第14話「守護者の帰還」第一部
空気は焼きたてのパンと、甘い葡萄酒の香りがした。午後の陽光を浴びてキラキラと輝く明るい石で造られたその街は、活気ある通りと花咲き乱れる広場が織りなす迷宮のようだった。赤い屋根の上では、教会の鐘の音が、あてもなく駆け回る子供たちの笑い声と混じり合い、純粋で屈託のない喜びの旋律を奏でていた。遠くには、その平和の守護神であるかのように、大きな白い城壁がそびえ立っている。
その生き生きとした絵画の中心を、二つの人影が歩いていた。彼、エイドリアンは、茶色の髪を持ち、その瞳は遊び心に満ちた優しさで溢れている。彼女、オヴェリアは、短い金髪で、その存在だけで周りの世界を和ませるようだった。
「…それで、あの値段で買わなければ、一年中水を飲む羽目になりますよ、と彼に言ったのです!」エイドリアンは、大げさな身振りで自慢げに語った。「彼はすぐに折れました。私は優れた商人でしょう?」
隣を歩くオヴェリアは、クスクスと口元を手で覆って笑った。「ええ、もちろんですわ。この地方で最も恐れられている葡萄酒の交渉人ですもの」
彼が彼女を見つめると、その笑みはより深く、より誠実なものへと変わった。彼女をただの連れ合いとしてではなく、彼自身の世界の中心として見つめる眼差し。彼女もまた、その視線を返し、その青い瞳には同じ献身が映っていた。
「あなた、オヴェリアさんがここに来てから、すべてが本当に素晴らしいものになりました…」彼は、不意に穏やかな声で打ち明けた。
彼女は立ち止まり、その笑みを一層広げた。「それは、あなたが優れた商人だからですわ。葡萄酒は勝手に売れていきますし、私は何のお手伝いもする必要がありませんもの」と彼女は冗談を言い、プイッと顔をそむけて頬を膨らませた。「ふんっ!」
「はは…すみません…」彼は照れくさそうに笑った。だが、その軽やかさはすぐに消え、彼の表情は真剣なものへと変わる。彼は彼女の前に立ち、その両手を取った。その決意に満ちた顔つきの中にも、瞳の情熱は決して揺るがなかった。「オヴェリアさん…あなたの御両親が街に来られたら…」その言葉の間には、彼女の心臓を高鳴らせるほどの重みがあった。「…私は、彼らにあなたの手を頂けるよう、お願いするつもりです!」
彼女は、いたずらっぽく首を傾げた。「まあ、何をお願いするのかしら…?」
「あ、あなたの…て、手を…」彼はどもり、顔は一家の葡萄のように真っ赤に染まった。
その様子に、彼女の澄んだ笑い声が弾け、通りに響き渡った。
あの日々…
記憶が、穏やかな川の流れのように溢れ出す。広場で子供たちを追いかける二人。牛の乳搾りを手伝う彼女の、小さくも力強い手。太陽の下で葡萄を摘む甘い香り。そして、大きな木樽の中で冷たい果肉を踏みしめ、紫に染まった足で笑い合った感触。彼の家族との、騒がしくも温かい食卓。
私が生きるなど、決して思わなかった日々。武器であり、道具であった私にとって…あの日々は…私の人生で、最高のものだった…エイドリアン…
そして、鏡が砕け散るように、優しく暖かかった街は…
炎。
空気を引き裂く悲鳴。肉の焼ける匂い。舌に残る灰の味。死。血。そして、炎、炎、**炎!**すべてを飲み込み、記憶を灰に変えるオレンジ色の激情。
「…お前のせいだよな?」
彼の顔は今や絶対的な絶望の仮面となり、その瞳の非難は、炎そのものよりも熱く彼女を焼いた。
ミッカは、記憶の虚空に浮かびながら、そのすべてを見ていた。
「どうして?」彼女は闇に向かって囁いた。
その隣に、一つの姿が形を成した。完全な鎧をまとったアルマが、時が止まった炎上の光景を見つめている。彼女はミッカの方を見ず、その視線は膝をつくエイドリアンの姿に釘付けになっていた。アルマは時を歩み、あの日の若き自分の姿を通り過ぎ、愛し、そして失った男の前にひざまずいた。
「お前が知る必要があるからだ」アルマの声は痛みのこだまだった。「私の、最大の失敗を見るがいい」
「これが、あなたの最大の悪夢なの?」ミッカは、その悲劇の重みを自分のもののように感じながら尋ねた。
