第11話 なんで暗黙の了解ってあるの?

 ただ教室の空気は苦手だ。

 空気は、喋ることも歩くこともできないくせに、時として人生を狂わせてくるほどの質量があるのがタチ悪い。


「ねえ、ましろー」


 ほら、今朝も空気に操られたクラスメイトが私を呼んできた。


「どうしたの……?」

「正直に言ってほしいんだけどさ。エリザベートさんって、どうなん?」


 やっぱりそうか。ニヤニヤ、ヒソヒソと、秘密を空気に溶け込ませるように聞いてきた。


(正直に、か)


 一瞬、答えに詰まった。

 それを察した女子の目は笑っていない。


「良い子だよ。明るいし」

「それは知ってんだよ」


 語気が強いなマジで。


「で、でもほんとに悪い子じゃないし」

「いやさー。ぶっちゃけ電波入ってない?」

「そーそー。明らかにヤバいじゃん。常識知らず、っていうの?」

「自己紹介でオタク趣味はなすってのも、ねー?」


 言葉をはぐらかそうとしているが、顔に張り付いた悪意は隠せていないらしい。

 はぁ……なんで嘘をついてまで、嫌いを共有しないといけないんだ。

 だから私も嘘をついて、表モードでテメーらと接してんだよ。

 ならお前らの推しも否定してやろうか? ジャニーズや韓流ってなぁ……いや、やめとこ。こっちが虚しくなる。


「……それでも、私はエリザさんと友達でいたいな」


 ここは穏やかにいこうじゃないか。笑顔で返してみたが……。


「……」

「……え、どうしたの?」


 何この沈黙。私、なんかミスった?


「聞いた? 、だって!」

「いつの間にそんな仲良くなったの!?」


 あ、ミスったわこれ。亡者どもに餌やっちまった。

 本当に人間関係は面倒臭い。地雷を踏んだら針のむしろになる。この空気は嫌いだ。


「じゃあさ、これからも『エリザさん』。のこと、お願いね?」

「だって仲良いんでしょ? ましろならできるって!」

「ましろの優しさ、私たちわかってっから!!」

「は、はは……」


 解放されてからも、連中は私たちの話題で持ちきりだった。

 というか声のトーンが明るくなっているぞ。まるで爆弾を押し付けられてスッキリしているようじゃないか。


 エリザのほうをチラリと見る。やはりというか、鼻歌をうたいながらラノベを読んでいる彼女の周りには誰も寄りつこうとしていない。

 周りも「おい東雲なんとかしろよ」と視線を送っている様子だ。


(──つまり、いいんだな? エリザを独占してもいいんだな!?)


 残念だったな暗黙の了解よ。

 私は大義名分を得た。これで「彼女を孤立させない」、「彼女に話を合わせる」という名目で、四六時中『好き』を語り合えるのだよ!!


「あっ、ましろサン。おはなし、もう良いんデスか?」

「あー、うん。やっぱり人間リントの言葉はダメだね」

そうデスかゴグゼグバ?」


 うん。君を否定する世界よりも、私は一瞬でグロンギ語に翻訳して返せる君が好きだよ。

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