第20話「運命の夜明け」
戦いの後の日々は、静かな哀悼と熱に浮かされたような努力の靄の中に過ぎていった。カン、カンと岩に打ち付けられる槌の音と新しい木の香りが死の悪臭に取って代わり、カイウナは、その頑固なまでの回復力で、自らの灰の中から立ち上がり始めていた。浜辺では、**ガキン!ガキン!**と訓練用の剣が打ち合う音が絶え間ない旋律となり、地獄を目の当たりにして生き延びた若者たちの、新たに見出された決意の証となっていた。彼らは上達していた。痛みが、蒼天の艦隊が到着した時には持っていなかった強さを、彼らの中に鍛え上げていた。
しかし、時は容赦しない。休息の日々は、どれほど必要であっても、終わりを告げた。
その召集は、何の前触れもなく、冷たく最終的な命令としてマン・オ・ウォーの会議室に響き渡った。広大な水晶の窓からは、再建された村が小さく、脆く見えた。運命の一吹きで、再び壊れてしまいそうなおもちゃのように。
ホムラは、朝の青白い空を背に、その威圧的なシルエットで立っていた。彼の隣では、カイトとラムザが、義務と哀悼の彫像のように硬い姿勢を保っている。彼らの前には、遠征のために選ばれた者たちが、息も詰まるような重い沈黙の中で聞き入っていた。七つの部隊。七人のカイウナの案内人。四十九の魂が、未知へと足を踏み入れようとしていた。
「明朝、決行する」ホムラの声は、墓石が据えられる音のようだった。「この場にいる全員が、ついに『古の世界』の領土へと足を踏み入れるのだ!」
各隊七名からなる七つの部隊。最大限の効率を計算された編成。三人の司令官、残る三人のドラゴの子――レイン、スノウ、ブリザード――そしてシリウスが率いる。各隊にはカイウナの案内人が一人、レインが指名した二人の医療兵、一人のサバイバル専門家、そして二人の天騎士が配属される。それは、無事な帰還という変数が危険なほど小さい、戦争の方程式だった。
「質問は?」ホムラは尋ね、その唯一の緑の目が部屋を見渡した。
誰も口を開かなかった。空気は、真剣で、冷たく、決意に満ちた視線で満ちていた。シリウスの瞳には、危険な興奮の輝き。カインの瞳には、凍てつくような虚無。
「よろしい…」ホムラの言葉に満足の色はなく、ただ暗い受容があった。「生きて帰れる確率は、ほぼゼロパーセントだと思え。解散!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝は、残酷なほどの美しさで明けた。太陽がカイウナの新しい建物を金色に染め、通りに戻ってきた生活のざわめきが、炎と血の記憶をほとんど消し去るかのようだった。蒼天の兵士たちが村人たちを手伝い、その銀色の鎧が島の民の質素な衣服の間で輝いていた。悲劇の灰の中から、絆が生まれていた。
しかし、ダイアンヤにとって、それは幸せな朝ではなかった。
**バーン!**と、彼女は裸足で家を飛び出した。心臓が、純粋なパニックのリズムで肋骨を叩いている。目覚めると、テーブルの上に手紙が置かれていた。母の優雅な筆跡、その言葉がナイフのように彼女の胸を突き刺す。「…私の務めです。彼らと共に行きます」
彼女は走った。**タッタッタッ!**と絶望が彼女に翼を与え、その足は固く踏みしめられた土にほとんど触れなかった。村の門で、彼女は息を切らしながら立ち止まり、浜辺を見渡した。艦隊はそこにいた。静かな金属の巨人たち。しかし、見慣れた顔ぶれ、彼女の日常の一部となった天騎士たちの姿は、消えていた。
悔しさに叫び声を上げると、彼女はマン・オ・ウォーのランプへと走り、嵐のように無機質な廊下へと侵入した。彼女とテセウキ、レグルスが使っていた宿舎が目の前にあった。彼女はドアを蹴破った。
薄暗がりの中、二つの人影が、世界のことなど気にも留めず、深い眠りに落ちていた。
「起きてよ!」彼女は叫んだ、その声は絶望に引き裂かれていた。
レグルスは唸り、ベッドで寝返りを打った。「ん…なんだよ、ダイアンヤ…?」その声は、眠りで不明瞭だった。テセウキはただ呻き声を上げた。
「ミッカちゃんは!?ラムザ様はどこ!?」
レグルスは目をこすり、混乱がその顔を覆っていた。彼は首を横に振った。ダイアンヤの苛立ちは限界に達した。唸り声を上げると、彼女は再び踵を返し、走り去った。後ろには、混乱したままのレグルスが残され、彼は一瞬の後、再び眠りに落ちた。
彼女はあてもなく廊下を走り、涙で視界がぼやける。その時、**ドンッ!**と誰かにぶつかり、鈍い音と共に尻餅をついた。
「大丈夫ですか、お嬢さん?」その声は優しく、純粋な心配がこもっていた。蒼天の医療兵の一人だった。
「ユウダイ!」ダイアンヤは叫び、女性の腕を掴んだ。「ユウダイさんは!?どこにいるの!?」
医療兵は困惑し、身を引こうとした。「レイン様は今、お忙しいのですが。何かご用件でしょうか?」
しかしダイアンヤは彼女を無視し、すでに立ち上がって再び走り出していた。幸運か、あるいは運命か、廊下を曲がったところで、彼女は例の兄妹と鉢合わせになった。ミッコとミッカが、それぞれ果物を手に食堂から出てくるところだった。ダイアンヤの顔を見て、彼らの笑顔は消え去った。
「アーニャちゃん?どうしたの?」ミッカが、穏やかな声で尋ねた。
「あたし…あたしは…」言葉は、嗚咽に詰まって出てこなかった。
**ジリリリリリリ!と、起床を告げる鋭い警報音が宿舎に響き渡り、レグルスは怒りの叫びと共にベッドから飛び起きた。しかし、彼が世界を呪う前に、ドアがバタン!**と開き、混沌の奔流が彼を襲った。
ミッコが彼の上に飛び乗り、ほとんど平手打ちするようにして彼を起こそうとし、ミッカとダイアンヤは、まだ朦朧としているテセウキに同じことをしていた。
「おい!おい!おい!何があったんだ!?落ち着け!」テセウキは、身を守ろうとしながら叫んだ。レグルスはまだ現実を処理しようとしていた。
「彼ら、『古の世界』に行っちゃうのよ!」ダイアンヤは、テセウキの襟首を掴んで揺さぶりながら叫んだ。「もう行っちゃったの!」
レグルスは首を傾げ、その言葉の恐怖に、ついに眠気が吹き飛んだ。「何だと?」
五人は、まるで命がかかっているかのように走った。村を駆け抜け、宮殿の廃墟へと続く急な坂を登る。左手にある、山のさらに高い場所にある洞窟へと続く道は、彼らにとって「古の門」として知られていた。儀式と厳粛な告知の場所。出発の場所。
ついに、息を切らし、肺を焼かれながらたどり着いた時、彼らは見た。五十人近くの一団が、彼らに背を向け、洞窟の暗闇へと入ろうとしていた。
「待ってえええええええ!」ダイアンヤの叫び声が、鋭く、絶望的に岩に響き渡った。
遠征部隊は立ち止まり、一人の男のように振り返った。
ホムラの隣で、カイトはため息をついた。「だから、日の出前に出発すべきだったと申したのに…」
「運命が、我々を理由あってここまで導いたのだ」ホムラは答えた。その唯一の緑の目が、近づいてくる若者たちに注がれていた。
ダイアンヤの視線が、絶望的に一団をさまよい、ついに母親、ラファの姿を見つけた。彼女は、カイウナの案内人の一人と並んで立っていた。裏切りと痛みが、彼女の顔に溢れた。
