第22話 「舞台」

 雷都の外れ。

 寂れた工場跡地の廃墟に、月光が差し込む。


 古びたコンクリ壁に背を預けた真祖は、周囲に気配がないことを確かめると。

 ゆっくりと螺旋を纏い、血で造ったローブを解いた。


「……素敵な夜だったわね。ちょっと熱くなりすぎたかも」


 その金髪は夜気に揺れ、ルビー色の双眸が、静かに宙を見据える。


 名を、

 雷都高校に来た転校生にして──忍者たちから“赤い真祖”と恐れられる存在。


 昼間の彼女は天真爛漫なキャラを演じている。

 だが今の顔は妖しさをまとっており、そしてどこか、人間らしい疲れがにじんでいた。


「はあ〜。本当に楽しかったし、終わるかと思ったわ。でも、リアル・ジャパニーズ・ニンジャは本当にカッコいいわね」


 ぽつりと呟き、首を傾げる。


 ──強い。

 ──美しい。

 ──恐ろしい。


 挙動ひとつで、誰もが彼女を「上位種」と認めるのは間違いないだろう。


 そんな真祖が思い出すのは、鬼から造られた外装を纏い、命を賭し、その首を狩らんと挑んできたあの少女。


「……まるで、ヤイバーみたい」


 薄く笑みを浮かべながら、エリザは鉄屑に腰を掛ける。

 偽りを脱ぎ捨てた“本性”を見せた彼女は、まるで玉座に座する姫君のようだ。


「ホワイト・ニンジャ。あなたを倒さなきゃ、私はハッピーエンドを迎えられないみたいね」


 あの白い忍者。

 仮面の下の素顔も、名前も知らない。

 でも──戦場で魅せた、その在り方は。


 彼女が今までに出会った、どんなヴァンパイアハンター、どんな人間、そして……どんな生物とも違っていた。


「日ノ本を守る者……か」


 ふ、と微笑がこぼれる。

 憎しみでも、敵意でもない。

 むしろ──眩しさ。


 ……だからこそ、わかってしまった。

 あのニンジャが、この雷都を守る限り。

 私の“理想”は決して叶わない、と。


「ウサギよりも、彼女はオオカミね。日本にとっては聖獣、ヨーロッパでは悪の権化」


 ならば狩らなければ。

 目を閉じて、額に指を添える。

 闇の王として生まれたならば、成すべきことは決まっている。


「この雷都を支配するわ。ジャパンで一番大きな街を……ね」


 舞台の幕は上がったばかり。

 彼女の出番は、まだまだ終わらない。


「その暁には──」


 立ち上がり、子守唄を口ずさみながら、くるくると舞ってみせる──そして。


「──ずっと愛してあげるから。


 物語は、“続く”。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る