第42話 巻き込んで
お互い抱きしめ合い、存在を確認し合う二人。
離れていた期間は一か月にもならない。なのに、何年も離れていた。
そんな気がする二人は、お互いの温もりをかみしめ、縋る。
すると、一華が涙を拭きながら体を少し離して彼を見上げた。
「あの、黒華先輩。私……」
笑みが浮かぶ彼の表情を見た一華は、伝えたい事、聞きたい事。
沢山あるが、言葉がまとまらず繋がらない。
目を泳がし、言葉をまとめないとと焦る。
そんな一華の心情を察した優輝は、いつものように温かい手を一華の頭に乗せ、優しく撫でる。
「ゆっくりでいい。今は、まだ時間がある」
「…………? 今は?」
優輝の言葉に引っかかりを覚え、一華は咄嗟に問いかける。
彼は「あーっと」と、困ったように眉を下げ目を逸らした。
「黒華先輩、大丈夫ですか? まさか、どこか体に痛みなどが――」
聞いた時、一華は”しまった”と咄嗟に口を閉ざす。
だが、優輝には一華の問いかけがしっかりと届いており、悲し気な笑みを浮かべ口を開いた。
「心配してくれてありがとうな」
その言葉の先に続く言葉を、一華はわかっていた。
わかっていたため、すぐに反応出来た。
「俺はだいじょっ――……?」
優輝が言い切る前に、一華が彼の口を左の人差し指で塞いだ。
何故塞がれたのかわからない彼は、目を丸くし、口を塞いでいる一華を見下ろす。
「花吐き病、進行してしまいますよ?」
「っ…………」
一華が言うと、優輝が目を開き、視線を逸らす。
口を塞いでいる一華の手を優しく包み込み、そっと離させた。
「やっぱり、知られていたのか」
「偶然ですよ。調べようとしたんですが、黒い薔薇の情報は元々少ないようで」
「そうみたいだな。だから、まぁ。言い伝えの女神を拝みにここまで来たんだけどな」
言うと、優輝はお社へと目を向けた。
「確かに。ここで女神様の封印を解けば、何かわかるかもしれない」
「本当に女神様が居ればの話だけどな」
複雑そうな顔を浮かべる優輝を一華は横目で見て、迷った挙句、問いかけた。
「あの、黒華先輩は今までどこにいたんですか? どうやってここについて調べたんですか?」
「花吐き病が発症した時、運悪く姉貴に見つかってな。自宅療養をしていたんだ。家から出る事は一切禁止されちまってな。だが、家にいる時間が増えたんで色々薔薇について知らべていたら、偶然にも言い伝えについて書かれているサイトがあって。本当か嘘かはわからんかったが、来れば分かるだろうと。姉貴の目を盗んでここまで来たんだ」
言いながらも優輝は首を傾げ、何かが腑に落ちないというような表情を浮かべた。
「なにか気になる点があるんですか?」
「あーいや。姉貴、俺をわざと外に出したような気がするんだよな。いつもなら俺がしっかりと家にいるか時間を見つけてはメールしてきていたのに、今日は途中までしかなかった。ちょうど、学校が終わった時間帯からだな。何かあったんだろうかと思ったが、これをチャンスにしようと思ってな。抜け出してきた。まさか、お前がいるなんて思ってなくて正直ビビったけど。結果オーライだ」
肩を落とし言った彼の言葉に、一華は朝花のメール内容を思い出す。
メールでは、優輝を監禁すると言っていた。
だが、今の優輝の話では監禁ではなく療養。
家からは出せないようにしていたみたいだから、監禁と言う言葉もあながち間違えてはいない。
一華は朝花の想いを今、知る事となった。
朝花は、優輝を監禁させる気はさらさらなかった。
だが、周りの教師達は一華と優輝を引き離さねばならないと言っていた。
優輝の気持ちを一番に考えたかった朝花は、タイミング悪く花吐き病を発症させた優輝を療養と言う単語を使い、自身の家に監禁させた。
もちろん、親には連絡済みであろう。
今回、優輝を外に出すように仕向けたのも、一華達が動き出したのを放送で知ったから。
一度、一華達を止めようとしたのは、まだ悩んでいたから。
これが本当に正解だったのか、一華達に危険な事をさせてもいいのか。
だが、それは一華と曄途の言葉によりすべてが吹っ切れ、自分の考えは正しかったと思え一華達に手を貸した。
一華はそう考え、顔を俯かせる。優輝はどうしたんだと顔を覗かせると、彼女の微かに上がる口角を見て目を丸くした。
「何かあったのか?」
「いえ、黒華先輩は、本当に大事にされているなと、再確認が出来ただけですよ」
「なんだぁ? それ…………」
