第3話 堅翔の気持ち
お互いにけん玉をかまえたところで、バトルギアによる実況の声が流れた。
いつもの気持ちが熱くなる男の人の声じゃなくて、まるで、先生が話し始める時みたいな、背筋がピシッとする女の人の声だ。
『これより、中村堅翔選手の片瀬けん玉教室における試練を開始します』
堅翔がお辞儀をすると、片瀬さんが頭の後ろに手を当てた。
「この声緊張するよね。でも、普段通りの君の力をぶつけてくれると嬉しいな」
「わかりましたー!」
堅翔はあまり緊張しているところを見たことがない。それよりも、やる気満々と言った様子でけん玉を構えている。
——俺なんて見てるだけでドキドキしてるのに……
ギュッと握る手には、じわっと汗が出てきている。
「剣城くん、大丈夫。僕も一緒だからさ!」
「うん……」
「それより、彼を応援してあげよう——バトルじゃないとはいえ、片瀬さんって人とミズキさんは相当強いよ」
俺はゴクっと唾を飲み込んだ。
普段は優しそうな片瀬さんだけど、けん玉を構えたところを見るのは初めてだ。その雰囲気からは圧倒されるものを感じる。
——やっぱ、試練を担当するだけのことはあるな
ユキトに頷いてから、俺は声を張り上げた。
「堅翔、頑張れよ!」
堅翔は笑って手を振ってくれている。
ゴウと顔を見合わせて「がんばろー」とニッと笑ってけん玉を構える姿は、余裕そうにも見える。
——称号を既に持ってるだけあるな
「さぁ、堅翔くんどこからでもかかっておいで!」
「わかりましたー」
堅翔が頷くと、実況の声が流れた。
『それでは、チャージターンです。お互いにチャージ技を決めてください』
——バトルの流れはいつもと一緒なのか……
そこには少し安心した。
片瀬さんは試験だからだろう、あまり大技を決める様子はない。堅翔の様子を見るように大皿を三回カチッと決めている。
——うわぁ、動きがすっごく綺麗だ!
一つ一つの動作がまるで水のように流れるような動きで、見惚れてしまう。
堅翔も感心している様子で、拍手をしている。
「うわー、キレー。でも、僕も負けないですよー」
堅翔はゴウの背中をじっと見つめている。どの技を決めようか考えている様子だ。
少ししてから、堅翔が動き出した。
最初に決めた技は『日本一周』それから『世界一周』。
そして——
「お、おおざら?」
堅翔が最後に決めた技はおおざらだった。
基礎中の基礎技。
もっとチャージができる技は他にもある。
——ここでおおざらをやったことには、何か意味があるはずだ……
様子を伺っていると、片瀬さんが口を開いた。
「どうして、今の三つの技を選んだんだい?」
試すような片瀬さんの質問に、堅翔はいつも通りの調子で答えた。
「ゴウは攻撃よりも、まず受け止めるのが得意なんです。だから、土台になる技——おおざらを含めた技で、しっかりゴウの強みを活かそうと思いましたー」
堅翔の言葉を聞いて、俺はハッとして、思わず立ち上がりそうになった。
——そうか、そう言うことだったんだ!
片瀬さんも堅翔の言葉を聞いて拍手している。
「お見事! 堅翔くんとゴウはしっかりと『共鳴』しているんだね!」
——ただ強い技を決めるんじゃない。パートナーのことを知ろうとすること。それが片瀬さんの言う絆なんだ……!
緊張して、絆をどうやって見せようと思っていたけど、希望が見えた。
「ユキト、俺……緊張して頭が真っ白になって、どうにもならないと思ってたけど、なんとかなりそうだ!」
「……いつも通りの剣城くんなら大丈夫さ。自信を持って行こう!」
ユキトとグータッチをしていると、片瀬さんが口を開いた。
「防御タイプが相手なら仕方ないね。ミズキ、彼らの力量を見極めてくれないか」
「御意」
流れるような動きで、ミズキが剣を抜き両手に構えてゴウへと向かっていく。そのまま二刀を交差させた。
「双蒼斬!」
空気を裂くように舞ったミズキの剣は、水をまとって、まるで川を切り裂けそうなくらいに鋭い斬撃だ。
だけど——
「ぐ、ぐ……」
そのミズキの攻撃を苦しそうな表情だけどゴウは受けとめた。
「頑張ってー、ゴウ!」
押し負けてしまいそうなゴウの様子にいてもたってもいられなくなって、俺も教室の端から声を張り上げた。
「ゴウ頑張れ! 負けるな!」
反撃とまでは行けなかったけど、ゴウは片膝をつきながらもなんとかミズキの攻撃を防ぎ切っていた。
ゴウの足元にはひびが走っている。だけど、ゴウは倒れなかった。
——堅翔とゴウの気持ちが一つになったんだ!
その様子に片瀬さんがウンウンと頷いた。
「見せてもらったよ、堅翔くんとゴウの絆! よく攻撃を耐え抜いたね。想像以上の絆だよ。うん『共鳴』の称号を渡すのに申し分ない実力だね」
——これが、剣術師とパートナーの絆の力……
実力差はあるかもしれないけど、剣術師とパートナーが息を合わせることで生み出す絆の力があれば、俺ももっと強くなれるかもしれない。
『試練監督片瀬蓮斗の基準に達しました。中村堅翔選手『共鳴』の称号獲得です』
バトルギアのアナウンスが聞こえた。
「やったー!」
「……うむ」
堅翔とゴウがハイタッチをしている。
嬉しそうな堅翔たちの様子に俺の胸もあったくなった。
「次は僕たちの番だね——剣城くんなら大丈夫」
「うん! ユキト頑張ろうぜ!」
片瀬さんを見ると、優しそうな笑みを浮かべている。
——俺も、片瀬さんの試練をクリアしてみせる!
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