「アーニャ!ここで何をしているの?」ラファの声は、苛立つ母親のものだったが、その瞳は深い心配を裏切っていた。
「あたしが聞きたいわよ!あなたこそ何してるの!?」ダイアンヤは彼女の元へ駆け寄り、すでに涙が溢れていた。「なんで今行くの!?どうして!?なんでママが!?」
娘の瞳の痛みを見て、ラファの表情は和らいだ。彼女は娘をギュッと抱きしめた。「私の務めなのよ、娘よ。誰かが、我々の同盟者たちを導かなければならない」
「でも…」ダイアンヤは母親の肩に顔をうずめ、嗚咽した。その体は震えていた。「あなたじゃなくても…」
母と娘が抱きしめ合う間、他の者たちはそれぞれの焦点を見つけていた。
一人、また一人と、若者たちは散り散りになり、それぞれの別れを、答えを求めた。
テセウキは師の元へ近づいた。「カイト様…」
「小僧」カイトは頷きで彼に応えた。その厳しい表情は、不本意ながらも敬意によって和らいでいた。「訓練は続けているか?」
「毎日です」テセウキは、固い声で答えた。「色々、ありがとうございました」
「フン。なんだそれは、別れの挨拶か?」シリウスが、嘲るような笑みを浮かべて割り込んだ。「正直なところ、二人を見てると、俺様よりあんたの方が本当の孫みたいだな」
「シリウス」カイトの声は低く、氷のように鋭く、即座に孫を黙らせた。彼はもう一人を無視してテセウキに向き直った。「職人の力とは、ただ創り出すものにあるのではない。壊されたものを再建する、その回復力にある。忘れるな」
一方、ダイアンヤはシリウスとブリザードと対峙していた。「本当に行くの?」
「心配するな、小娘」シリウスは胸を張った。「このシリウス様が、瞬く間にこの戦争を終わらせてやる!」
フユミはただダイアンヤを見ていた。その金色の瞳は分析的だった。「あなたのアルカナへの素質は、注目に値します。磨き続ければ、あなたは恐るべき魔道士になるでしょう」それは、ブリザードが与えることのできる、最大限の賛辞だった。そしてダイアンヤは、その言葉の重みを理解した。
ミッコは、将軍の元へ走った。「ホムラ様!」
ホムラは振り返り、その威圧的な存在感に少年は一瞬ためらった。「ありがとうございました…本のこと」ミッコは、少し震える声で言った。「俺…俺、勉強を続けます。あいつらのこと、全部学びます!」
将軍はしばらく少年を見つめ、その唯一の目が少年の魂を覗き込んでいるかのようだった。そして、喉の奥から、笑いに近い音が漏れた。「フン。勉強を続けろ、小僧。知識は、どんな刃よりも鋭い武器となる」
レグルスは、両の拳を固く握りしめ、黙ってすべてを見ていた。(何のための力だ…肝心な時に、子供のように後ろに残されるなんて…)苛立ちが、彼の胸の中で熾火のように燃えていた。
息を切らしながら膝に手をつき、彼は不満を隠せない様子で一団を見つめ、独り言のように呟いた。「ついに、行くのか」
隣にいたカインが、彼の方を向いた。その虚ろな声には、からかいの色が滲んでいた。「我々のことが心配ですか、ヴォルケーノ?」
レグルスが唸り声を上げる前に、ユウダイが近づき、彼の背中を**バン!**と叩いた。「訓練を続けろよ、小僧!」彼はカインを親指で指差した。「この馬鹿がいなくても、お前はもう自分の弱点が分かるはずだ」
しかし、最も痛みを伴う再会は、兄妹のために用意されていた。
「お兄ちゃん、どうして?」ミッカの問いは、引き裂かれたような囁きだった。
「これが、僕の務めだからだ、ミッカ」ラムザの声は穏やかだったが、それは深く荒れ狂う海の表面の静けさだった。
「務め?約束はどうしたの!?私の面倒を見るって言ったのは!?嘘だったの!?」彼女の声は震え、非難と深い痛みが混じり合っていた。
「君の面倒を見ているさ!」ラムザは言い返した。その声は大きくなり、穏やかな仮面がひび割れ始めていた。「僕の役目は、君が生きる未来を確保することだ!たとえ、僕が二度と帰れない場所へ行くことになったとしても!」
「私も行く!」彼女は一歩前に出た。その拳に、**バチバチッ!**と電気が走る。
「駄目だ!」ラムザの叫びは、雷鳴だった。彼は彼女の肩を掴んだ。その手の力強さが、彼の瞳の絶望を裏切っていた。「君の戦いは終わったんだ、ミッカ!君はもう、十分すぎるほどやった!今は…今度は、僕に僕の役目を果たさせてくれ。君の、兄でいさせてくれ」
最後の言葉では、彼の声から力が失われていた。彼は突き放すように彼女を離すと、その顔に浮かんだ苦痛を見せまいと背を向けた。
「君は残るんだ、ミッカ!これで話は終わりだ!」
一言一言が、一撃だった。ミッカは固まり、彼が去っていくのを見つめていた。彼の白いマントが、他の者たちの中に消えていく。部隊が動き始め、彼らが後にする世界に背を向け、洞窟の暗闇と対峙した。
敗北感に打ちひしがれながらも、ミッカはそれを受け入れなかった。
彼女は友人たちを振り切り、最後にもう一度走り、最終権威であるホムラの前に立ちはだかった。しかし、彼女が口を開く前に、将軍の声が彼女を黙らせた。
「小娘、兄の言うことを聞け」
「私だって手伝える!私を置いていくなんて、不公平だ!」彼女は、怒りに満ちた声で抗議した。
ホムラの表情が硬くなった。親しみやすさは消え、蒼天国軍総司令官の仮面が取って代わった。「これは軍令だ」彼の声は重々しく、感情がなかった。「貴様の同行を禁ずる。残れ」
それが、最後の一押しだった。ミッカの怒りが爆発した。
「私が蒼天の民でも、天騎士でもないのに、あなたに命令される筋合いがどこにあるっていうの?」彼女は顎を上げ、その瞳は力で輝き、彼に挑んだ。
ホムラは微笑んだ。彼女の気概に、純粋に驚いた、本物の笑みだった。将軍としての態度は消え、もっと古く、もっと…親しみのある何かに変わった。「それは本当だな。だが、将軍として、儂はまだ命令を下せる」彼の唯一の緑の目が細められ、その奥で楽しげな光が踊った。「遠征から、お前を外す、ボルト」
「その称号を私にくれたのは、あなたじゃない!」
ホムラの笑みはさらに広がった。彼は少し身をかがめ、その声は悪戯っぽい共謀者のようなトーンに落ちた。「うむ、もっともな言い分だ。では、別の手を試そうか…儂は、君の父上とは若い頃からの知り合いでな。戦友だ…」
ミッカは彼を見つめた。「それが、私と何の関係が?」
「ラムザはさておき」ホムラは続けた。「儂が君にとって最も近しい家族ということになる…君の父上が、亡くなる前に、儂に子供たちの後見を託してくれたのでな」
ミッカの世界が、止まった。「え?」
「というわけで」ホムラは背筋を伸ばし、をした。「君の法定後見人として、そして叔父として…儂は君が行くことを禁ずる、小娘」
彼は踵を返し、しゃがれた笑い声が唇から漏れた。彼は他の者たちに合流し、後ろには、完全に言葉を失い、顎を落とし、軍令ではなく、彼女が存在さえ知らなかった絆によって打ち負かされたミッカが、**ポカーン…**と、ただ一人残された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何時間もが、静寂の永遠のように感じられた。