アルマは立ち上がり、ついにミッカの方を向いた。その顔は、抑えられた感情の戦場だった。「三年も前のことだ。私は潜入任務でこの街に送られた。この街の支配者たちは、我らの属国でありながら、敵国であるエセルガルド帝国と共謀していた。私の仕事は単純なものだった…調査し、裏切りを確証すること」彼女の視線がエイドリアンの幻影に彷徨う。「だが、私は彼と出会い…そして初めて、私は…生きた。彼を愛していた…だが、その愛が私の目を曇らせた。裏切りを、間に合うように止めることができなかった」
記憶が、目まぐるしい速さで進む。燃え盛る街。帝国の襲撃。そして、地面に倒れるエイドリアン。彼の体の下には血だまりが広がり、喉は切り裂かれていた。その手には、彼女が贈った短剣が握られていた。天騎士アルマは、命の消えた彼の体を抱きしめ、声にならない叫びが喉の奥で詰まっていた。
「あの日…私は誰も救えなかった…彼を、救えなかったのだ…」
アルマはその光景を見つめ、悪夢が心の中で無限に繰り返される。「だが、なぜこれを見たかった、ミッカ?」
ミッカの顔には、闇の中の炎のような決意が宿っていた。「あなたが言ったから。『今の自分が誰であるかを理解するために、過去の私だった者を受け入れなければならない』と」
「ミッカ…私の力は、この器ではもう尽きかけている。以前のように、制御を奪うことはできん…」
「わかってる」ミッカの声は揺るがなかった。「だから、戦うのは私。そのためには、すべてを知る必要がある!」
ミッカの覚悟は、自然の力そのものだった。アルマは彼女を見つめ、その疲れた瞳に初めて、純粋な感嘆の光が宿った。そして、悲しげな笑みを浮かべた。「お前は、このすべてに耐えられない可能性が高いぞ」
「構わない!みんなが外で戦ってる!私は、やらなきゃいけない!」
アルマは近づき、その幻影の手でミッカの顔を包んだ。その感触は虚空のように冷たいが、魂から来る温もりが宿っていた。「…わかった、私の愛しいミッカちゃん…見せてやろう…」
◇ ◇ ◇
宮殿の広間の空気が、力でパチパチと音を立てた。赤い炎がアイアンの周りを渦巻き、その両手に脈打つ力の球体となって集束していく。彼の頭上では、マグマと憤怒の生き物である炎のエレメンタルが、声なく咆哮していた。
「終わりだ!」アイアンは叫び、レグルスとダイアンヤを焼き尽くさんと力を解放した。
ズウウウン!
黄色の閃光が、彼らの間の空間を断ち切った。
ヒュッ!
認識そのものを超越する瞬間、一人の少女がアイアンの真正面に現れた。彼女の小さく白い手は、すでに彼の顔に押し当てられていた。その顔には表情がなく、ただ一点に集中した虚無が広がっているだけだった。状況におけるすべての恐怖は、アイアンの瞳に凝縮されていた。冷たい手が肌に触れたことを認識し、その目は純粋な驚愕と――信じられないという感情で、大きく見開かれた。
「ミラーズ・バンド!」
その叫びは乾いており、絶対的な命令だった。鏡の表面のような半透明の盾が、アイアンの周りに具現化する。彼が放った炎の球体は障壁に跳ね返り、作り手自身へと襲いかかった。内部での爆発は、耳をつんざくようだった。鏡のドームが震え、**パリン!**と砕け散った。
少女は自らの魔法の衝撃波で後方へ飛ばされたが、まるで踊るように軽やかに、従兄たちの隣に着地した。
「アルマか!?」レグルスが、信じられないというように叫んだ。
「お姉ちゃんじゃないよ、レグルスくん!」彼女は息を切らしながらも、小さな笑みを浮かべて答えた。
「お…姉ちゃん…?」彼は、その言葉が奇妙で、同時に懐かしく響くのを感じながら繰り返した。
「ミッカちゃん!」ダイアンヤが彼女のそばに駆け寄った。「大丈夫!?」
ミッカは振り返り、その優しい眼差しと安堵の笑みを友人たちに向けた。だが、その平和は束の間だった。
爆発の中心から、炎のエレメンタルが姿を現し、最後の炎を吸収していく。その後ろで、アイアンが立ち上がった。彼の鎧はボロボロで、体は火傷に覆われているが、まだ立っていた。
「…反射魔法、か…」彼は、痛みと怒りでかすれた声で喘いだ。「…単純だが…使い方次第では強力だな…」
(クソッ!エレメンタルがダメージを吸収したが、マナが…俺のマナがほとんど残っていない…!サンダー…あのクソ女!)
