第3話 魔王軍です。こちらへどうぞ♡

「まずは、テストをさせてもらいます」


 面接官にして夢魔のヴェレムは、整った顔をほとんど動かさずに続ける。


「獣人族の近衛兵。腕の腫れと発熱、筋肉痛が続き、魔法薬でも改善しない。この薬が、実際に使われた魔法薬です」


 俺は小瓶を受け取り、栓を抜いて鼻を近づけた。

 匂いを嗅いだ瞬間、ピンときた。

 よく雑に使われている万能薬セラノクス。でも──間違って使えば、毒にもなる。


「筋繊維が魔力で自己増殖してる。外部からの刺激で再生暴走を起こす体質だな」

「当たりです」

「抑制効果のある“白茴香”と“氷羅草”を混ぜた煎じ薬が効くはずだ」

「……お見事。これは、先日トップ軍医が診断に難儀した症例でした。まさか、これほど古医術に通じているとは」


 ——古臭いと笑われた学問が、今、誰かの役に立っている。

 そんな当たり前のことが、少しだけ誇らしかった。


 医術大学の時代。


 ——古医術の講義なんて、「古臭いだけのオカルト」だと思っていた。

 なのに、あのとき処方した煎じ薬が、誰にも治せなかった患者に効いた。


「お前の薬は、本質を突いている。古いかどうかは問題じゃない」


 患者を連れてきた、深紅の瞳の黒衣の男。その耳は、わずかに尖っていた。

 ——その日から、俺は寝食を忘れて古医術に没頭するようになった。


「セレン様、こちらへ。ご案内します」


 そう言って立ち上がった彼女の表情は、面接官のそれではなかった。

 まなざしが、ふと熱を帯びた気がした。

 まるで──惚れられた、みたいに。


 ……いや、まさか。そんなわけ、ないだろ。

 なのに、背筋にじんと甘い熱が走った。


 導かれた先は、異様に静かな回廊と、封印のような扉。


「魔族専用の……《秘密診療所》です」


 入ろうとして、足が止まる。


 ……魔族を治すなんて、敵に手を貸すようなものだ。

 人間の側にいられなくなるかもしれない。

 俺は、間違えたんじゃないか?

 まだ、戻れるだろうか。


 ……いや、もう遅いのか?


 心を読んだように、ヴェレムがふとこちらを振り返る。

 金色の目が一瞬だけ蛇のような縦長の瞳孔へ。


「……今さら、逃げられると思います?」


 その声は、どこか優しくさえあった。


***


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https://kakuyomu.jp/works/16818792435685695540


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