場面は変わったが、痛みは残った。今、彼らがいるのは見慣れた隠れ家、まるで別の人生、遠い昔に属していたかのような場所――ミッコの小屋だった。
ダイアンヤは小屋の古びた壁に背を預けて座り、その赤い瞳は広大な灰色の海を見つめていた。波のザアァァ…という動きだけが、彼女の世界で唯一、生命を持っているかのように感じられた。焚き火のそばでは、ミッコが黙々と動き、食べるものを準備していた。魚を切るナイフのトントンという音は、くぐもって悲しげに響く。そう遠くない場所で、木の幹にもたれかかりながら、レグルスは眠っているふりをしていた。誰の目も欺けない、無関心の仮面だ。そしてテセウキは、手と心を何かで満たす必要があったのか、訓練用の剣でゆっくりと重い素振りを繰り返していた。
ダイアンヤの隣には、彼女と同じように身じろぎもせず、ミッカが座っていた。その瞳もまた海に向けられていたが、それは彼らの心に巣食った虚無を映す鏡のようだった。別れの痛みは、冷たい潮のようにじわじわと満ちてきて、彼らをゆっくりと溺れさせていた。
何時間かが、何日にもなった。日々のルーティンは、感情の嵐に対する脆い錨だった。テセウ-キは休むことなく訓練を続け、その一振り一振りが声なき叫びだった。ミッコは収集者としての仕事を続け、仲間を養うという必要性が彼を動かし続けた。レグルスは眠っているふりをやめ、鋼の弦のように張り詰めた筋肉をギシギシと伸ばしていた。しかし、二人の少女は変わらないまま、言葉を見つけられない悲しみの石像だった。
「……大丈夫かな、アーニャちゃん?」
ミッカの問いは、二日間の沈黙を破る、ガラスのように脆い囁きだった。ダイアンヤはビクッと体を震わせた。出発以来、彼女は誰ともほとんど言葉を交わしていなかった。力を振り絞るように、その顔に苦悶の色が浮かぶ。
「……あいつら、強いからね……」彼女は、声がかすれながら答えた。「だから……大丈夫だと思う。」その言葉は空虚に響いた。友を元気づけようとする必死の試みでありながら、実際には確信もなく自分に言い聞かせているだけの、おまじないだった。
太陽が水平線に沈み始め、空と彼らの顔を物悲しいオレンジ色に染めていく。
「……そろそろ戻るか」テセウキが、ついに剣を下ろしながら言った。その金属が、やけに重く感じられた。彼は艦隊が停泊する遠くの浜辺へとテクテクと歩き始めた。
ミッコが小屋から現れ、いつものように収集品を運ぶための帆布の鞄を背負っていた。
ダイアンヤが立ち上がり、服についた砂を払う。「行こう、ミッカちゃん……」
「うん……」ミッカは、力なく頷いた。
しかし、立ち上がった彼女の視線はレグルスを捉えた。遠征隊が出発してから、彼の目には虚しい苛立ちが浮かび、ダイアンヤ以上に重い沈黙を背負っていた。彼はほとんど口を利かず、精力的に行っていた訓練もやめてしまっていた。だが、今は……今は違った。その赤い瞳には新しい光、落胆の霧を切り裂くような鋭い決意が宿っていた。何かが変わったのだ。そしてその変化は、どういうわけかミッカの心を捉えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜は冷たく、湿っていた。ミッカとミッコがマン・オ・ウォーの宿舎で眠っている間、他の三人は村に戻っていた。テセウキの工房の中は、金属と油の匂いがした。
「何も渡さないって言っただろ!」テセウキの声は大きく、決定的だった。
「ナイフ一本でもか?」部屋の向こうから、レグルスが挑発した。
ヒュッ!
一本のナイフが空を切り、トンッ!という鈍い音を立ててレグルスの顔から数センチの岩壁に突き刺さった。彼はカチンと凍りつき、その刃だけでなく、友の突然の力強さに目を見開いた。
「行くなよ……」テセウキは、低く張り詰めた声で言った。
「でも、俺は行く!」
「自殺行為だぞ、おい!」
「頼む、テセウキ。誰にも言うな!」
テセウキはレグルスの決意に満ちた顔を見つめ、はぁーと長いため息をついた。その音には、敗北と心配が入り混じっていた。「まさか、俺が何かが危ないって言って、お前がそれに突っ込んで行きたがる日が来るとはな」疲れた笑みが、彼の唇に浮かんだ。
レグルスは壁からナイフを引き抜き、腰に差した。彼はすでに準備してあったバックパックを手に取り、ドアへと向かった。
「『大騎士』たちに捕まるなよ、バカ」テセウキは、作業台の方へ向き直りながら言った。
「行ってくる」それが、レグルスの最後の言葉だった。
彼は冷たい夜の中へと踏み出し、その視線は遠くの宮殿の廃墟にジッと注がれていた。
彼は影のように動き、家の隅をすり抜け、大騎士と蒼天の兵士たちの見回りを避けた。破壊された宮殿に着くと、彼は左手にある洞窟へと続く道を見た。月明かりの下で鎧を輝かせる二人の天騎士が、その通路を守っていた。
(なんでよりによって天騎士が二人もいるんだよ)
彼の視線が廃墟を走り、探していたものを見つけた。アイアンとの戦いで彼が創り出したマグマの岩が、乾いて脆くなり、いくつか残っていた。
(もし、あれを……)
ゴゴゴゴ…
廃墟の前の岩が揺れ始めた。そして、**ガシャッ!**という鈍い音と共に崩れ、土煙を上げて衛兵たちの注意を即座に引いた。
「おい、今の音は何だ?」一人が言った。二人は慎重に近づく。「ただ構造が崩れただけか……」
「すぐに工兵を呼んで片付けさせた方がいいな」
「まだ村の再建で手一杯だろう……」
その隙に、レグルスは地面からマグマの腕を呼び出した。巨大な手が静かに彼をすくい上げ、登り口の入り口に降ろした。地面に触れると、その腕は固まり、そして塵となった。(訓練の成果、確かに出てるな!)
彼は丘を駆け上がり、洞窟の闇へと入った。そこから、彼は山の麓にある巨大な穴を見下ろした。岩々は一歩ごとに螺旋状にねじれ、暗い奈落へと近づいていく。
彼は降りていった。奈落の縁に着くと、彼は見上げた。山の頂上への道を示す洞窟がそこにあった。(楽勝だ。マグマで登るだけだ)
頂上に着くと、彼は下を見下ろした。目がくらむような落下に、胃がヒュッと冷たくなる。彼は暗闇に包まれていた。洞窟の道は真っ暗で、奈落も同じく、唯一の光は洞窟を照らす青白い月明かりだけだった。
「ミッコみたいに炎の一つでも作れたらな……」彼は呟いた。
ピカッ!
まばゆい光が彼の顔の前で爆発し、彼は思わず目を閉じた。ようやく目を開けると、白い髪と赤い瞳の少女が、説明のつかない怒りの表情で彼を睨みつけていた。
「ここで何してるのよ」彼は呆然と尋ねた。
「あんたこそ、ここで何してんのよ、レグルス?」ダイアンヤは言い返した。
彼はイライラしながら彼女を通り過ぎた。「どうやってここまで来たんだ?」
「洞窟の右側にもっと道があるのよ……この洞窟を通らなくても来れたって知ってた?」
「あ……」彼は立ち止まった。ダイアンヤはただ、従兄の馬鹿さ加減に笑うだけだった。「待てよ。どうしてそれを知ってるんだ?」彼は、苛立ちと好奇心が入り混じった声で尋ねた。
「えっと……それは……」彼女は誤魔化そうとした。
「どっちでもいい……とっとと帰れ!」彼は唸り、再び歩き出した。
「待って、レグルス!」
「俺を止めようとするな!」
しかし、ダイアンヤは彼の元へ駆け寄り、隣に立った。「あたしも一緒に行く!」
レグルスは立ち止まり、誇らしげに笑う従妹を見つめた。
「彼女だけじゃないぜ!」聞き慣れた声がした。レグルスは暗闇に目を向けた。ダイアンヤが手のひらの光を強め、洞窟全体を照らし出した。
高い岩の上に座り、冒険の準備万端のミッコが彼を見下ろしていた。「案内人もなしに、未知の土地で生き残れるとでも思ってんのか、レグルス兄貴?」少年の笑顔は自信に満ちていた。
「ありえない!お前は行かないぞ、ミッコ!お前もだ、ダイアンヤ!」
レグルスの剣幕にミッコはビクッとしたが、ダイアンヤは再び笑った。「それで、あんたは行くつもり?案内人もなしに?」
レグルスの目が大きく見開かれた。「お前……全部知ってたのか?」
「まあね!あたし、小さい頃から『古の世界』について勉強してたから。ガイドになるために。ママみたいにね!」
「それでも、ダメだ!」
「あら?」
「お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない……」彼は顔を赤らめながらそっぽを向き、従妹への心配は明らかだった。それが、ダイアンヤに彼をからかうさらなる理由を与えた。「あたしのこと心配してくれてるの???かわいい!!」
「もういい!!!」
「それに、職人もなしで行けるのか?」別の声が、ダイアンヤが言っていた道から聞こえた。テセウキが現れ、背中にバックパックを一つ、腕にもう一つ抱えており、それをダイアンヤに渡した。
「こうなるべきだったんだろうな……」レグルスは、苛立ちと諦めが混じった表情で言った。「それに、職人ってどういうことだ?お前が何の役に立つんだ?」
「お前が魔法を使った後、どれだけ役立たずになるか、ここにいる全員が知ってる……だから、お前の装備を修理したり、これをもう一つ作ったりするのは誰だと思う?」彼はそう言って、レグルスの腰から先ほど渡したナイフを抜き取った。
「お前ら……」レグルスは呟いた。
「それだけじゃないぜ!」ミッコが言った。「他の人たちも協力してくれたんだ!でなきゃ、これが手に入ると思うか?」彼は鞄から果物をいくつか取り出した。レグルスはすぐに、市場の老店主がくれる種類のものだと分かった。ダイアンヤは薬と包帯の入ったキットを見せた。
「ミッカは知ってるのか?」レグルスは尋ねた。
「彼女が知ってるかって?」ダイアンヤは問いを繰り返した。
「その考えは、私が思いついたものだから……」ミッカが、キリオの隣で暗闇から現れた。
「おっさん?」レグルスは驚いて言った。
「私はこれに反対だが……」彼はレグルスを見た。「……大長老様の命令だ、お前たちは行かなければならない……」
「じいさんが……命じたのか?」
「お姉ちゃんが私に命をくれた時、私がこの浜辺に落ちた理由があるのなら……それは、まさにこの日のためだった」ミッカは一歩前に出た。その眼差しは決意に満ち、声は真剣だった。彼女はもはや以前の無垢な少女には見えなかった。ソレルの名にふさわしい誰かに、ますます近づいていた。
レグルスは、皆の決意を見て、ただ微笑んだ。
そして、五人は出発した。山の暗闇を登っていく。彼らは巨大な鍾乳石や、壁で弱く光る小さな虫を見ながら、這い上がり、すり抜けた。**ポタ…ポタ…**と滴る水の音が響く。何時間も、彼らは岩を這い進んだ。
ついに、急な下り坂を降りた後、トンネルの先の光が彼らの目に飛び込んできた。
彼らはそれに向かって歩いた。しかし、到着する直前、先頭を歩いていたダイアンヤが立ち止まった。
「生きて帰れる確率は、ほぼゼロよ……もし、誰かやめたいなら……今がその時よ」
しかし、彼女が聞いたのは、彼女の後ろで続く彼らの足音だけだった。案内人は微笑んだ。「行くわよ!」
五人は光に向かって行進した。ダイアンヤが先頭。右にレグルス、左にテセウキ。ミッコがテセウキの後ろ、ミッカがレグルスの後ろ。増していく光に照らされた彼らの顔は、恐怖、真剣さ、冷たさ、そして決意の仮面だった。
(この先に何があるんだろう?何が私たちを待っているんだろう?竜の国とは、一体何なんだろう?)