『彼は弱っている』アルマの声がミッカの心に響いた。混沌の中の、穏やかな導き手。『マナは尽きかけているが、その怒りが彼を危険にしている。まだ竜の力は使えるはずだ。気をつけろ』
「わかった!」ミッカは答え、その身構えは即座に戦闘態勢へと変わった。
「誰と話して…」レグルスが尋ねかけたが、その言葉は遮られた。
アイアンの拳がギリッと握りしめられる。彼の体は、炎そのものよりも熱く燃え盛る怒りで震えていた。
「クソが!クソが!クソがああ!このクソアマアァァァ!」彼の声は、獣の咆哮へと変わっていた。「貴様は代償を払う!すべてを破壊してやる!この、取るに足らん村ごと、すべてだ!そして、貴様の首を、槍の先に飾ってやるわ!サンダーッ!」
『ミッカ、危ない!』
黒い金属の杭が、彼の体から爆発した。もはや狙いを定めた攻撃ではない。彼自身の魂の起爆。何百、いや何千もの杭。細く、太く、長く、短い刃が、冒涜的な鋼の嵐となって空を切り裂き、廃墟と化した広間の隅々までを満たした。まだ立っていた柱は粉々に砕け、すでに破壊された床は再び穿たれ、クレーターの上にクレーターを重ねていった。
終わりだった。
宮殿の天井が、崩れ始めた。巨大な石の塊が落下してくる。その混沌の中を、一本の黄色い稲妻がジグザグに駆け抜け、死をミリ単位でかわしていく。ミッカは、超自然的な速さで動き、すべてが崩壊する前にダイアンヤをそこから引きずり出そうと、彼女の隣にたどり着いた。
「アーニャちゃん、行くよ!」彼女は叫び、友人の腕を掴んだ。
だが、ダイアンヤは動かなかった。
彼女の体は硬直し、その赤い瞳は広間のとある一点に釘付けになっていた。怒り、決意、心配…その顔を彩っていた感情の渦は消え去り、今はただ、純粋で絶対的な恐怖の、空っぽの仮面があるだけ。彼女の顎がガクガクと震えるが、音は出なかった。
ミッカは、彼女の視線を追った。
広間の片隅、破壊が最も激しかった場所で、一つの人影が宙に浮いていた。何十もの黒い杭に貫かれ、壁の残骸に縫い付けられるようにして。ケンジだった。彼の体から、血がゆっくりと流れ落ち、淡い色の石畳の上で、鮮やかで、恐ろしいほどのコントラストを描いていた。
その時、叫び声が上がった。それは人の声とは思えず、ダイアンヤの喉と、現実そのものを引き裂くような音だった。
「パパアァァァァッ!」
◇ ◇ ◇
階下、村では、混沌が支配していた。負傷者を運ぶ『大騎士』たちを手伝っていたミッコとテセウキは、その叫び声を聞いた。そして、さらに恐ろしい音が、山に響き渡った。石が砕け、土台が崩れる音。
宮殿、彼らの村の心臓が、崩壊していた。巨大な黒い鉄の杭が、その内部から建物を引き裂き、彼らの故郷の象徴である建造物全体が、石と塵の雪崩となって崩れ落ちていく。
「おいおいおいおい、レグルスたちは、上で何やってんだよ!?」テセウキは、純粋な絶望の中で叫んだ。彼の声は、破壊の轟音の中に吸い込まれて消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます