【40,000PV突破御礼】古医術で診療所やってたら医術ギルドに潰されそうになり、闇バイト先が魔王軍で魔族たちに溺愛されてます(R15)
第40話 ただ診ただけのつもりが、魔王の娘が甘えと色気で攻めてくるんだが!?
第40話 ただ診ただけのつもりが、魔王の娘が甘えと色気で攻めてくるんだが!?
夕方、診察室。
窓の外には朱の残滓が滲み、診察室の机上に置かれた薬草の影が長く伸びる。
俺は指先で脈を探りながら、リリスの瞳の奥を覗く。
静かだが、深い湖底に赤い澱が渦巻くような気配があった。
「……夢見の薬を常用していたのか?」
「ええ。飲まないと眠れなかったの」
淡々と告げるその声の奥に、長い孤独の湿り気が潜む。
「常用すべき薬じゃない。だが、いきなり中止はよくない……少しずつ減らそう」
「……そう。先生がそう言うなら」
「誰も止めなかったのか?」
「誰も私には関心がないの。魔王の娘という以外に価値はないから」
「魔王にはこの間、世話になった。穏やかな方だな」
「……あなたには、そう見えるのね」
リリスが意味ありげにふっと笑う。
瞬間、室内の空気がわずかに硬くなった。
俺は静かに煎じ薬を調合し、淡い香りが室内に満ちる。
「これは気分を穏やかにする。まずはこれで……あとは急がず治療をしよう」
リリスが意外に大人しく煎じ薬を受け取ると、小さく微笑んだ。
「美味しいわ」
その笑みを見届けてから、俺は小さく息を吐く。
患者としてだけ接するべきだと頭では理解しているのに、胸の奥では何かがざわついていた。夜が来れば、この感情はさらに形を変える――そんな予感が拭えない。
***
夜、診療所の客間。
「……ごめんなさい……いや……壊れる……せん……せい……」
ふと苦しそうな声を聴いて、リリスが寝ているはずの客間の扉を開ける。
リリスは浅い呼吸で寝返りを打ち、かすれた声で夢を追っていた。
額の汗を拭い、肩を支えて起こす。
「リリス……大丈夫か?」
怯えた瞳が焦点を結び、俺の姿を捉えた。
「せ……んせい……私」
「大丈夫、ここは安全だ」
落ち着かせるように、背中をポンポンと叩く。
「先生、私……ずっと、ここにいていい?」
その一言に、胸奥へ重い圧がのしかかる。
逃げ場を塞がれたような感覚に喉が鳴る。
抗う間もなく頷くと、リリスの瞳が異様に光を帯びた。
魅入られるような赤い瞳。
怖い、それなのに甘く絡みつくような艶があった。
視線を外せず、身体がじわじわと熱を帯びる。
指先を取られ、引き寄せられ――唇が触れそうな距離で、吐息が頬をかすめる。
甘い香りが鼻腔を満たし、心臓が跳ねた。
「……リリス」
片方の手で肩を抑えて制止しようとした矢先、リリスが俺の手を自らの胸元に押し当てた。
指先から柔らかな感触と熱が伝わり、トクトクと早めの鼓動が響く。
「ほら……わかるでしょう? 先生のせいで、私の心臓が、こんなに……」
吐息が耳朶を撫で、全身が粟立つ。
距離が近すぎて、理性の糸が音を立ててほつれていく。
息が詰まるほどの間。
そのとき――
ドアが破られるように開いた。
「せんせぇ、ずるい!」
ラナが飛び込み、頬を膨らませる。
「……リリス様といえど、説明を求めたい」
アスリナの声は低く冷ややか。
「患者の立場を利用するなど、どうなのかしら」
エリシアが眉を寄せる。
最後に、ヴェレムが笑みを含ませて首を傾げた。
「ふふふ……混ざってもいいかしら?」
室内の空気が一瞬で修羅場の香りを帯びる。
リリスはゆっくりと息を吐き、布団の端を握った。
「……騒がせて、ごめんなさい。今日はもう、寝るわ」
その声音は、先ほどまでの熱を微塵も感じさせなかった。
月が雲に隠れ、部屋は静けさだけを残した。
俺は大きくため息をついた。
患者を診て、平穏に暮らしたいだけなのだ。
いつになったらその日が訪れるのだろう?
***
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