに向かって手を振った。この教室でリリスの唯一の友人で親友のサリーは朝のあいさつを返したのだった。
にっこりと笑い返し、いつものようにサリーの隣に座ろうと教室を横切ろうとするリリスに話しかける声がもうひとつ。
「おはようございます。リリスさん。遅刻ギリギリとは余裕ですわね。田舎育ちですと時間にルーズになるのでしょうね。それに髪に花びらがついていますわよ」
背の高い女性が、その長く縦ロールにセットされた金色の髪をたなびかせてリリスに話しかけると、周りの女の子たちがクスクスと笑った。
女性の名前はシャーロット・アマデウス。ここ聖ネオトピア王国の四大貴族のひとつ、アマデウス家の令嬢。この教室の女性で一番身分が高いシャーロットを中心に作られる『ロッティ会』はこの教室の女性グループでは一番大きく、発言力が強い。そのシャーロットがリリスを責めるように声をかけてきたのだった。
ほらね。ギリギリセーフなはずなのに、こんな言いがかりをつけられる。ここで、時間内です、なんて口答えした日には、貴族たるもの、いつでも優雅に時間に余裕を持って行動するべきです、って怒られるに違いない。リリスはそう、心の中で呟きながら、にっこりとした笑顔で答える。
「家は早めに出たのですが、陽気に誘われて遅くなってしまいましたのよ。シャーロット様(小麦)」
「マリウス、あなたも従者として主人に注意しなければなりませんよ」
シャーロットの隣の席に座っている少し大人びた女性がマリウスに注意する。彼女はシャーロットの従者である。先輩従者としてマリウスに注意をしたのだった。
「ご忠告、ありがとうございます」
「マリウス君は良いのよ、マリウス君は」
素直に頭を下げるマリウスに、シャーロットは優しい目で擁護する。
「そんな小さくて可愛い子をこき使うなんて、リリス。あなたって人は……」
マリウスはシャーロットよりもふた回りほど背が小さい。年が近いものが従者を務めることが多いため、マリウスの小ささはこの教室でも目立ってしまう。
「シャーロット様、そのくらいでいかがでしょうか。リリスさんもはやく席についてください。もう先生が来ますわ」
二人のやり取りが落ち着いたのを見計らって、メガネをかけた少し目つきの悪い青髪の女性が、静かに注意をする。
「ありがとうございます。次から気をつけますわ」
そう言ってリリスたちが席に着いた時、ちょうど教師が部屋に入って来た。
(作者注:リリスのセリフで人物名の後に特産品が入るのは仕様です)
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