2話:俺の能力

「・・・さてと、頼まれたからには気合い入れて魔王城に行くとするか」


城を出てから30分、長い間城下町の入り口で理性と話し合いをした末、俺は自分自身で無理やり気合を入れて、旅立とうと目線を前に向ける。

なぜかというと、この受け入れ難い現実から目を背けるためだ。

目線を前に向けると、そこには深い森が広がっていた。

城下町の目の前だというのにも関わらず、薄暗そうなその森の入り口には、看板があった。


「えーっと・・・なんて書いてあるんだ?」


俺は看板に近づき、書かれた文字を読む。


「・・・魔王城、この先1.5km」


俺は思わず目を擦り、もう一度看板を見るが、何回見ても1.5kmと書かれている。

1.5kmとは、だいたい俺の足で歩いて30分もしないで着く距離だ。

城下町からそんな近い距離に魔王城があるなんて、誰が考えるのだろうか。


「・・・まあ、近いに越したことはないか」


この訳のわからない状況に諦めながら、早速目の前の森に足を踏み入れようとした時、ふと俺には一つ疑問が浮かんだ。


「・・・俺、戦う手段なくないか?」


そう。俺は皇帝からは、「話をして連れてくるように」としか言われておらず、戦闘になった場合のことを何も伝えられてない。

どうしようかとその場でしばらく悩んだ後、1つのアイデアが浮かんだ。


「・・・そうだ!異世界と言ったら能力!何か能力があるはず!」


仲の良い友人たちが異世界漫画が好きで、よく「異世界に転生したいなー」と呟いていた。

その時に話題として「異世界に行ったらどんな能力が良いか」と話していたはず。

つまり異世界に来た自分には、何かしらの能力が使えるはずだ。


「こ、こんなことをするのは少し恥ずかしいけど・・・な、なんかでろーっ!!!」


そう言いながら俺は自分の目の前に勢いよく手をかざす。

だが何もおきなかった。


「・・・ま、まあそうだよな。わかってた、俺はわかってたぞ!」


自身の顔と耳が熱く赤くなるのを感じる。


「うーん・・・ちょうどシャーペン持ってるし、地面か葉っぱに一個ずつできそうなものを書いていって、ダメだったものを消してくか・・・」


そうして俺はポケットに入っていたシャーペンを取り出す。

そして地面に文字を描こうとした時、突然シャーペンがぐにゃりと曲がり始めた。


「うおっ!?なんだこれ!?」


シャーペンはまるで粘土のように丸まり、やがて羽ペンになった。

俺はその状況に驚きが隠せず、思わず羽ペンをその場に落としてしまった。


「な、なんだったんだ今の!?」


落としてしまった羽ペンを拾い上げても、もうぐにゃりとはならず、触り心地も見た目も機能も、完全に羽ペンに変わってしまったようだった。

その状況に俺は驚きつつ、少しずつ嬉しい気持ちが込み上がってくる。


「なんだかわからないけど・・・これが俺の、能力・・・異世界に来たら本当に能力ってもらえるもんなんだな」


そしてしばらくした頃、俺は落ち着きを取り戻し、一つ思うことがあった。


「・・・この能力、何に使えるんだ?」


そう、その後色々触ってみたところ、ついさっきシャーペンは羽ペンになったが、木や地面、葉っぱや小石を触っても何も起きなかった。

つまり、この俺の能力が使えるものは限られているということがわかった。


「なかなか難しい能力をもらったな、俺・・・こういう能力って、神様が目の前に現れて、能力の説明をしてくれたりするものじゃないのか?」


だがしかし、今までにこの世界に来てから神というものを見たことがないし、そもそもいるのかすらわからない。


「・・・まあ、魔王城にいくまでに発動するものを見つけておくか・・・」


俺の能力はおそらく人助けに向いていないし、最強という能力でもない気がする。

だがもし、魔王城で戦うことになったら大変だ、それまでにしっかりと扱えるようにしようと俺は考える。


「あの・・・」


 その時、森の方から声が聞こえた。

 俺は咄嗟にその方向に振り向く。

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