一華の返答に納得出来ていない優輝は唇を尖らせ、ふてくされる。
そんな彼に、一華は顔を上げクスクスと笑った。
「黒華先輩、今回の件が終わったら、少しお時間いただいてもいいですか?」
「ん? それは問題ねぇが、どうしたんだ?」
「いえ、もう、離れ離れにならないための約束ですよ。黒華先輩はまた、何も言わずに私の前から姿を消しそうですし」
「俺を何だと思ってんだよ…………」
はぁとため息を吐き、一華はまた笑う。
彼女がクスクスと笑ったため、優輝も仕方がないというように口角を上げ、やれやれと肩を落とす。
再度目を合わせると、二人は同時にお社を見た。
古く、今にも崩れ落ちてしまいそうな小さなお社。
この中に、女神が封印されていると聞いて来たが、改めて見てみると疑ってしまう。
こんな古く、ぼろぼろなお社に女神が封印されていると誰が思うか。
一華は眉間に皺を寄せ、お社をまじまじと怪しむような目で見る。
そんな中、優輝がお社に近付きドアに触れた。
埃が付いており、撫でたところだけ色が変わり、ぼろぼろと木くずが落ちる。
お社を見ている優輝の隣に立ち、彼の顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか?」
「いや、本当に女神が封印されてんのか怪しくてな」
優輝も一華と同じく、こんな古いお社に女神がいまだに封印されているなんて思えていなかった。
それでも、二人にはもうお社のドアを開けるしか道は残されていない。
お互い顔を見合せ、一華が最初に頷く。次に、優輝が小さく頷いた。
「んじゃ、開けるぞ」
「はい」
優輝がお社のドアに手を伸ばし、勇気を振り絞って勢いよく開いた。
一気に開かれたことにより、お社に付着していた埃が舞い上がり二人は思いっきり咳き込んでしまった。
「ごほっ!! げほっ!!」
「ごほっ!! おい、本当に女神が封印されてんのか!?」
怒り交じりに叫び、お社の中を見る。
そこには、予想外の物が入っており二人は唖然とした。
中には小さい女神の像がポツンと置かれていた。
手は胸元で祈るように組まれており跡ように見え、一華はそっと手を伸ばした。
「これって、本物なのでしょうか」
「それを確認するには、封印を解かんとならんだろう」
「封印を……解く……」
横にいる優輝を見上げ問いかけると、顎に手を当て考えている彼と目が合う。
まさか目が合うとは思っておらず、一華はさっと目を逸らし女神の方を見た。
頬を少し染めている彼女を見て、優輝はいたずらっ子のように笑いだした。
「なんだ? 真剣に考えている俺の顔に見惚れてたか?」
「ちょ、今そんなこと言っているっ――」
いつもの調子でからかってくる優輝に、一華も返そうとするが、一度言葉を止めた。
今まで会えなかった、今のように話せなかった。
不安があるのに、いつもの調子で話す事が出来る。
ワクワクすらしている自分に気づき、一華はほくそ笑む。
「だったら、悪いですか?」
「っ、え?」
「見惚れていたら、悪いですか?」
強気な表情で言い切った彼女の言葉に、優輝は目を開き、意外な言葉に顔を赤く染めた。
驚いて言葉が出てこず、赤くなった顔を隠すように逸らし手で覆った。
彼の様子を見てくすくすと笑う一華は、目を細め女神の像を見た。
「女神様はただ、今の私達のように過ごしたかっただけなんだと思います」
封印されてしまった女神を憂うように言う彼女を、優輝はちらっと見た。
「女神様はただ、好きな人と共に居たかっただけだと思うんです。好きな人と話したい、遊びたい、一緒に居たい。だた、その想いが爆発してしまって、好きな人に呪いをかけてしまった。今の私も同じだから、少しだけわかります」
「同じ?」
「はい。私は紫炎先生、真理、白野君、侭先生を巻き込んで、黒華先輩を探して今、ここに居ます。みんな、これからどうなるかわからないのに、ただ私が黒華先輩に会いたい。その気持ちだけなのに、みんな、協力してくださったんです」
目を伏せ、女神の像に触れる。
すると、女神の像の瞳が、微かに赤色に光る。
「っ、え、何?」
「今、一華に女神像が反応した?」
二人は顔を見合せ、再度女神像を見る。
おずおずと、もう一度触れようと一華が右手を伸ばそうとした時、緑の弦がぴくっと、動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます