第6話 もしかめの達人

 まずはチャージターンだ。


 零奈たちがどうやって攻めてくるかわからないから、俺はユキトの得意なけんさきに止める技を決めてチャージしていく。


 その中で、零奈はカッカッという音を立てて猛スピードで大皿から中皿へと交互に移動させ、もしかめをしている。


『おーっと、片瀬零奈選手! 猛スピードでもしかめを決めていく! もしかめのチャージは一回しかできないが、一体、何回続くんだあああぁぁぁ!?』


 ——す、すっげえ速えぇ。それに動きもきれいだ!


『もしかめチャージは一発勝負だが、回数がエネルギーに直結するぞ! 片瀬選手、一体どこまで続く!?』



 ——あのまま続けられたらまずい


 だけど、零奈もヤエもなんだか嬉しそうにしている。


 零奈は練習の時にもしかめをしていた。ヤエはもしかめによるチャージが好きなのかもしれない。


 それに——


「……玲奈、もしかめ、すっごく上手だな! たくさん練習しないと、そんなに早くできねえよ」


 俺は見たままの感想を伝えると、零奈は俺のことを見て一瞬驚いた様子でいたけど、すぐにけん玉に視線を戻した。


「……な、なによ。しゅ、集中してるんだから、話しかけないでよね」

「剣城くん、零奈ちゃんは褒めてくれてありがとう、って言っているのよ!」

「そ、そんなこと言ってない。ヤエは——あっ!? ちょっと、ヤエが話しかけるから失敗しちゃったじゃない!」

「だって剣城くん、いいこと言ってくれるんだもん! 零奈ちゃんも嬉しそうだし」

「そ、そんなことない!」


 言い返している零奈をヤエはニヤニヤと見つめている。


「……全く、もう」


 零奈はため息をついているけど、本気で怒っている感じじゃない。


「零奈ちゃんもヤエちゃんも前みたいに嬉しそうですわ!」


 二人の様子を楓も嬉しそうに眺めている。


 ——言いたいことを言い合えるってことは、二人はすっごく仲がいいんだな!


 俺も、零奈とヤエみたいに、ユキトともっと仲良くなりたいな、と思いながらふりけんを決めていく。


「よっと……とりあえず、ふりけんでチャージしたけど……」


 零奈は途中でもしかめを失敗していたけど、それでも百回くらいは成功していたように思う。


 ヤエも笑っているけど、チャージのエネルギーが身体からゆらゆらとしているのが見える。


 ヤエの体から立ち上る光は、まるで空気が震えてるみたいで、迫力を感じる。


 ——やっぱり、すっごく強そうだ。


 ユキトの好きなけんさきに決める技を決めた。チャージのエネルギーは結構たまってるはずだ。


 それでも、ヤエの迫力を見ると勝てるのか不安になってくる。


「ユキト……」

「うん、油断は禁物だね。……大丈夫、気をつけるさ」


 そういうユキトの表情は、いつもよりも真剣な感じだ。帽子のつばに手を当てて集中している様子で零奈とヤエのことを見ている。


「ユキトくん、やる気満々だね! ふふっ、お手柔らかに頼むわ」

「……余裕そうだね」

「余裕というか、久しぶりに玲奈ちゃんと繋がってる気がして、嬉しさ爆発っていう感じなんだよね。だから——」


 ユキトとヤエが喋っていると、バトルギアの実況が流れた。


『チャージターンは終了! バトルターンだ! さぁ、先に動くのは——』


 バトルギアの実況が終わるよりも前に、まるで風のように一瞬にして、ヤエがユキトのすぐそばまでやってきた。


「——全然、負ける気がしないんだよねッ!」


 ヤエは腰につけている短い剣を二本とも振り抜いてユキトを切りつけた。


「風神双破(ふうじんそうは)ッ!」


 切り裂くと同時に、すごい風が巻き起こった。


「がはっ!?」


 切りつけられたユキトは、切り裂かれた衝撃とすごい風に吹っ飛ばされた。ドサッと地面に叩きつけられたユキトに駆け寄った。


「ユキト大丈夫か!?」

「うん。でも、速い……全く見えなかった。だけど——」


 苦しそうなユキトに手を合わせているヤエ。


「ユキトくん、ごめーん。零奈ちゃんとバトルできるのが嬉しすぎて、思わず全力出しちゃった!」


 テヘッと、手を握って頭に打ちつける仕草をするヤエ。


「ヤエ……バトル初心者相手にやりすぎ」

「だって、嬉しかったんだもん」


 人差し指をツンツンとしているヤエに、全くもう、という零奈は呆れているようでいて、少し嬉しそうにも見える。


 というか——


「どうして、俺がバトル初心者って分かったんだ? 確かに、やり始めたの昨日だけど」


 零奈の前で、俺はバトル初心者って言ったことはないはずだ。


「……あんた、けん玉が上手いのに、チャージ技でふりけんしかやってないじゃない。けんさきに決める技をしたいんだったら、あんたならもっとできるでしょ?」

「できるぜ! ふりけんからの——よっと、地球まわしだ!」


 地球まわしは、ふりけんを決めてから、そのまま空中に球を跳ね上げて、一回転させてからけんさきに決める技だ。


 どうだ、という様子でけん玉を零奈に見せつけると、呆れた様子でおでこに手を当てていた。


「……そんな初心者のくせに、よくも私に挑んできたわね」


 首を傾げる俺に零奈は言った。


「私、称号を四つ持ってるの。もしかめが得意だし、ヤエとの相性もいいから」

「そう! 速攻タイプで風属性の私と、もしかめが好きな玲奈ちゃんは相性がとーってもいいのよ!」

「なんで、タイプと属性相手にバラしてんのよ!」

「いいじゃない? さっきの攻撃でもうバレてると思うし」


 ヤエと笑い合う零奈の姿が嬉しくて、俺は自然と笑っていた。


「剣城くん?」

「ユキトごめん——ダメージ食らって苦しいかもしれないけど、今俺めっちゃ楽しい! だって、あいつ絶対にけん玉好きだもん!」


 大好きだからこそ、その努力を自分の力じゃないって言われたら傷つく。


 だけど、そんなこと気にならないくらい、楽しいバトルができればいいんだ!


「……零奈ちゃん」


 嬉しそうにヤエと喋っている零奈を見て、楓は涙をこぼしている。


 零奈が少しでもけん玉をして楽しいと思ってもらえるのは嬉しい。でも、このままじゃ負けちゃう。


 ——相手が強くても負けるのは嫌だ!


「ユキト、まだ動けるか?」

「もちろん! ヤエさんは早いけど、マサムネくんみたいな力はない。それに、頑張れば追いつけそうだからね」

「じゃあ、こっから反撃開始だ!」


 ——まだまだ、楽しくなるのはこれからだぜ!

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