洞窟を出ると、そこは古い木製のプラットフォームだった。彼らの後ろには、螺旋状の岩々がそびえ立ち、山脈の頂上がこれまで以上に近く感じられた。眼下には、巨大な木々が広がる広大な森が広がっていた。
そして、その先に、『古の世界』の異様な光景が広がっていた。
同時に見える何十ものバイオーム。黄金の砂漠、白く冷たい山脈、黄色く乾燥した山々。広大な湖の深い青、遠くの火山から流れるマグマの赤。
それぞれが他のものよりも異質でありながら、すべてがそこにあった。同じ視界の中に。
五人の若者たちが、目の前の光景の壮大さを理解しようとしている間、そのありえない大陸の他の場所では、他の運命がすでに動き出していた。大きな盤上は整えられ、駒は進み始めていた。
ライトニングは部下と共に広い木の枝の上を歩いていた。その青い瞳は穏やかで、遠く、彼だけが理解できる計算の中に失われていた。
ファイアは、木々の梢の上にそびえる白く冷たい山々を眺めていた。その唯一の緑の目は底知れない光を宿し、荒涼とした風景の静かな証人だった。
カイトは荘厳に行進していた。彼と部下たちの足音のリズムが、静かな世界で唯一の拍子だった。
ラファは心配そうにブリザードを見ていた。黒髪の若い女性は視線を返さなかった。その金色の目は異常な空に固定され、まるで奇妙な宇宙の秘密を解読しようとするかのように、分析し、計算していた。
高い枝に座り、偽りの無頓着さで足をぶらぶらさせながら、レインは湿度を感じ、大気を本のページのように読んでいた。
シリウスは、部隊の先頭を行進していた。顎を上げ、傲慢で自信に満ちた笑みが唇に貼り付いていた。
そしてカインは立ち止まり、彼らが越えてきた螺旋状の山々の山脈を眺めていた。記憶と義務の中に失われた、銀の彫像。
遠く、灰褐色の鎧と赤いマントをまとった男が、小さな丘を登っていた。その浅黒い肌と長い黒髪が、金属と対照的だった。眼下では、同様の服装の騎士たちが静かな効率で野営地を解体し、出発の準備を整えていた。
乾燥した暑い土地、空気が震える場所で、黒い鎧とマントの女性が、彼女の艦隊が進むのを見ていた。彼女の王国の赤い紋章は、彼女の背中で血の染みのようだった。彼女の顔は冷たく、無表情で、堂々としており、彼女の小さな船と黒い騎士たちは金属の疫病のように動いていた。
何百メートルもそびえ立つ岩々の森で、短い灰色の髪の女性が、暗いロボットのような鎧に包まれ、彼女の兵士たちを見ていた。彼らは巨大な人型の存在で、その体は青と紫の光が関節で脈打つ暗い金属でできていた。頭には、顔を隠す巨大な平たい円盤があり、そこではいくつかの円形の光だけが輝いていた。彼らは灰色の地面を行進し、彼女は特に一人の男を見ていた。彼は同様の鎧をまとい、ヘルメットが顔を隠していた。彼は魂のない抜け殻のように、ただ前だけを見ていた。
そして、穏やかな平原、風が孤独な石造りの小屋に当たる場所で、一つの人影が立っていた。灰と紫の鎧をまとい、奇妙なヘルメットが顔を隠し、そこからは緑色の光を放つ小さな穴が開けられていた。彼の白い髪が風に舞っていた。彼は行進していなかった。彼は指揮していなかった。彼はただ、すべての者が、異なる道を通って向かっている場所を見ていた。
彼は、その中心を見ていた。
そしてその中心、五人の瞳に輝く光、彼らの目標――黄金の大都市。
水平線上にあっても、その壮大さは他のすべてを矮小化するほどだった。円形に配置された高い建造物は、朝の太陽の光を反射し、虹の色と混じり合う黄金色だった。
五人は、ついに彼らの旅を始めたのだった。
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