第35話「深淵の捕食者」第一部

 パチパチと爆ぜる焚き火の音だけが、彼らの張り詰めた神経を叩くパーカッションだった。夜の静寂が、すべてを飲み込まんとしている。


 レグルスの意志が生み出した火山岩の砦――その繭の中に閉じこもり、若者たちは束の間の休息を求めていた。濃密な空気の中、薬缶の中ではグツグツとトカゲの尻尾が煮え立ち、その薬草のような独特の香りが緑茶の香ばしさと混じり合っている。森から這い上がってくる腐敗の悪臭を、必死に打ち消そうとするかのように。


 外では、レグルスが石像のようにジッと、闇を見据えていた。彼が警戒するその視線の先で、『樹海』は絶えずその姿を変えていた。時間が経つにつれ、闇はより濃く、より飢えているように感じられる。第十環での三日目が終わるということは、ミッカを蝕む毒を消すという樹液を求める、絶望的な旅の二日目が終わるということでもあった。


 古の大樹の約束だけが、彼らの道しるべだった。だが、その道は死に満ちている。目的地に近づくほど、瘴気は濃くなり、まるで実体を持ったかのようにまとわりつく。かつては眠れる巨人であった木々は、今や腐り果てた骸骨となり、その幹からはドロリとした黒い樹液が滲み出ていた。森の獣たちは、恐怖に駆られて反対方向へと逃げていく。彼らが森の病んだ心臓部へと向かっていることを示す、生きた前兆だった。


 かつて青白い光で夜を彩っていた菌類は、今やその輝きを失い、ポツポツと弱々しく点滅するだけだ。それらがなければ、樹海は漆黒の奈落だった。マナの密度が精神を蝕み、感情を歪ませる『呪い』の存在を知っていても、原始的な恐怖は常に側にあった。その存在自体が理解を超えた者を怒らせてしまうかもしれないという、恐怖が。


 森の腐敗は、風景そのものを変えていた。かつて道となっていた枝や根は朽ち果て、下の沼地を覗かせる亀裂を広げている。今やそれは裂け目というより、光さえも飲み込むような暗い水をたたえた洞窟の入り口のようだった。彼らの野営地は、そのゾクッとするような高みにあり、眼下の黒い水との距離が、自分たちの命の儚さを絶えず思い出させていた。


 闇、未知の生物、これまでの試練、呪いとの内なる戦い、エレメンタルを怒らせることへの恐怖。そして、そのすべての上に君臨する、最悪の恐怖…喪失への恐怖が。


「…容態が、良くならない…」ダイアンヤの声は途切れ途切れで、その一言一言に疲労が刻まれていた。隠しきれない震えが、彼女の恐怖を物語っていた。


 横たわるミッカは、苦悶の絵画そのものだった。ハァ、ハァ…と浅く短い呼吸を繰り返し、その肌はジュッと音がしそうなほどの高熱を放っていた。


「姉(ねえ)ちゃん、これを飲んで…」ミッコがスッと彼女のそばに現れ、木のマグカップから湯気が立ち上る。それは、指の間からこぼれ落ちていく何かを、必死に繋ぎ止めようとする絶望的な行為だった。


「ダイアンヤ、何か、ミっカに使える魔法はないのか?」テセウキの声は、力なく引きずるようだった。火山岩の壁にもたれかかり、その顔にはまだ、ダイアンヤの魔法によって引き起こされた魔力枯渇の青白さが残っている。少なくとも、もう荷物のように運ばれる必要はなくなったが。


「こんな病気に効く治癒魔法なんて…あたしは知らない…」ダイアンヤの返事は、敗北の響きを持っていた。彼女は、精神的に疲れ果てていた。


 その時、砦の壁が**ゴゴゴ…**と赤く輝いた。垂直の長方形にマグマが溶け、燃え盛る傷口のように開く。夜の冷たい空気を纏い、レグルスが入ってきた。「お前が使った、あの再生魔法はどうだ?助けになるんじゃないのか?」


 ダイアンヤは、白い髪を顔に落としながら首を横に振った。「あの魔法を使ったのは、副作用で代謝が上がるからよ。でも、効果が切れた時の疲労は凄まじいの…助けになるか、それとも彼女をもっと追い詰めることになるか…分からない…」


 後に続いた沈黙を、パチッという焚き火のはぜる音だけが破った。レグルスの視線が、部屋の中をザッと見渡す。熱に浮かされるミッカ。そして、肩を落とし、俯き、罪悪感の海に溺れる三人の仲間たち。


(俺がもっと強ければ…俺がもっと強ければ、こんなことには…!これは全部――)


 彼は、その思考を断ち切った。**スゥー…**と深く息を吸い込む。冷たい空気が、彼の心をクリアにした。二つのことが、明確になった。彼は素早くダイアンヤに近づくと、グイッと彼女の頭を無理やり下げさせ、攻撃というより衝撃を与えるような強さで揺さぶった。


「や、やめなさいよ!」彼女は、彼の手から逃れようと抗議した。


 ミッコとテセウキは、ハッとして顔を上げた。


「呪いのことを俺に話したのは、あんたじゃなかったか?」レグルスの声は鋭く、その唇には傲慢な笑みが浮かんでいた。


「それが何よ?…あ…」彼女の目に、理解の光が宿った。


「感傷に浸るな」彼の声は、全員の注意を引くように大きくなった。「こんなことで呪いにやられるくらいなら、いつだって胸を張ってなきゃダメだろ!」彼は振り返り、再び壁を開けるために手を触れた。


「あんたが、誰よりもそれを分かってるはずだ、ダイアンヤ」彼は肩越しに振り返り、その傲慢な笑みは、本物の自信に満ちたものへと変わっていた。「それに、アルマさん自身が言ってた。ミッカの体は弱くないってな。薬を手に入れさえすれば、あいつは大丈夫だ」


 レグルスは、仲間たちの顔に活気が戻り、その目に決意の炎が再び灯るのを見た。弱々しいが、本物の小さな笑みが浮かんでいた。


 しかし、彼が去ろうとする前に、その視線は釘付けになった。一対の青い瞳が、寝台から彼を見つめていた。それは、ここ数日見てきた、真剣で、冷たく、決意に満ちたものではない。彼の心を最初から捉えて離さなかった、あの無垢な眼差し。弱々しいが、優しい笑みがミッカの唇に浮かぶ。熱で潤んだその瞳には、揺るぎない信頼、彼一人に託された信仰の重みが宿っていた。


 レグルスはゴクリと息をのんだ。首筋が熱くなり、頬がカァァッと赤く染まるのを感じた。一瞬、傲慢なリーダーは消え、うろたえた一人の少年がそこにいた。彼はすぐに体勢を立て直し、自信に満ちた笑みを彼女に向けると、外へ出た。マグマの壁が彼の後ろで閉じていく。彼は、闇と、あの眼差しの残響と共に、一人残された。

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